連載コラム
2024/2/2

ゾンビ雑草ハマスゲと闘うボランティアの情熱

イクシバ!プロジェクト

フカフカの芝生を地域に根付かせ“緑と人の輪”を育てることを目的とするNPO育てる芝生イクシバ!プロジェクトの尾木和子さんによる公園芝育て連載、今回は第6回です。
(前回を読む▶️ 第5回:芝生も、コミュニティも、葉っぱや土も、持続可能に


最近の様子

2024年が始まり1ヶ月が早くもすぎました。

芝生広場は絶えず利用されています。朝は公園を横切り仕事に向かう人、午前中は3、4園の保育園の小さな子ども達の散歩先に、ここでは園庭のようにのびのびと体を動かしたり、虫探しをしたり、午後になるとダイナミックに遊ぶ小学生たちに利用され、また帰宅時には職場から芝生広場を抜けて駅に向かう人がいます。芝生自身の様子は気温が低くなり成長を止め、じっとしてます。少し痛んでいます。イクシバの作業は1月2月は限定的、月に一度になります。といっても積極的な芝生育て作業はなく、芝生に入り込む雑草をとったり、コンポストの手入れをしたり、何よりの目的はみんなの顔を見ること、みたいな時間です。この時期は芝生ゴロンの代わりに温かいお茶をみんなで飲むのがいい感じです。

ボランティアのモチベーション、冬芝を後押しし、コミュニティ感が生まれる

冬芝を導入する前は、スパッとシーズンオフ、12月から2月の3ヶ月間はお休みにしていました。何よりイクシバは目的追求型の団体を目指していましたので、作業のない時は集まる必要もなし、と定めていました。顔を見せ合うだけ?なんか仲良し会みたい・・・と当時は思っていました。しかしある年の春、毎週作業していたのに、冬にスパッと休みになるので自分のモチベーション探しを別の場所に探すのに苦労した、冬も集まり何か作業したい、と伝えてくれた人がいたのです。「集まりたい」!って思ってくれる人がいたことに感激しましたよ。こんな人に見守られるなら、冬芝を導入しても守り手がいると思いましたし、芝生自体の作業のない時も月に一度くらいは顔見せがてら、雑草をとろうとなりました(実際、この時期に雑草を取ることは春と初夏への貯金。後々楽になりますし)

このようにイクシバの理念である「芝生育ては地域育て」①芝生 ②地域 両方とも育てようとしてる活動ですが、それまでは①②のバランスで①の方を重きを置いていましたが、だんだんと②も重くなり、今ではバランスよく両方とも目指す活動となっています。


ボランティアの力強さ

組織のあり方は集まる人により変わりますが、イクシバでは芝生育ても変わります。ツルツルになった裸地に芝生を甦らせよう!との情熱を注ぎ芝生を一から再生して復活したのもみんなの力、ボランティアの力でしたが、今日はもう一つのエピソードを。ボランティア活動を続ける一人の人の暖かい気持ちについて書きたいと思います。前回の話の続きです。

ゾンビ雑草ハマスゲ

ハマスゲってご存知ですか?芝生界では、最強雑草、ゾンビ雑草とも呼ばれ脅威の繁殖力を持っています。実は黎明橋公園にこの雑草がたくさんいるんです。区内の他の芝生地にもこの雑草がたくさんあるのをみます。芝生がハマスゲに駆逐されている公園もあります。

どんな子か紹介しますと、とにかく駆除できないのです。種で増えるだけでなく、根っこの塊でも増えます。「ハマスゲを抜いた!」と思いきや翌週には3倍4倍葉っぱが顔を出します。やる気も奪います。

写真をご覧ください。

(ゾンビ雑草ハマスゲの根っこ:根塊が連なっています)

このネックレスのように連なる根っこ。地中の塊は根塊とか茎塊とか呼ばれるエネルギーボール。おそらく司令支部。連なる葉っぱや、根や根塊に刺激があると、すぐさま離れた支部から指令が出て、3倍4倍の葉っぱが顔を出します。根塊と根塊をつなぐ細い根、きっとここにすごいハイテクが詰まっていて、危機を感じたら司令室から次々に攻撃を仕掛ける仕組み。平穏時は何食わぬ顔で本部とは遠い場所に支部を作り、時が来るまで潜んでいるようです。

ハマスゲの根っこを生け取りにして袋に入れて置いておくと翌週にはこの通り。

(左:袋の中でも茂るハマスゲ脅威の繁殖力、右:あっという間に増殖するハマスゲ)

本当に敵ながらあっぱれ!
弱っちい心を持つ私はむしろ弟子入りして見習うべき根性(まさに根の性!)なのです。

前回の記事でハマスゲだらけになった黎明橋公園。補植した芝生より先にハマスゲが出てきてしまいました。 

作業時にはみんなで退治をしてみました。遮光シートで退治できるという情報を見てシートを被せてみました。ハマスゲ退治の仕方を求めていろんな人に意見を聞きました。芝生のプロ、先輩にお知恵を乞うと、・強力な除草剤をまくのは効果はあるが、次の季節には戻る・根茎に刺激を与えないように抜くしかない・その部分の土壌の入れ替えが一番確実、などと聞きました。公園なので除草剤は撒けない。土壌の入れ替えを業者さんにしてもらうお金なんてない・・・試行錯誤の日々も公園ではハマスゲは高らかにこの世の栄華を誇り咲いています。万策なし!

(遮光シートを被せたり、みんなで抜いたり、試行錯誤をしました)

まざまざと失敗を見せつけられてもう意気消沈どころかげっそり痩せる(気がする)ほど落ち込んでいたのでした。

そんな時に一人、ハマスゲ退治を黙々と取り始めた人がいました。後に「ハマスゲ大将」と呼ばれるFさん。ちょうど仕事もリタイアされた時期で、作業日以外の平日も毎日毎日公園で座り込んで作業を始めました。

何をするかというと、ハマスゲの根塊がある深度よりも深く土壌を掘り返し、その土を篩(ふるい)でふるい、小さな赤ちゃん根塊までも手作業で取り除き、ハマスゲ要素のない砂を元に戻す、という途方もない作業をコツコツ、端っこから少しづつ始めたのです。

(後に「ハマスゲ大将」と呼ばれるFさんのチャレンジ)

いや、心意気はありがたい。めちゃありがたい。気持ち痛いほどわかるけど、でもFさん無理よ、ハマスゲは対峙する相手にしては強力すぎる。

「人間一人の作業量では追いつかないでしょう、作業日や予備作業日に、なんなら”ハマスゲ退治祭り”みたいなイベント化して近隣の方に広く呼びかけ作業できる人数を増やしましょうか?」と提案するも、Fさん曰く、「それをしても、きっとまた元の木阿弥になる。この作業は本当に繊細に進めないとダメだ。ふるった砂を指でねじりねじり触って、小さな小さな根塊までも取り除く意気込みが必要なんだ。一つ小さな根を見逃しただけでどうなるかわかるだろう?だから俺がやるしかない」と。毎日毎日公園で作業を始めました。

心打たれました。負けない、ってこういうことかと教えてもらいました。やり続けるんです。信念を持って。『この公園に芝生を戻す』、との信念です。

その時の動画がこれ。

ハマスゲ隊長のハマスゲ塊茎(芋)退治<秋編>

Fさんは日々作業をしながら感動していたそうです。

ハマスゲに覆い被され、駆逐され無くなったと思っていた芝生は生きてるぞ、しっかりその下でまだ生きてるぞ。この芝生をまた陽の下に戻して育ててやるんだ、って。

芝生の先輩方にハマスゲは結局手で掘り起こして手でとってます、というと驚かれ、本気かと半ば失笑されていました。私も無理だと思ったのです。プロも試したことのない途方もないチャレンジをボランティアが行っていたのです。

そして、やったんです!今、Fさん=「ハマスゲ大将」の取り組んだエリアの芝生が一番綺麗な状態です。

(一番綺麗に復活したエリア)

この件で、ボランティアは時にプロをも超えると知りました。ボランティア活動は経済活動と無縁の活動場所かもしれませんが、この一件でFさんは大きな功績を残してくれました。

①ハマスゲ園から芝生園に戻してくれた。だけでなく、
②地域に良い風を吹かしてくれた。

毎朝毎朝座り作業をしているFさんの姿は多くの町の人が目にしています。Fさんの一心不乱さはどうでしょう。こんな人がいるんだなと思うだけで安心しませんか?

想像してください。片や自分が食べたお菓子の袋を公園にポイ捨てしてる人がいます。ペットの糞をそのままにしてる人もいます。お酒の空き瓶缶を放置してゆく人もいます。間違っても自分ではそんなことしない、でもそのシーンを目にしたり、放置物を目にすると心がざわつきますよね。なんか嫌な気分になりますよね。この街への希望が少し薄れますよね。Fさんの行為はその真逆の姿ではないでしょうか。私自身、人の善意に触れることがこんなに幸せな気分に繋がるのかと知りました。

一方のFさん自身は俺がやってやった、感謝されて当然だ、なんて微塵も思っていません。自分の信念のまま、芝生がなくなるのが嫌だからとの一念です。作業中ハマスゲと会話し、芝生と会話し、公園に遊びに来る親子と会話していました。全く邪さがないのです。

研究している姿

ボランティアという言葉は、日本語には対応する言葉がありません。英語でvolunteerは志願兵などを表す言葉で、ドイツ語ではfreiwillig、 自由意志という言葉です。自分の納得のもと自らが行うことです。誰かに動員されイヤイヤしていたり、やらされボランティアでは、心の満足感が別のものを求めてしまうのではないでしょうか。

ボランティア組織は善意を持ち寄れる場所であり、そこに集う人はお金ではない価値を見出して心豊かに活動できる場所です。非金銭的価値がそこにあります。ボランティア活動は自分がやりたいから活動し、満足を得る。自分の人生を豊かにするものであればいいと思います。他者評価でなく良い意味の自己満足。なんだか愛が溢れてます。

予算がないから、やりたい人にやらせとけ、ボランティアは無償の便利屋、との思惑でボランティアが募られることがありますが、とても違和感がありますね。人と人も、人と会社も、行政も、団体もお互いを尊重し合う関係性が大事。相手がなぜここに集うのか?その満足はどこにあるのか?その視点もない不遜な思惑ではきっと長続きしないのでは?結局痛い目に遭いますよ。


取材・執筆
取材・執筆
尾木 和子

NPO法人育てる芝生イクシバ!プロジェクト代表理事。芝草管理技術者。芝生大好き。雑草も好き。人生を教えてくれるのが芝生と雑草。好きが高じて芝生資格を取得。誰かと一緒に芝生育てをすることが好きなので、一人でもコツコツ芝生育てするのか?と問われるとNO。人が好きだけど、『仲良くしようね!』と親睦自体が目的の場所は苦手。こんな私にとって、いろんな人と一緒に芝生を育て、自然に仲良くなって、気持ちいい環境を作るのは最高の喜び。みんなー!芝刈りしようぜ!

NPO法人育てる芝生イクシバ!プロジェクト代表理事。芝草管理技術者。芝生大好き。雑草も好き。人生を教えてくれるのが芝生と雑草。好きが高じて芝生資格を取得。誰かと一緒に芝生育てをすることが好きなので、一人でもコツコツ芝生育てするのか?と問われるとNO。人が好きだけど、『仲良くしようね!』と親睦自体が目的の場所は苦手。こんな私にとって、いろんな人と一緒に芝生を育て、自然に仲良くなって、気持ちいい環境を作るのは最高の喜び。みんなー!芝刈りしようぜ!

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