2025/5/9

個人も参加できるボランティアの入口づくり

練馬区(東京都)

みんなの公園愛護会では、地域の人々や公園ボランティアとともに、公園やパブリックスペース・みどりの環境をより良くしようと頑張る行政の取り組みにも注目しています。

今回は、まちなかのみどりを守り楽しむ人の輪が広がっている東京都練馬区のお話です。【憩いの森の区民管理団体急増の取り組みと工夫】に続き、誰でも参加しやすいボランティアの入口づくりについて、お話をお聞きしました。

こちらも教えてくださったのは、練馬区 環境部 みどり推進課 協働係長 の伊藤啓輔さんと、公益財団法人練馬区環境まちづくり公社みどりのまちづくりセンター みどり事業係 係長 永瀬亜耶子さん、中平工さんです。(上の写真左から、伊藤さん、中平さん、永瀬さん)

ボランティアをやってみたい個人が登録「みどりの人材バンク」

たとえば、地域のために何か活動してみたいと思っても、団体を探して所属しなければいけなかったり、新しく始めるにも何人かの仲間を集めて団体登録する必要があるなど、案外ハードルが高く、気軽に始められないというケースも耳にします。

そんな中、練馬区には、やってみたいと思った個人が参加できるボランティア登録制度があります。それが「練馬みどりの人材バンク」です。

みどりの人材バンクは、みどりの活動に参加したい人と活動の現場をつなげる登録制度。練馬区のみどりを守る活動に関心がある人なら、中学生から登録できます。

個人で登録すると、ボランティア活動の募集情報やイベントの情報がメールで届くほか、「こんな活動に参加してみたい」などの相談もでき、ぴったりの活動をマッチングしてもらうこともできます。安心して活動できるよう、個人の費用負担なしでボランティア保険に加入してもらえるのもうれしいポイントです。

(練馬みどりの人材バンクの案内チラシ:活動内容や登録のメリット、申請方法が書かれている)

きっかけづくり、気軽な入口となる制度

みどりの人材バンクは、きっかけづくりの制度で、まずは気軽に登録することで、関心がある人のところに定期的に情報を届ける仕組みです。登録したからすぐどこかの活動に参加してもらうという訳ではなく、受け取った人がやってみたいと思った時に動けるように、情報の集約と整理・発信を行っています。

「ボランティア活動は自分発意じゃないと続かないので、発意を促すような制度がいいねという話を当時の管理職としていました。みどりの活動に少しでも興味があれば登録できるよう、なるべくハードルを下げたいと思い、対象も中学生からにしました」と制度づくりの始まりを振り返ってくださった永瀬さん。

永瀬さんは練馬区からの派遣でまちセンにいらっしゃいますが、区にいた頃「何かみどりのボランティアをしたいんだけど」という区民からの電話がたまたま続いた時期があったそうです。その時に、区内の活動団体を紹介しようにも、数多く存在する団体のそれぞれの活動内容や様子を区が把握できていないため紹介できないという状況に直面し、団体の登録制度とマッチングの必要性を実感。別事業の調査でもみどりの活動に参加したい個人のニーズがあることが見えていたといいます。

活動と人材のマッチングができるよう、団体の登録制度だけでなく、個人が登録できる制度も整える形で、区のオーダーでまちセンが仕組みづくりを行いました。こうして団体登録と個人の登録を両輪とする「みどりの人材バンク」は、2022年(令和4年度)にスタートし、現在まる3年が経過しました。

個人の登録は、リタイア直前でこれからは地域に関わることを始めたいという人や、子育てしながら、仕事をしながら、緑好き、地域の活動をしたいなど、幅広い人からあり、有効期間は2年間。登録すると、子連れで参加できる活動、曜日や活動場所の地域など、それぞれの希望に合う活動を紹介してもらえます。登録者数は約270名まで増えました。

団体の登録は、区民協働花壇の活動、憩いの森の管理活動、保護樹林の落ち葉清掃など、さまざまな活動団体があります(35団体が登録)。個人登録者はまちセンでボランティア保険に加入しているので、団体側も安心して受け入れることができるとのこと。

やりたい人と現場を繋げるマッチング

現在みどりの人材バンクを担当されているのは、中平さんです。気軽な入口ときっかけづくりの場になるよう、わかりやすい情報発信を心がけているとのこと。

中平さんのこだわりは、「鉄は熱いうちに打て」方式のコミュニケーション。ボランティアをやりたいなという思いが一番大きい登録のタイミングを逃さず、登録があったらすぐさま「あなたにはこういう活動がおすすめですよ」と返信するようにしているそう。それをきっかけに活動に参加される方も少なくないとのことで、発意の炎が消えないうちに一歩踏み出しやすい状況を作るコミュニケーションが光ります。

また、登録者が気軽に活動に参加できるよう、センター立ち会いのもと団体の活動をオープンにする「活動見学会」を行って参加者を募るなど「始めの一歩づくり」にも熱心です。見学会では、通りすがりの人が参加するなど、新しい広がりもある模様。

まちセンとしての地域の人たちとの関わりで培った経験や関係性を生かして、活動団体さんからの相談も真摯に対応されています。

長年同じメンバーで続けてきた団体さんにとって、新しい人に馴染んでもらうにはどうしたらいいのか?初めて来てもらう人にどんな作業をしてもらうか?などは案外難しい課題です。そのため、SNSでの情報発信やかわいい手書き看板など、若い世代に活躍してもらった団体の事例を共有しながら、受け入れ団体さんのための学びの機会や相談の機会づくりも考えているそう。

マッチングの基本はコミュニケーション。それぞれの希望や状況を聞きながらタイムリーに会話や情報発信をされているのが印象的でした。

みどりの人材バンクのホームページでは、カレンダー、テーマ、地域などで活動やイベントを探すことができる)

ほかにも気軽な活動が:落ち葉清掃ボランティア

個人が気軽に参加できるボランティアの入口はほかにも。「落ち葉清掃ボランティア」も2021年(R3年度)からスタートした個人参加型の活動です。

保護樹木や保護樹林地といった、民有地の緑を地域で守り支える取り組みとして、区・まちセン・区民ボランティアの協働で行われています。

落ち葉の多くなる11月から12月にかけて、1か所につき4回ずつ活動日程を決め、まちセン立ち会いのもとイベント形式で落ち葉掃きを行うボランティア活動で、区報などで募集。子どもたちやご近所さんなど多くの人が参加しているとのこと。

初めてのボランティア活動という入口としての機能も担っているほか、楽しいのでリピーターも多いようです。今年度は、区内6カ所の保護樹木・保護樹林地で全24回実施し、のべ258名のボランティアが参加する、人気の取り組みとなっています。今後は、イベントで終わらせずに、活動を地域に根付かせていくための仕組みづくりを進めているそうです。

(落ち葉掃きボランティアの活動の様子:提供 みどりのまちづくりセンター

多様な参加の形:みどりの葉っぴい基金

練馬区みどりの総合計画における、施策の基本方針は「みどりを育むムーブメントの輪を広げる」。みどり推進課では、みどりの活動団体登録制度、憩いの森等の区民管理、公園や駅前での区民協働花壇事業、落ち葉清掃など、さまざまなみどりに関するボランティア活動を支援しています。

活動には参加できないけれど、基金への寄付を通じて参加するという方法があることを教えてくださったのは伊藤さんです。

練馬区が区内のみどりの保護と回復を目的として設置した「練馬みどりの葉っぴい基金」への寄付をすることで、みどりの区民活動を応援することができる仕組みが作られています。基金では、応援したいプロジェクトを選んで寄付をすることができ、みどりの区民活動応援プロジェクト(令和7年4月からは「ねりまの森サポーターズ応援プロジェクト」に名称変更)のほかには、牧野記念庭園プロジェクトや区民の森プロジェクトなどがあります。

このように、みどりを守り育てる活動に関わる入口や方法がたくさん用意されていることで、それぞれのライフスタイルや状況・気持ちに応じた形で関わり方を選べるのはとても有意義だと感じます。

練馬みどりの葉っぴい基金のホームページ:ブログの取材記事も読み応えがあり充実)

関わる人の裾野を広げていくために

年齢を問わず働き続ける人が増え、ライフスタイルが多様化する中、いくつもの関わり方を作ることで、みどりのムーブメントの輪が広がっている練馬区。関わる人の裾野を広げていくためのヒントをお聞きしました。

「まずは減らさないための努力が大事だと思います」と答えてくださった永瀬さん。新しく増えても同じだけ減ったら総数は変わらないので、現在活動している人たちの課題に寄り添いフォローすることをベースに、その上で新しい人が増えたら裾野が広がっていくのではないかと話してくださいました。憩いの森の区民管理団体も、これまで辞めた団体がいないそうで、まさに減らさない努力が実っているようです。

スキマ時間で何か地域の活動やお手伝いをしたいという需要は高まっていることを教えてくださった中平さん。「ちょいボラ」や「立ち寄りボランティア」のように気軽なボランティア活動を受けれやすいように、活動の仕組み自体も考えていく必要があるので、そのサポートをしたいと話してくださいました。

さまざまな取り組みで区民活動が広がっているものの、まだまだ知らない人が多いのも現状。区の調査でも、みどりを大切に思う人や活動に参加してみたいと思う人は多いので、そういった方が地域で行われている様々なみどりの活動のことを知り、実際の活動にもっと参加してもらえるよう「情報発信を強化していきたい」と話してくださった伊藤さん。ねりまの森こどもフェスタなど気軽に参加できる取り組みを通じて、まずは知ってもらうことで裾野が広がるのではないかと話してくださいました。

みどりのムーブメントの輪を広げる練馬区の取り組みは、これからもどんどん広がっていきそうです。

(憩いの森での「ねりまの森こどもフェスタ」の様子:提供 みどりのまちづくりセンター

【基本情報】

取り組みの名称練馬みどりの人材バンク、落ち葉清掃、練馬みどりの葉っぴい基金
実施自治体練馬区(東京都)
事業の目的【練馬みどりの人材バンク】
みどりを守り育む活動を行っている団体とボランティアをつなげ、区民協働のムーブメントの輪を広げることを目的としています

【落ち葉清掃】
区内のみどりの約4分の3を占める民有地のみどりを地域で守る取組として、区民の皆さまと協働で行う落ち葉清掃を始めました

【練馬みどりの葉っぴい基金】
区内のみどりの保護と回復を目的として条例により設置した基金です
取り組みの詳細練馬区のホームページみどりのまちづくりセンターのホームページをご覧ください

【練馬区の取り組みについては、こちらの記事もぜひご覧ください!】

取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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