2025/5/1

市民緑地のボランティアが急増!その取り組みと工夫

練馬区(東京都)

みんなの公園愛護会では、地域の人々や公園ボランティアとともに、公園やパブリックスペース・みどりの環境をより良くしようと頑張る行政の取り組みにも注目しています。

今回は、まちなかの緑を守り楽しむ人の輪が広がっている東京都練馬区のお話です。都市に残された民有の樹林地「憩いの森」を保全しながら、地域の中で森を楽しく利活用する団体が最近急増しているという「憩いの森の区民管理」についてご紹介します。

個人も参加できるボランティアの入口づくり】についてもぜひご覧ください!

区とみどりのまちづくりセンターが連携

練馬区では、区内に残る樹林等を所有者から無料で借りて区民に開放する「憩いの森・街かどの森」が45か所開設されており(令和6年度末現在)、同時に区民が楽しみながら森を守り育てる「憩いの森等の区民管理」を推進しています。

憩いの森の区民管理の現状とその支援について、練馬区 環境部 みどり推進課 協働係長 の伊藤啓輔さんと、公益財団法人練馬区環境まちづくり公社みどりのまちづくりセンター みどり事業係 係長 永瀬亜耶子さん、中平工さんにお話をお伺いしました。

みどりのまちづくりセンター(通称:まちセン)は、その名の通り緑やまちづくりに関する区民のためのセンターで、講座やイベント、助成、空き家活用などの相談、情報誌の発行などを行う練馬区の外郭団体です。

(左から、練馬区みどり推進課伊藤さん、みどりのまちづくりセンター中平さん、永瀬さん)

練馬区では、憩いの森の管理や、区民協働花壇など、みどりに関する様々な活動を、区のみどり推進課とみどりのまちづくりセンターが連携してサポートしています。

協定や契約は管理者である区が、団体の運営支援は中間支援組織としてまちセンが行うという役割分担です。

まちづくり活動助成事業などを通して地域の団体や活動をよく知るまちセン。スタッフは現場に足繁く通い、コミュニケーションを取りながら活動団体の状況や課題も把握しています。キャリアの長いスタッフが多く異動も少ないので、顔見知りの関係が築きやすく、地域や団体ごとの特徴に配慮したきめ細やかなサポートができるとのこと。

区にはちょっと言いづらいことや小さな悩みなども、タイムリーに把握することが解決への近道。他の団体の事例を紹介したり、横のつながりでノウハウを共有したりするなど、身近な相談相手となっているそうです。

憩いの森を区民と一緒に維持管理する意義

練馬区内に45か所ある憩いの森・街かどの森をまちなかの貴重な緑環境として守り続けていくためにも、管理は大切。地域住民が関わることで森全体の雰囲気が明るくなり、自然と触れ合える地域みんなの森という親しみも持ってもらえるので、区民管理を推進しています。

区民管理活動の基本は「ゴミ拾い」と「落ち葉掃き」という特別なスキルを必要としない作業が中心です。任意で、低木管理や草地管理、森の魅力を発信するイベントなどが行われています。まずは基本的な清掃活動をしながら、森を観察し、行政と管理団体が一緒に守り育てていくプログラムが用意されています。

区民が森の維持管理に参加することで、森の利活用も充実します。地域の人が森を楽しむ活動をすることで森の魅力が増し、定期的に人が入ることで、不法投棄対策にもなり、地域の理解が得られやすいというメリットもあるそうです。

(憩いの森・街かどの森での活動のようす:提供 みどりのまちづくりセンター)

管理団体を増やすためのアプローチを見直し

区民管理を進めるため、以前は森でイベントを行い、森の利活用に関心の高い人を集めて団体を結成する支援も行っていたそうですが、団体化まで時間がかかることが課題でした。

そこで発想を変え、既に地域でみどりやまちづくりなどの活動をしている団体に広く声をかけるアプローチに転換したところ、これが大成功。既存団体にとっても、新たな活動場所を得て活動の幅が広がっているようで、ここ数年は年間3団体のペースで新しい団体が増えています。

新しいプレイヤーが続々登場!

新しい担い手は、地域でまちづくりのイベントを行う団体や子育て世帯を中心としたグループ、障がい者通所施設を運営するNPO法人、大学の卒業生が集う学友会など様々。森の維持管理に関する知識や経験がないメンバーがほとんどです。

森を舞台にどんな楽しい活動をしようか?森を使ってどのように地域とつながる活動をしようか?など、維持管理だけが目的ではなく、その先の利活用に活動のモチベーションがあるのも新しいプレイヤーの皆さんの特徴でもあるようです。

だからこそ、自由度を大切に楽しく活動できるよう、利活用の支援にも力を入れています。管理団体の皆さんは清掃業者の代わりではないので、任せて終わりではなく、楽しさを創出するための支援に力を入れていることを話してくださいました。

(憩いの森の区民管理には、さまざまな団体が参加している:提供 みどりのまちづくりセンター)

始めやすく、続けやすい支援の形:ステップづくり

森の維持管理は知識や技術が必要ですが、始めやすく、自分たちのペースでステップアップしていけるよう制度設計されているのも、憩いの森の区民管理のユニークなところです。ステップごとに活動内容や受けられる支援が見える化されています。

活動は、ゴミ拾いと落ち葉掃きが必須項目で、その他は団体の意向に応じて契約をします。清掃だけのメニューを作ったのは、はじめの第一歩のハードルを下げ活動を始めやすくするため。契約までの流れや、活動内容、ステップアップについても、チラシでわかりやすく紹介されています。

(憩いの森を守り育む活動グループ募集のチラシ:まちセンのホームページより)

活動を始めるにあたっては、区から団体に対し、清掃用具などの活動物品と、これらの用具類を収納するための倉庫が貸与されるほか、団体の活動情報を地域に向けて発信するための掲示板も設置されます。スタート時に環境を整えてもらえるのはありがたいですね!

また、活動にあたり、専門家による森の自然環境調査が行われるのも特徴的です。高木や中低木、貴重な草本、管理時に注意すべき植物について、調査した結果は図面とリストにしてもらうことができます。保全に配慮した管理の方法、大切にしたい植物や繁茂に気をつけたい植物などの植生調査の結果も提供され、1年を通して森を見る目が養われていくようです。地域の自然に詳しい専門家が見てくれるのは心強いですね。

(森の環境調査を基に、掲示物としてつくられた「森の育み計画シート」:環境保全の考え方、エリアや季節ごとに見られる植物の情報も)

森の維持管理が初めてでも、ゴミ拾いに特別な技術は要りません。タバコ、犬のフン、ペットボトル、落ちているゴミから森の状況も見えてくるそう。専門家調査やまちセンのサポートのもと、まずは定期的にゴミ拾いをすることで森を見て計画づくりの助走期間を過ごすことができるようになっています。

このように、初年度から物品や運営のサポート・委託料が受けられるのは、団体にとっても新しく活動を始めやすいポイントのようです。

知識や技術を高める講座でステップアップと入口づくり

活動をスタートした後は、ステップアップしていくための技術的な支援も用意されています。安全講習会や森の維持管理に関する技術講習を受けることができます。

区がまちセンに委託して運営する区民のための講習「つながるカレッジねりま(通称:つなカレ)ねりまの森維持管理コース」には、樹木管理専攻と草地管理専攻があります。1年間の受講を経て、知識や技術を身につけ、ステップアップの準備が整ったらステップ2の任意活動(低木の剪定や草刈り)に進むことができます。

ねりまの森維持管理コースは、当初、憩いの森の管理団体メンバーが技術向上のために受講することがほとんどでしたが、現在はこれから森で活動を始めてみたいという一般の方からの応募が増えてきました。人気のため、申込者が多い年は選考になるそう。

令和6年度末現在活動中の12団体のうち、多くの団体が講座を受講し、次々とステップ2に進んでいるとのこと。つなカレでの学びに加えて、それぞれの森での活動の計画づくりや、専門家派遣などの支援を受けて、森ごとの状況に合わせた具体的な管理方法のアドバイスを受けることもできるようになっています。

つなカレのみどり分野には、公園や駅前の花壇づくりを学ぶ「コミュニティ・ガーデナーコース」もあります。ねりまの森維持管理コースが、主に憩いの森の管理団体のステップアップという位置付けに対して、コミュニティ・ガーデナーコースは区民協働花壇の担い手の入口の機能を担っていて、卒業後はどこかの公園やオープンスペースでの活動に参加したり、新しく団体を立ち上げるようつなげられているとのこと。

学びの場と地域活動が連動しながら、コミュニティづくりにもつながっているのは素晴らしいですね。

(つながるカレッジねりまの受講生は年度ごとに募集されている)

利活用がセットだからこそ広がる可能性

緑や森が好きでお手入れをする人たちだけでなく、地域で活動できる場がほしくて憩いの森の区民管理に参加する人など新しいプレイヤーも増え、区とまちセンでは森を楽しむ活動の応援も積極的にしています。

これまでに行われた活動は、森での生き物観察会や、鳥の巣箱づくり、貴重種の保全、バイオネストづくり、子ども向けイベントなど多岐に渡ります。さらに新しいプレイヤーたちにより、マルシェ、夜の森を楽しむ会、清掃活動のあとのモルック大会、森の中の園路を使った四輪自転車イベントなど、「こんなことやってみたい!」のアイデアと可能性はどんどん広がっています。

森の利活用は、地域の人への認知や利用率向上、団体のモチベーションアップにもつながっているそう。2024年には各団体が行うこども向けのイベントを集約し、一体的に情報発信する「ねりまの森こどもフェスタ」を約5ヶ月間に渡って開催。区とまちセンのバックアップで、団体の負担を軽減しながら、各地の憩いの森でさまざまなお楽しみイベントが行われました。多くの区民が参加し、初めて森を訪れるファミリー層も多かったようです。

いろいろな人が関わることで、緑好きの人たちだけでは見えなかった使われ方や広がり、価値が創出されていることを話してくださいました。

憩いの森はさまざまな区民が楽しく関わることで、より魅力的な場所として育っていきそうです。

(ねりまの森こどもフェスタ「きたっぱら憩いの森」でモルックを楽しむ皆さん:提供 みどりのまちづくりセンター
(ねりまの森こどもフェスタ「大関山の森緑地」森の素材を使ったクラフト:提供 みどりのまちづくりセンター

【基本情報】

取り組みの名称憩いの森等の区民管理 支援事業
実施自治体練馬区(東京都)
事業の目的個々の森の特性を活かした練馬のみどりの保全・育成に向け、地域住民を中心とした地域活動団体を育み、団体による継続的な活動を実現することを目的としています。

憩いの森を楽しみながら、守り育てよう【憩いの森等の区民管理】
憩いの森や緑地では季節の花や紅葉を楽しんだり、珍しい野草や昆虫を見つけたりすることができます。また、地域の方が森ごとの特性を大切にしながら、野草の保全や樹木の剪定、清掃、イベントなどを行っています。憩いの森を楽しみながら守り、育てる活動に、あなたも参加しませんか?
取り組みの詳細練馬区のホームページみどりのまちづくりセンターのホームページをご覧ください

【練馬区の取り組みについては、こちらの記事もぜひご覧ください!】

取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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