2023/11/8

ランドスケープを学ぶ大学院生が公園愛護活動を取材する

大阪公立大学 緑地計画学研究室

大阪公立大学の大学院生が、大阪市の公園愛護会の皆さんの活動を紹介する「大阪となりの公園愛護会」。公園の利活用やランドスケープ設計を学び研究する大学院生の視点で、これまで7つの公園でのボランティア活動を取材し、記事にしてきました。

今回はスタートして1年を迎え、レポーターとして活躍する中辻魁人さんと中元菫さん、そしてお二人の所属する大阪公立大学大学院 農学研究科 緑地環境科学専攻 緑地計画学研究室の武田重昭准教授に、公園ボランティア取材活動に取り組んでの気づきや経験をお聞きする特別編です。

大学の外に出て、社会の中で学ぶ機会に

そもそもこの「大阪となりの公園愛護会」プロジェクトがスタートした背景には、「全国各地の公園ボランティアのリアルな活動を知りたい!全部自分たちだけでは行けないから各地に仲間がほしい!」というみんなの公園愛護会の思いがありました。

そのようなレポーターとしての取材活動を、学生さんたちが社会の中で学び経験を積む場として活用してくださったのが、武田先生です。

ランドスケープ設計や公園づくりは、研究室だけで完結する分野ではないため、学生さんには出来るだけ社会との接点を多く持てるよう、普段から特に大学院生は外に連れ出す機会を多く作っているとのこと。それはご自身が大学院生の頃、行政の委員会や社会人の勉強会・研究会などに連れて行ってもらったという経験がのちに役立ったことも影響しているそうです。

「学生たちが社会との接点を持てる、ありがたい機会をいただいたと思っています。」と話してくださった武田先生。

公園愛護活動の現場を知ることは、公園や都市の中にあるオープンスペースのデザインを学ぶ学生さんにも良い経験になること、とくに公園のルールについて卒業論文を書いた中辻さんにピッタリだし、公務員志望の中元さんにも良い機会になると思い声をかけてくださったことを教えてくださいました。

(武田重昭先生:都市と暮らしをつなぐランドスケープを研究されています)

公園の管理運営について実地で知ることができた

大学の卒業論文では「都市公園におけるボール遊び等の規制実態と緩和の可能性」をテーマに選んだ中辻さん。大学院ではフィールドワークをやりたいと考えていたので、なんでもやってみようと思い挑戦。みんなの公園愛護会のレポーター以外にも、URのワークショップや川西市のプロジェクトなど、いろいろアクティブに活動されています。

小規模公園を研究している中で、利用者や設計者の視点のほか、管理運営についても知りたいと思ったことが参加するきっかけになったと振り返ります。

「公園の利用者としてはこれまでの経験があるし、設計は授業でかじったんですが、管理運営については、全然わからなくて。行ってみないとわからなかったことが本当にたくさんありますね。」と中辻さん。

管理運営については、これまで行った4公園どれも違うやり方で行われていたことが印象的だったそう。たとえば、ポイ捨てごみへの対策一つをとっても、ゴミ箱を撤去したり、あえて注意をせずに笑顔で挨拶をしたり、それぞれの公園でそれぞれの対策が行われ、地域に応じた多様な管理運営が行われていることが新たな発見だったとのこと。

そしてどこも愛護会の皆さんが楽しそうに活動をされていたり、地域を良くしたいという思いがとてもよく伝わってきて、今まで思っていたイメージと全然違ったことを話してくれました。

(中辻魁人さん:卒論では大阪府内の全市町村の公園でのルールについて調査)

これまで行った公園はどこもそれぞれ熱心に活動されていたそうですが、その中でも印象に残った活動として、三先公園での小学校と連携した清掃活動を挙げてくれました。

三先公園では、三先小学校の1年生から6年生まで全校生徒が公園愛護活動に関わっています。子どもの時点で公園の管理についても体験で学べること、公園を掃除している人の顔を見る機会になること、毎月一緒に掃除することで地域の見守りにもなっていることなど、子どもたちが参画して一緒にやるメリットは計り知れず、公園が地域の中心になるすごく良い取り組みだと感じたそうです。

「利用者と設計者と管理運営の三つの視点、どれも大事だと思うのですが、この三つを考えられるようになったのは、すごく良い経験になっていると思います。」と中辻さん。

子どもの頃からよく公園で遊んでいたという中辻さんの記事は、愛護会活動の様子や素晴らしさを伝える中に、自らの気づきや等身大の感想がうまく織り交ぜられていて、読んでいて親しみを感じます。

(川西市での研究についても紹介してくれました)

公務員を目指す上でも役立つ視点や経験があった

公務員志望の中元さんは、将来行政の仕事をする上で役立ちそうだし勉強のためにと思ったのが初めのきっかけだったと話してくれました。地域の人と行政が一体になって公園を良くしていこうという公園愛護会の活動を取材することで、良い関係の築き方やノウハウが学べるのではないかと思い、レポーターに挑戦されたそうです。

実際にやってみると、自分の性格や価値観ともピッタリで、人の温かさや、地域ごとの雰囲気の違いを肌で感じられるのがとても面白くて、個人的な興味としてレポーター活動を純粋に楽しんでいるんだそう。

「公務員としての将来のためにも大きなものを得たし、ローカルな人の話を聞いたりするのが好きで、自分の性分としても合うので、どちらの面でも得るものが大きかったです。」と話してくださった中元さん。

肌で感じる空気感や人の温かさというのは、実際自分がその場所に行ってインタビューしないと体感できないことで、本やネットで得られる情報とは全く違う、現場に行くからこそ味わえることだと話してくれました。

この経験や感覚を知って公務員になるのと、これを知らずに公務員になるのとでは全然違うと感じているとのこと。相手の実情を考えることや、現場の肌感覚にもつながる貴重な経験になっているようです。

(中元菫さん:ローカルなコミュニティに触れて人の話を聞くのが好き)

中元さんも、これまでに行った全ての公園がそれぞれ個性的だったと振り返ります。地域猫活動も行う南江口北公園の皆さんの意志の強さもすごかったのですが、早朝に清掃活動をする西天満公園で、活動後に公園の近くのコーヒー屋さんにモーニングに行くという愛護会の皆さんの仲の良さ、そして朝食をサービスするコーヒー屋さんの存在、お互いが出せるものを出し合うという地域ぐるみで公園愛護活動を支えている姿がとてもよかったとのこと。

このようなローカルな情報は、まさに現場に取材に行かなければ得られないもの。土地柄やそこに暮らす人々の文化や価値観にも通じるものがあり、みんなの公園愛護会としても貴重な情報で、これこそが各地域にレポーター仲間を増やしたい理由のひとつです。

このように、地域の人たちの話を聞くのが好きという中元さんの個性は、取材活動にも生きています。

これまでの取材を通して、公園が、地域で積極的にコミュニティを持ち、自分の居場所を作って楽しんで暮らすための場所として機能していることを感じたと話してくれた中元さん。公園愛護会活動は、ただ義務感で行うだけの作業ではなく、退職後の生活の楽しみのひとつとして活用している人が多いという発見もあったそうです。

(一番初めの東小橋北公園を一緒に取材した時の1枚)

文章を書いて見てもらい感謝される、成果を形に残せる活動

公園での活動を見て、話を聞いて、写真を撮って、文章にまとめて、記事にするというレポーター活動は、文章を書く良い練習にもなったと2人は話してくれています。記事の執筆にあたっては、東京チームからのサポートも受けながら、進めています。

自分が見たこと、体験したこと、思ったことを、形にする。読みやすく、伝わりやすいように、どうやってまとめるのか?日本語力の鍛錬や言葉の組み立てスキルの向上にも繋がっているとのこと。

また、書いた記事は、取材した愛護会の方々にも毎回とても喜ばれていて、それもやりがいに繋がっているそうです。

「大学の中だけでは学べない体験をして、文章として公表する、それが短いサイクルで繰り返しできるというのも、学生にとってはすごく良い経験になっていると思います」と武田先生。

自分で聞いたり調べたりしたことを書いて人に伝えるというのは、仕事においても研究においても全ての基本。卒論や修論では年単位の時間をかけて仕上げるのが一般的ですが、レポーターは1つの公園ごとに完結するので短期間で終わり、何度も行うことができています。そのような訓練をする機会になっていることに加えて、成果が名前つきで公表されていろいろな人に見てもらえること、また書いたことで相手に喜んでもらえるという一連の経験について、教育者の視点でも価値を話してくださいました。

(喜んでもらえることが、やりがいにも繋がっていると話してくださった中辻さん)

公園愛護活動を支え応援するみんな仲間

公園ボランティア活動の現場に足を運び、そこで熱心に活動している人々への敬意を持って、記事にして社会に伝えるというレポーターの活動は、話を聞きにいくこと、記事という形にして人々の取り組みを伝えること、その両面で喜ばれ、歓迎されています。

これは公園ボランティアを支える方法のひとつとして機能していると武田先生はおっしゃってくださいました。

「喜んでもらえるのが良いですよね。話を聞いてレポートを作るというだけでなく、愛護会の人たちを温かく見守りつつ支えて応援してるっていうネットワークを作ってるってことが、すごい大事だなと思います。ネットワーク広げてくださいね。」とエールをいただきました。

みんなの公園愛護会もどんどん仲間を増やして活動を広げていきたいと思います。

そして、中辻さん、中元さんが、レポーターの経験をもって大学でも社会でも益々活躍されるのが楽しみです。

(大阪公立大学 中百舌鳥キャンパス)

みんなの公園愛護会では、地域レポーターを募集しています

学生、社会人、子育てしながら、セカンドライフの楽しみのひとつとして、みんなの公園愛護会地域レポーターになりませんか?それぞれの立場から公園ボランティア活動を応援する関わり方のひとつとして、ぜひ仲間になっていただけたら、うれしいです。

地域協働や公園管理の現場のフィールドワークとして、学校の中から社会に飛び出して学ぶ機会としての活用も大歓迎です。

また、「うちの自治体の公園ボランティアも取材してほしい!」など、インタビューを通して公園ボランティアの価値を発信し、モチベーションアップを図りたい自治体も募集しています。

地域レポーターについてのお問い合わせは:
みんなの公園愛護会まで、お気軽に メール でご連絡ください。


取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

みんなの公園愛護活動レポートに戻る