2025/6/20

企業も一緒に市民参加を盛り上げる「一人一花運動」

福岡市(福岡県)

みんなの公園愛護会では、地域の人々とともに、公園やパブリックスペースの緑を育てまちを良くしようと頑張る行政の取り組みにも注目しています。

福岡市では、市民参加による花と緑のまちづくり「一人一花運動」が行われています。一人ひとりが花と緑を育て、公園や歩道、会社、自宅など、福岡市のありとあらゆる場所を花と緑でいっぱいにする取り組みで、市民・企業・行政など多くの人たちが、さまざまな形で関わっています。

市民の認知度も高く、地域住民だけでなく、多くの企業が積極的に関わりをもって盛り上げている一人一花運動について、福岡市 一人一花推進部 部長 上原真之さん(上の写真 中央)、一人一花推進課 添島智さん(同 左)、矢野桃子さん(同 右)にお話をお聞きしました。

(福岡のまちなかは、一人一花運動のロゴマークのついたプランターや花壇がたくさん。天神と中洲をつなぐ橋の上にも)

花で共創のまちづくり「一人一花運動」

一人一花運動が始まったのは、2018年。市民や企業との共創によるまちづくりとして取り組みやすいもの、多くの人が親しみ楽しめるもの、継続性のあるもの、愛着がわくものとして、花緑がツールに選ばれました。

花や緑を育てて生活の中に取り入れること、公共の花壇づくりに取り組むことは、生きがいや健康、地域コミュニティづくり、多世代交流になるほか、おもてなしの景観づくりとしても効果大。年齢性別国籍関係なくできるところも魅力だといいます。

さまざまな参加方法があるのも、一人一花運動の特徴です。市民、企業、学生など、それぞれが得意なことを生かしてまちづくりに関われるよう工夫されています。

たとえば、企業のスポンサー協賛により維持管理を行う「おもてなし花壇」、公園や歩道などの公共空間で市民団体等が花づくりに取り組む「ボランティア花壇」、民有地等での花壇づくりに取り組む団体や企業を登録する「パートナー花壇」をはじめ、路上フラワーポットや花と緑のイベントなど、ニーズにあわせたメニューの全てを「一人一花運動」としてパッケージ化して展開。高島市長のリーダーシップも相まって、部署横断で全市的に盛り上げています。

花や緑は目的ではなく、まちづくりの手段。「福岡が好き」「福岡のために役に立ちたい」と思う市民や企業が花でつながっているようです。事業の概要は福岡市のホームページにも掲載されています。

(一人一花運動の概要:福岡市 一人一花ホームページより)

関わり方の多様さと負担の少なさで多くの企業が参加

一人一花運動には市民はもちろん、多くの企業が参加していますが、関わる企業数も花壇数も7年間ずっと右肩上がりだそう。その理由をお聞きすると「関わり方の多様さ」「できるだけ負担のない形」というキーワードが出てきました。

現在の参加メニューは大きく6種類。参加企業は、福岡のまちづくりに関わりたいという思いを持っている企業が多いそう。花壇づくりや出版物・ウェブサイトへのロゴ掲載など、まちへの貢献がわかりやすい形で目に見えることもメリットのようです。

関わり方の枠組みを最初から限定してしまわずに「やりたいこと・やれることは何ですか?」といったスタンスで、企業がそれぞれの状況や目的に応じて関わり方を選べるように、さまざまな入口が用意されています。

「うちも何か協力したい」という声をしっかりキャッチし、それぞれの企業に合うメニューがあればおすすめし、なければ喜んで作るという形で、参加方法が増えてきたことを教えてくださいました。

できるだけ負担がないよう、書類や手続きも最小限。押し付けはせず、煩雑な事務手続きのせいで必要以上のストレスが発生しないように、ノルマや報告義務などもなくしていることも参加しやすさのポイントです。

具体的にどんな関わり方が用意されているのか、一つずつ見ていきたいと思います。

1)おもてなし花壇:天神・博多の花壇スポンサーになる

「おもてなし花壇」は、天神や博多など市内の中心部にある花壇のオーナーになれる制度。花壇には企業名入りのプレートが立てられ、「一企業一花壇」として一緒にまちを彩り、おもてなしの景観づくりに参加しようというものです。

もともとあった企業協賛花壇(テラス花壇)の仕組みを拡大し、歩行者通行量が多い場所を選んで150ほどの花壇をつくりスポンサーを募集。スポンサー料は、1口につき年間20万円(維持管理費相当額)。花壇に企業のロゴ入りのプレートが設置され(制作費は別途)、出版物やホームページへのロゴ掲載といった特典があります。どの花壇のスポンサーになるかは、対象花壇マップから選ぶことができます。

おもてなし花壇のスポンサーは161社。その中には、一人一花運動全般への協賛も行う「プレミアムメニュー」もあり、プレミアムスポンサーは11社、ゴールドスポンサーは6社あります(2025年3月末現在)。

おもてなし花壇の維持管理は、市内の専門業者が請け負っています。花壇ごとに美しく見えるデザインから、その場所の環境に相応しい植物の選定、植え付けやお手入れなど、年間を通して、専門的な知見と経験を生かした維持管理が行われています。市街地の過酷な環境でも育つ強い花をタネからつくるといった工夫もあり、1年中美しい花壇が保たれているようです。このように質の高い花壇を低コストで維持管理できるのは、約150カ所の花壇が一定のエリア内に集まっていることも大きな要因だといいます。

初年度こそ2000-3000社に電話をかけて営業をするなどスポンサー集めに苦労したそうですが、まちなかに美しい花壇ができると、「うちも参加したい」と企業から声がかかるようになり、その後営業活動はしていないそうです。

また、2024年からは、民間企業主導型のスポンサー花壇「おもてなしプランター」も登場し、舞鶴公園を彩っています。協賛企業集めから、プランター型花壇の設置および維持管理までを地場の銀行と企業が担当する仕組みで、また一つ新しい関わり方が生まれました。

(天神地区のまちかどで見つけたおもてなし花壇)
(舞鶴公園のおもてなしプランター)

2)ボランティア花壇:市内全域の公共空間での花壇づくり

「ボランティア花壇」は、公園や歩道など、市内全域の公共空間を対象に、花壇づくり活動に取り組む制度。駅前広場や交差点、通勤通学によく使われる道、公園などが、地域住民や企業により、花で彩られています。

各区におけるオススメ候補地リストがあり、そこから活動場所を選ぶこともできます。同じ面積でもせっかくなら人の目につく場所をおすすめしているそう。

活動者は、管理団体名が入った「一人一花オリジナルプレート」をもらえるほか、市内各地の花づくり活動を紹介する「福岡市フラワーマップ」への掲載も。条件を満たせば、(公財)福岡市緑のまちづくり協会による「地域の花づくり」助成金の交付を受けることができます。

ボランティア花壇に取り組んでいるのは、382団体(2025年3月末現在)で、町内会や公園愛護会・花好きの人など地域の人が多いですが、企業の参加もあります。

博多区にある(株)正興電機製作所は、創立100周年にあたり、まちの新たな景観づくり・社会貢献活動として、同社横の空港通りの道路植栽帯に直径5mの花時計と花壇のある緑地「東光のまちにわ」を整備しました。「まちにわプロジェクト」として地域ボランティアや学生ボランティア・花とみどりの専門家たちとともに、花の植替えや花壇管理、季節ごとのワークショップやイベントを行い地域交流も行っています。

(東光のまちにわ:交差点で目をひく大きな花時計とそのまわりのステキな花壇は企業や地域、学校等の協力によりつくられている)

3)一人一花パートナー花壇:民有地での花づくり

「一人一花パートナー花壇」は、お店や会社など、市内の民有地等で取り組む花壇を登録する制度。通りに面しているなど、誰でも見ることのできる1m2以上の花壇を登録すると、名前入りの「一人一花オリジナルプレート」が配付され、福岡市一人一花ホームページでPRコメントの発信もできるというもので、双方向の情報発信と絆を深めることを目的としています。

事業所や商業施設、ホテル、店舗、個人宅、学校、マンション、保育園、病院など、市内662カ所(2025年3月末現在)に輪が広がっています。各区の区役所が窓口になっており、市民の暮らしに一番近い区役所と地域との絆づくりの機会にもなっているようです。

たとえば、福岡ソフトバンクホークス(株)はみずほPayPayドーム福岡周辺の花壇づくりやフラワーガーデンコンテストを行っているほか、パナソニックグループは地域と協働で花壇を管理、(株)福岡銀行は本店前のスペースを花と芝生の広場として開放、(株)西日本シティ銀行では市内の全店舗に花壇を設置するなど、それぞれの企業のスタイルに合った形で、さまざまな形のパートナー花壇がつくられています。

(福岡銀行本店前の花壇と芝生広場、一人一花パートナー花壇として市民に開放)

パートナー花壇での活動は後述の「一人一花割引」を受けることができるというのもうれしいメリットです。

4)サポート企業:活動する人を支援する

園芸関係の企業には、花づくりを行う市民を支援するという関わり方も用意されています。

ひとつは、ボランティア花壇やパートナー花壇など市民の花づくりを民の力でサポートする「一人一花割引」です。花苗や園芸用品等を5%割引で提供する「一人一花割引」は、お花屋さんや園芸店、ホームセンターなど福岡市近郊87店舗(2025年3月末現在)が参加しています。

市は花緑づくり活動を行う市民や団体向けに証明書を発行。活動団体は証明書を店頭で提示すれば5%割引で購入できます。一人一花割引により、同じ金額でも約5%分多くの苗が購入でき、企業のサポートで花壇の花が充実するのはうれしいですね。サポート企業は一人一花割引を行うことで、市民や活動団体への店舗PRになっているそうです。

また「花づくりの活動補助」として、花壇のデザインや花選び、植え付け・管理方法などのアドバイスを有料で行うという活動サポートメニューを行う企業もあります。

一人一花割引が受けられるお店の一覧や、受けられるサポートの情報はホームページで見られるようになっています。

一人一花運動は、福岡市だけでなく、2023年 北九州市、さらに2024年には福岡県にも広がっています。サポート登録団体が花苗や園芸用品を割引で購入できる「一人一花割引」は、福岡県内の316店舗(2025年3月末現在)で行われています。

一人一花サポートメニュー(福岡市版)のリーフレットより:一人一花割引の対象店舗の輪はどんどん拡大中)

また、サポート企業による活動支援のほか、花や緑に関する知識や技術を持つ講師を団体が行う花壇活動などに派遣する「緑のコーディネーター制度」もあるそうです。

5)メディアパートナー:一人一花のプロモーションに協力

一人一花運動のプロモーションに協力する「メディアパートナー」は31社(2025年3月末現在)。地元のテレビやラジオのほか、植物系メディア、花の名前がわかるアプリなどのウェブメディア、メーカー、ショップなど、さまざまなジャンルのメディアパートナーが、タイアップ記事やPR企画など市と連携してプロモーションを行っています。

特筆すべきは、メディアパートナー各社の個性や得意を生かして、一人一花を題材に独自の企画や情報発信をしながら、一緒に運動を盛り上げていること。行政の予算や人員が限られる中、各パートナーの多様な発想と媒体やネットワークを駆使してどんどんやってもらうことで、考えもつかなかった面白いことが実現されているようです。仕様書を作って何かを発注するのではなく、多くの人が面白がって関わりを持てる余白を用意しているのがとてもユニークです。

6)水やりパートナー:水やりで活動団体をサポート

近くに一人一花ボランティア花壇がある場合、水やりや水の提供で協力するのが「水やりパートナー」です。

水やりパートナーとして支援ができる会社やお店が登録し、希望する団体とマッチングするこの制度は、2023年の世界水泳をきっかけに生まれました。世界水泳でたくさんの来訪者を迎えるにあたってまちに花を増やそうとしたものの、夏は水やりが大変。そんな中「手伝いますよ」という企業が現れたのがきっかけでスタート。水やりや、水の提供など、できることで協力するまちのステーションがこれから増えていきそうです。

ムーブメントはどんどん広がっています

このように、企業にもさまざまな関わり方が用意されている一人一花運動は(参加メニューの数がKPIになったこともあるそう!)、どんどん進化を続けています。

まちのあちこちで見かける一人一花のロゴ入りフラワーポットや花壇、協賛企業のロゴ一覧が入った情報発信、独自のアイデアで積極的に行われるメディア企画、市内すべての小学校へのイベントチラシ配付など、多くの工夫で子どもから大人まで市民の認知度も高まっています。しかし、これまでの道のりには、さまざまな試行錯誤もあったそう。

お願いや押し付けではなく、共創。そのために、分野や競合を問わず「それなら乗ります!」といいやすいメニューづくりや、続けやすい仕組み、自分事にしていくための工夫が随所で見られます。

一人一花シールの配布、企業による花苗や球根の寄贈、さまざまな事業やイベントとの連携、情報誌の発行、「一人一花アンバサダー」の創設、5万本のチューリップがまちを彩る「一人一花スプリングフェス」、活動団体の表彰や交流が行われる「一人一花サミット」など、さまざまな取り組みが行われ、2023年には一人一花運動の新たな拠点として福岡市植物園内に「ボタニカルライフスクエア」がオープン。花や緑に関心がない方をはじめ多様な層を引き込む工夫が行われています。

(市内のすべての新小学1年生に配られるランドセルカバーにも一人一花運動ロゴマークが!)

花が増えることで、花づくりの仕事が生まれ、花に携わる人材が生まれ育つという、「まちづくり」「ひとづくり」「しごとづくり」の好循環を生み出すための一人一花『まち・ひと・しごと』づくりプロジェクトの構築など、挑戦は続きます。

2026年春にはフラワーショーを開催

そして、さらに新たな展開も始まっています。花をテーマとしたMICE「Fukuoka Flower Show」へのチャレンジです。

その発想は、イギリス・ロンドンで毎年5月に開催される世界最高峰の国際的なフラワーショー「Chelsea Flower Show(主催:英国王立園芸協会)」から。世界で活躍するガーデナーが生み出されるガーデンコンテストや、新品種や話題の品種のマーケットづくりになるフラワーコンテスト、種苗やファッション・食品などのマルシェ、まちなかの花装飾を通して、社交の場やビジネス交流の場が生まれ、会期中は世界中から人が訪れ、まちじゅうが花とガーデニングで盛り上がっているんだとか。

この3月、一人一花運動の拠点である福岡市植物園を中心に、Fukuoka Flower Show Pre-Eventが行われました。人材育成型ガーデンコンテストや、植物園の新たなシンボルとして年間を通して楽しめるシンボルガーデン、チェルシーフラワーショー2023の品種コンテストで最優秀賞を受賞した花の日本初公開、まちなか花装飾、ビジネスデー、おしゃれをして出かけるフォトコレクション企画など、盛りだくさんの5日間で話題になりました。

(Fukuoka Flower Show Pre-Eventのまちなかマップ)

ここでも、FFSメンバーシップとして多くの企業や団体の協力がありました。提供するものは、資金や場所・モノ・ネットワーク・マンパワーや機会、なんでもOKという呼びかけで、約90団体がさまざまな形で一緒にイベントを盛り上げました。

プレイベントの概要や詳細は、ホームページで公開されています。そして2026年3月には、Fukuoka Flower Show 2026が開催されるということで、これからの一人一花運動の展開が楽しみです。

【基本情報】

取り組みの名称一人一花運動
実施自治体福岡市(福岡県)
事業の目的市民・企業・行政一人ひとりが、 公園や歩道、会社、自宅など、福岡市のありとあらゆる場所での花づくりを通じて、人のつながりや心を豊かにし、まちの魅力や価値を高める、花によるまちづくりを目指す取り組み、それが『一人一花運動』です。
市民の地元への愛が強い福岡市だからこそ、みんなで力を合わせれば、花のまち「フラワーシティ福岡」を創ることができるはずです。日々の暮らしの中に美しい花と緑があれば、あなたの心もきっと豊かになります。
『一人一花!』『一企業一花壇!』を合言葉に、みんなで福岡を花と緑いっぱいのまちにしていきましょう!(ホームページより)
取り組みの詳細福岡市 一人一花のホームページをご覧ください
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

取材・執筆
みんなの公園愛護会の書籍紹介 学芸出版社

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

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