みんなの公園愛護会では、地域の人々や公園ボランティアとともに、公園をより良くしようと頑張る行政の取り組みにも注目しています。
岩国市では、公園を市民との協働で芝生化する素敵な取り組みが進められています。これは、市民主体の公園芝生育てを市役所がサポートするもので、苗づくりから植え付け、芝刈りや水やりなどの維持管理まで、市民と行政が一体となって協働で行っています。
2010年(平成22年)から続くこの「公園芝生化モデル事業」について、岩国市 公園施設課 公園班 好本健一さん、田村和也さんにお話をお聞きしました。

子どもたちの笑顔のために、協働で公園を芝生化
公園で高い人気を誇る「芝生広場」。しかし、一度整備しても、適切な維持管理が行われなければ2〜3年で荒れてしまうという話は少なくありません。芝生は魅力的である一方、維持管理には手間がかかります。行政ができることにも限りがある中、岩国市では市民と行政の「協働」という形で、公園に芝生を植え育てています。
岩国市の公園芝生化モデル事業の目的は、子どもたちに安全に遊べる場所を提供すること。転倒時のケガを軽減する芝生は、外で活発に遊ぶ子どもたちを増やし、子どもはもちろん親や祖父母、先生たちにとってもメリット大。土埃の問題も解消し、公園の美観向上にもつながっているとのこと。
そしてこの事業の最大の特徴は、住民自らが公園の維持管理に携わることで、地域コミュニティの繋がりを深め、公園に対する愛着を育むことにあるようです。スローガンは、「みんなでつくろう緑の公園」。地域のみんなで気持ち良い緑のじゅうたんを育てていこうと、日々取り組まれています。
2010年(平成22年)からスタートした公園芝生化モデル事業。これまでに、地元自治会や子ども会・商店街団体などの市民ボランティア団体が主体となり、13の公園が芝生化されてきました。毎年1〜2公園から芝生化の希望が寄せられているそうです。

公園芝生化の流れ:主役はあくまで「地域住民」
公園の芝生化は、地域住民の自発的な申請から始まります。地域住民が十分に話し合い、納得した上で「やってみよう!」と手を挙げることが、すべての出発点です。
市は、土埃などの問題解決の手段として芝生化を提案することもあるそうですが、芝生化のメリットだけでなく、維持管理に伴う手間などのデメリットを事前にしっかりと説明することを大切にされています。
岩国市の公園芝生化モデル事業は、(一財)岩国市体育協会と連携して行われています。体育協会からは、芝生の苗と技術の提供が行われ、市民の芝生育てを共にサポートしています。
芝生育ては苗づくりからスタート。申請を受けると、芝生のポット苗づくりが始まります。苗はすべてティフトン(生育が早く踏みつけに強い芝の種類で、サッカー場などにも使われています)で、体育協会から提供されます。
体育協会の指導のもと、芝生化する面積に合わせて大量のポット苗づくりが行われます。地域住民が協力して毎日水やりをしながら、2ヶ月ほどかけてポット苗を大切に育てていきます。
苗が育ったら、いよいよ植え付けです。植え方をレクチャーしてもらい、一つ一つポット苗を植える作業は、子どもたちも大人たちもみんなが大活躍。大勢で力を合わせることで、新しい芝生広場が生まれます。広場に格子状に掘った穴に点々と植えられた苗が、成長するにつれてだんだんと繋がり、数ヶ月後には見事な緑色のじゅうたんのように広がっていくとのこと!

たとえば元町第三街区公園(通称キリン公園)では、12,000ポットの苗がつくられ1,800㎡の芝生広場が公園に生まれました。
4月に行われたポット苗づくりは約180人が集まり2時間で作業、6月の植え付けでは、朝から自治会の役員さんはじめ小学生や中学生など200人以上の地域住民が集まり、市長も参加。芝刈りや施肥なども行われ、秋には美しい芝生広場が完成したそうです。その様子は岩国市のホームページに充実のレポートが掲載されています。(キリン公園の芝生化のようす)

植え付け後の維持管理は、すべて住民が主体となって実施されます。芝刈りや水やり、肥料散布など、年間を通じて約10回(5月上旬〜10月頃)の芝刈り作業が行われているそうです。
行政のサポート:道具貸出や技術支援でしっかりバックアップ
地域住民が主体となって進める公園での芝生育てを、市は多角的にサポートしています。
1)機材の貸出とお届け
芝刈り機や肥料散布機など、芝生育てに必要な機材はすべて市で用意し貸し出しています。芝刈り機は、乗用型の芝刈り機を5台、手押し式のエンジン付き芝刈り機を12台保有しており、地域からの予約と依頼に応じて公園まで運搬し、使用後の回収も行っています。機械類の点検や整備、燃料補給なども市が実施しています。
芝刈り機は市内の公園の芝刈り日程に合わせてスケジュールを調整しながら、好本さんや田村さんなど職員さんが軽トラでお届けしているそうです。肥料散布の時には肥料と散布機をお届け。道具のメンテナンスが不要なのも初心者にはありがたいことです。こうしたきめ細やかな対応が、活動の継続を支えています。
2)物品の提供や設置
芝生管理に必要な肥料やゴミ袋などが提供されます。毎日のように利用する水やり用のスプリンクラーやホースは、公園に常設していつでも水やりができるようにされているそう。これにより、住民の負担が大きく軽減されています。
3)技術的な支援と相談体制
芝生育てが初めてというグループでも安心してチャレンジできるよう、1年目の管理方法は資料と共にしっかりとレクチャーし、その後も公園施設課の職員が相談に対応しています。
芝刈り機のお届け時に公園を見ながら直接話すことも、良いコミュニケーションの機会になっているようです。部分的にハゲてきたといった相談事には、新しく芝生化する公園で余ったポット苗を再利用して補修するなど、柔軟に対応されているとのこと。
専門的な相談については、市は体育協会と連携。体育協会は専門機関や市民球場の芝生管理経験から得た知識を基に助言を行っているそうです。

市体育協会とスタートした「鳥取方式®️」の芝生育て
この公園芝生化モデル事業がスタートした最初のきっかけは、2008年(平成20年)に体育協会が行った新港運動公園の芝生化だったといいます。その後、岩国市民球場や市立東小学校の校庭でも芝生化が行われました。市内で芝生への関心が高まる中、2010年(平成22年)には体育協会が「鳥取方式®️」の提唱者であるNPO法人グリーンスポーツ鳥取のニール・スミス氏を招き、市民向けセミナーを開催。この時期に、芝生化の機運が一気に盛り上がったそうです。
「鳥取方式®️」とは:NPO法人グリーンスポーツ鳥取が提唱する低コストで維持管理が容易な芝生化の手法です。維持管理は芝刈り、水やり、施肥を中心とし、住民・行政・業者等が共同で行うことによって低コストでの芝生化を実現しています。また、芝刈りは刈りっぱなしで行う、草抜きをしない・除草剤は使わないなど、手間のかかる作業を省き、学校や公園などの広場を芝生化する際に、地域住民でも手軽に管理できるようにしています。
これらの動きを受け、岩国市としても公園での芝生化を進めるための事業が、2010年(平成22年)にスタートしました。要綱に基づき予算化され、市の事業として継続的に推進されています。
最初のモデル公園として選ばれたのは、中心市街地活性化計画の一環として注目されていた麻里布町第三街区公園(通称はと公園)でした。この公園は駅前の繁華街の中にあり、ゴミの投棄や周辺への土埃といった問題があったそうですが、地元の連合自治会や商店街、料飲組合など、多くの関係者の協力で芝生化が行われました。
麻里布町第三街区公園では、芝生化を通じて、砂や土の流出がなくなり、まちの美化にもつながっているそうです。芝生化から15年経つ現在でも、芝生は健在。年1回関係者が集まって行われる「芝生化会議」には市の公園施設課も参加されていることを教えてくださいました。

芝生育てで、人々のふれあいの機会が増えている
芝生化事業は、地域に多くの良い変化をもたらしているようです。
利用者増と安全性の向上:芝生化された公園には子どもたちの来園が増え、ご近所以外の地域からも未就学児連れの親子が訪れるようになっているという声も聞かれます。ケガが少なく、砂埃りがなくなることで、安心して遊べる場所として認識されるようになりました。子どもたちが元気に遊ぶ姿が見られることは、活動されている皆さんの喜びと大きなモチベーションになっているそうです。
コミュニティの活性化:苗づくりから植え付け・芝刈り・水やりといった共同作業を通じて、地域住民が集まる機会が増え、人々の繋がりが深まっています。住民たちは公園を「自分たちの庭」のように感じ、管理に熱心に取り組むことで、一体感が生まれているようです。
美観と癒し効果:刈り込んだ後の芝生は「緑のじゅうたん」のように鮮やかで、訪れる人々の笑顔が増えるなど、癒しと美観の向上に寄与しています。体感温度が少し低くなったという地元の声も!
イベントへの適応:地域のお祭りなどイベント会場としても活用されている公園では、芝生が整備されたことで、人が多く集まっても土埃りが舞い上がりにくくなり、地響きの抑制効果も出ているそうです。
一方で、課題も存在します。芝生の維持管理は、特に夏季には頻繁な芝刈りや水やりが必要となり、手間がかかるという点は、事前に住民に伝えられているものの「やっぱり大変」という声も出るそうです。加えて自治会の高齢化で担い手が減っているという課題も。
そのような課題に対して、公園施設課の皆さんは地域の人たちとコミュニケーションをしながら、芝生育てに必要な機材のお届けや物品提供といったサポートを継続することで、住民の負担軽減に努め、活動の継続を支援しているのが印象的です。
岩国市の公園芝生化モデル事業は、「子どもたちのために」という地域の思いを行政がしっかり後押しすることで、緑豊かな公園空間と、それを通じた温かいコミュニティの形成を実現しています。道具の貸し出しからお届け、技術的なアドバイスに至るまで、きめ細やかな行政サポートがあるからこそ、住民が安心して主体的に活動を続けられる、まさに「協働」の公園芝生づくりと言えるでしょう。
岩国市のように、自治体が「芝生化して終わり」ではなく、「芝生がスタート」と捉え、市民が「自分たちのもの」として主体的に関わる取り組みは、他の地域でも参考になりそうです。
【基本情報】
取り組みの名称 | 公園芝生化モデル事業 |
実施自治体 | 岩国市(山口県) |
事業の概要 | 岩国市では平成22年度から市が管理する公園において芝生化に取り組んでいます。 実施方法は地元自治会、子供会や商店街団体、保育園など市民ボランティア団体による苗作り、植付け、水遣り、芝刈りなどを行っていただき芝生広場を管理していきます。 芝生化をすると子どもの発育への効果(公園で遊ぶことが増えるなど)、美観の向上(見た目が緑で美しいなど)、環境への効果(二酸化炭素の吸収など)などの効果が期待できます。 |
取り組みの詳細 | 岩国市のホームページをご覧ください |