2023/12/12

公園を地域交流の場にするコミュニティパーク事業

福岡市(福岡県)

みんなの公園愛護会では、地域の人々や公園ボランティアとともに、公園をより良い場所にしようと頑張る行政の取り組みにも注目しています。

福岡市には、地域住民による公園の積極的な利活用を応援する仕組みがあります。公園の利用ルールづくりや自律的な管理運営を通して、使いやすく魅力的な公園にし、地域コミュニティの活性化を目指そうという「コミュニティパーク事業」です。

以前ご紹介した下月隈中央公園は、コミュニティパーク事業の第1号公園。地域の多世代が交流する憩いの場として公園を活用していました。

地域住民が主体の公園づくりを、どのようにサポートし進めているのか、福岡市 住宅都市局 公園部 活用課の皆さんにお話をお聞きしました。

ご対応くださったのは、活用課長 小泉さん、活用係長 山ノ平さん、ご担当の馬渡さん、横尾さんです。(上の写真 左から山ノ平さん、小泉さん、横尾さん、馬渡さん)

公園・コミュニティ双方の課題解決に対処する「コミュニティパーク事業」

福岡市では、公園をとりまく様々な課題解決に向け、地域による公園の利用ルールづくりと自律的な管理運営によって、地域にとって使いやすく魅力的な公園づくりと地域コミュニティの活性化を目指すため、希望する地域でコミュニティパーク事業が行われています。

公園が画一的なルールで使いづらいという声や、公園をもっと有効に活用したいという地域からの多くの声を受けて、身近な公園において、地域が主体となった利用ルールづくりや公園の管理運営を進めることで、公園の利活用を促進するとともに、地域の課題解決にもつなげようと、2017年からスタートしました。

コミュニティパーク事業の大きなポイントは、公園の管理運営の主体が「行政」から「地域」に変わること。行政による管理運営+公園愛護会による地域サポートという従来の管理運営のスタイルから、地域主体の管理運営+行政のサポートという形になることで、公園の利活用の幅を広げることができます。

具体的には、「地域による公園のルールづくり」によって、市内一律のルールではできなかった自由度の高い公園の使い方ができるようになったり、「自律的な管理運営」によって自分たちの手で独自の公園づくりができるようになったりします。

公園の活用の幅が広がることで、地域コミュニティの活性化に繋げていこうという事業です。

(コミュニティパーク事業の概要:公園管理運営のかたちと事業実施の効果)

地域の合意形成を大切に

コミュニティパーク事業の始め方や進め方については、ホームページで公開されていますが、大切なのは地域の合意形成だといいます。発案した自治会はもちろん、周辺の自治会を含めた多くの住民に声をかけ、できるだけ広く伝えることを大事にしていると教えてくださいました。

そのためにも、周辺自治会を含む形で公園の利用圏域(話し合いを行う住民のエリア)を決めて、その中で話し合いを進めていくように仕組みづくりがされています。市役所へ相談すると、ステップに沿って協議を進めて行けるよう、サポートを受けることができます。

市の派遣するアドバイザーのサポートを受けながら、ワークショップの開催や合意形成のための話し合いの場づくりを行っていけるようになっているのは、住民としても心強いのではないかなと感じます。

(コミュニティパーク事業の全体の流れ:事業の始め方・始めたら・さらに活用したいとき)

地域独自ルールづくりもサポート

公園の利用圏域を決め、関係する全自治会へお知らせをしたら、話し合いがスタートします。

まずは、公園の活用の幅を広げる利用ルールづくりについて。アドバイザーのサポートを受けながら、運営委員会として、地域住民に広く参加を呼びかけ、アンケートやワークショップを行います。

まずは、その公園は現状どんな使われ方をしているか?どんな課題があるのか?地域の悩みや困りごとをあげたり、これからどんなことをしてみたいか?の意見を出していくところから始めていくようです。他の公園での取り組みや先進的な事例も参考にしながら、アイデアを出し合います。

そして、公園を利用する子どもやその親、周辺住民、老若男女様々な立場や視点に立って話し合い、異なる意見をもつ人たちもお互いの状況や思いに理解を深めながら、どうやったら一緒にできるか?を考えていきます。

その中で、ボール遊びや花火、騒音、ペットの散歩などについても、具体的に決めて、地域でルールを共有します。「できること」と「できないこと」を明確にし、整理して、その情報を共有して公園をみんなで使うというイメージです。検討する項目は他の公園のルール看板を参考にすることもあるそうです。ルール案ができたら、地域に周知し、最終型ができあがったら看板にして掲示します。

市の一律ルールではどうしても曖昧になる部分も多くありますが、話し合いを通して、地域や公園の状況にあった形をつくっていくことができるので自由度が上がります。利用するうちに不都合が出てきたら、また話し合いをしてルールを変えていくことも可能とのこと。

たとえば、下月隈中央公園ではこのようなルールがつくられていました。

・夜21:00〜朝08:00は静かに公園を利用すること
・自転車は柿の木の下に駐輪すること
・花火は保護者同伴とする。ただし打ち上げ花火は禁止
・飲酒禁止
・犬のフンが散見される場合は、「犬の散歩禁止」のルールを新たに加えるものとする
など(一部抜粋)

(下月隈中央公園の地域ルール看板)

協定締結と支援メニュー

地域の合意形成は、ワークショップや話し合いを重ねて行われていきます。ワークショップニュースなどのお便りの発行や掲示・回覧は自治会(運営委員会)の担当ですが、市もサポートをしながら進めているとのこと。

公園の利用ルールづくりと合わせて、管理運営の体制が決まったら、いよいよ協定の締結です。

地域の人が中心となって、公園の運営、快適な公園にするための工夫、公園のお手入れなどを行っていきます。コミュニティパーク事業は、2023年11月現在7公園で実施されています。お月見コンサートや手づくりマーケットなど、地域の人々が集うイベントを多く行うようになった公園もあれば、公園をより快適な空間にするためにベンチやテーブル、花壇の設置をした公園もあるそうです。

公園の清掃や除草作業においては、公園愛護会の報奨金を活用。日常点検で危険な箇所が見つかれば、区役所に連絡。施設の修繕や高木の剪定などは市が行います。花づくりには、(公財)福岡市緑のまちづくり協会「地域の花づくり活動支援事業」による助成金を申請することもできるなど、既存の支援制度を組み合わせながら、活動ができるようになっているようです。

準備も含め事業を進めるため、「コミュニティパーク事業の手引き」が公開されています。これまでに行われた取り組みやお楽しみイベントなどの先行事例を交えながら、維持管理作業の内容、言葉がけやコミュニケーションのポイントなどの細かい部分までよく紹介されているので、とても参考になります。

市役所とのコミュニケーションも、毎年の協定書更新時をはじめ、定期的にヒアリングを行い、適宜相談できる体制が整っているのも心強いところです。

さらに希望すれば公園内に建物の建設も可能

1年以上コミュニティパーク事業による公園の適切な管理運営が行われ、さらなる公園の活用を希望する場合、一定の要件を満たせば、パークハウス(地域がつくる、魅力的な公園づくりと地域コミュニティの活性化を目的とした建物)の設置が特別に認められるという点もユニークなところです。

建物は、公園施設としてだれもがいつでも自由に使える施設として設置されます。下月隈中央公園でもパークハウスが建設され、地域カフェとして利用・開放されることで、地域の多世代が公園に集い、憩い、交流する場になっていました。下月隈中央公園の他にも田隈中公園(早良区)、名島渡場公園(愛称「茅町公園」:東区)でもパークハウスが建設されています。

パークハウスの建設にあたっては、利用圏域の自治会や公園隣接者全員の同意が必要なほか、いくつかの条件があります。建設費用は、要件を満たす場合「福岡市集会施設補助金制度」を利用することもでき、その場合は800万円を上限に1/2の補助が受けられるそうです。

地域にとって資金集めは大きな課題のようですが、やはり「公園にみんなで集まれる場所がほしい!」という思いが強く、パークハウスを建設するためにコミュニティパーク事業に参加したという公園も多いそうです。

(下月隈中央公園のパークハウス)

公園を中心とした地域コミュニティづくりは、全国からも注目

このように、地域の人々が主体となって公園を積極的に活用していくコミュニティパーク事業は、身近な公園を活性化する仕組みとして、全国の自治体や研究者からも注目を集めています。

国土交通省が行った「都市公園の柔軟な管理運営のあり方に関する検討会(2022-23年)」でも、しなやかに使いこなす仕組みをととのえるための利用ルールの弾力化の参考事例として取り上げられ、紹介されています。(参考資料【事例編】P19

市民向けには、福岡市政だよりや、ホームページなどで事業の広報をしているほか、自治会町内会向けには、より詳しくコミュニティパーク事業に参加するための情報などを発信されているとのこと。

全ての公園を同じように当てはめるのではなく、希望する地域が手を挙げて、やりたい人たちが積極的に取り組めるような制度になっているのも、素晴らしい点だと感じます。

「やっているのは、公園を通じた地域のコミュニティ活性化ですね。公園の利活用が大きなテーマです。コミュニティパークに限らず、公園の利活用が進み、ひいてはそれが地域コミュニティの活性化に繋がっていければと思います。」と話してくださった小泉さん。

人口が増え続けている福岡市。高齢化する地域もあれば、子どもが増えている地域もあるとのこと。街の中心部の賑わいのある公園、住宅地にある身近な公園、それぞれの地域にあった利活用の形がありそうです。様々な地域コミュニティづくりに、公園が果たす役割の大きさを改めて感じました。


【基本情報】

取り組みの名称コミュニティパーク事業
実施自治体福岡市 住宅都市局 公園部 活用課
事業の目的コミュニティパーク事業は、公園をとりまく利用の課題やコミュニティの課題解決に向け、地域による公園の利用ルールづくりと自律的な管理運営によって、地域にとって使いやすく魅力的な公園づくりと地域コミュニティの活性化を目指すために、平成29年度より始まった事業です。
取り組みの詳細福岡市のホームページをご覧ください
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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