2024/9/8

公園のルールづくりが、活力ある地域づくりに!!

大和団地(川西市)

さまざまな公園育て活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回ご紹介するのは、自治会を中心に行政・大学と協働で、地域にある12の公園のルールづくりを行った、兵庫県川西市にある大和(だいわ)団地の皆さんです。

兵庫県川西市の「特色ある公園づくり」

川西市では、公園の禁止事項が増えてきた経緯から、「特色ある公園づくり」という事業により、ルールの見直しを推進しています。その第一歩として、川西市は大和団地で2022年3月から試行的に、計5回のワークショップを開催しました。なお、このワークショップは大和自治会を中心に、川西市公園緑地課、大阪公立大学緑地計画学研究室の協働のもと行われました。実は今春、同研究室を卒業した筆者中辻魁人も学生として参画し、プログラムの企画や進行を行いました。その内容について、ご紹介します。

地域住民による公園の活用に向けた準備

1960年代に、開発された大規模住宅団地である大和団地。いわゆる戸建て住宅が立ち並ぶニュータウンです。落ち着いた雰囲気が素敵で、公園の数が豊富なまちです。

(自然豊かな風景が広がっています)

しかし、そんな公園には全て同じルール看板が立てられ、野球、サッカー等の球技や、花火等の火気の使用が禁止されていました。このような中、大和自治会はワークショップ開催前から、”ボール遊びができないこと”や、”公園の利用者が少ないこと”等の課題を整理していました。

(全公園に掲示されていたルール看板:川西市のすべてのエリアで共通のルール)

さらに大和自治会は、これら課題に対応すべく、地域内の公園を特徴に応じて5つに分類し、それぞれの目標像を整理しました。例えば、ぼうけん公園では、新たに遊具を新設するハード整備の目標像を。少し広めのふれあい公園では、キャッチボール等のボール遊びのルールを緩和する目標像を設定していました。

大和自治会が整理した公園の目標像

ふれあい公園・親子のふれあい広場を目的とし、キャッチボール等出来る公園とする
・3世代が憩う場としてベンチ・散策道を設置
ぼうけん公園・チャレンジできる遊具を設置したアスレチック公園
・ベンチ・散策道を設置
花と緑の公園・季節ごとに花が咲き木々が色づく公園
・高齢化しているので、段差を解消しベンチ・散策道を設置
幼児公園・芝生を植え、犬の散歩を禁止する
・遊具、フェンスなどを幼児が喜ぶパステルカラーにする
・立水栓を設置
スポーツ公園・スポーツを楽しみ、応援する為に観覧席を設置
・立水栓を設置

公園の現状を共有し、公園の使いこなし方を学ぼう!

プロジェクトは、大和団地の12カ所の公園を対象に行われました。全5回のワークショップの主な内容は以下の通りです:
  第1回 公園の課題と目標像の共有
  第2回 公園の使い方のアイデア出し
  第3回 実証実験に向けた作戦会議
  第4回 実証実験
  第5回 公園のルールづくり

まずは、第1回ワークショップです。第1回は、大和自治会が事前に整理していた地域の公園の課題と、目標像を共有しました。その後、大阪公立大学の武田重昭先生から、公園の使いこなし方に関する講演がありました。この講演で、他地域の公園の自由な使い方の事例と共に、使い方次第で生活がずっと豊かになることを学びました。

(興味深々に講演に耳を傾けます)

公園の使い方のアイデアを広げよう!!

第2回ワークショップは、地域の利用ニーズおよび、従来の使い方に捉われない新たな利用を発掘するために、公園の使い方のアイデア出しを行いました。

具体的には、”公園の理想的な使い方”をテーマに、楽しくおしゃべりしながら、グループワークを行いました。これにより、キャッチボール等の日常的な使い方から、マルシェや、パブリックビューイングなどの非日常的な使い方まで、幅広い多くのアイデアが出ました。また、参加者の小学生からは、「自分の夢を実現できる公園にしたい」といった希望に満ちた声もありました。

こうして、皆さんが同じ場で話し合うことで、ルールの議論をする前に、まず公園で何をしたいかを共有することができました。

(一人ひとりがアイデアを紹介しています)
(全体での発表に向けてアイデアをグルーピングします)
(グループワークの成果物)

第2回で想像以上に多くのアイデアが出たことから、それらを実行できるようにするルールの変更の可能性を検証するために、実証実験の実施が決定しました。

次の第3回ワークショップ以降は、当初変更するルールの内容について議論する予定でしたが、第3回は実証実験に向けて、みんなで作戦会議をしました。

まず前半はグループで、第2回で出た公園の使い方のアイデアを参考にしながら、実証実験で実践したい内容と公園について、意見を出し合いました。そして後半は全体で、各グループの意見を基に、各公園の使用状況や周辺環境を振り返りながら、実証実験の内容を詰めていきました。

ここでは、「今までしてこなかったこともやってみよう!」や「ある程度の広さがある公園でやってみよう!」などの意見が挙がりました。その結果、街区公園である大和第1公園で、ボール遊び、花火、焼き芋の実施が決定しました。

(どの公園だったらできそうかな…)
(当日の注意事項まで、入念に意見交換をします)

みんなが待ち望んだ実証実験!!

いよいよ実証実験の日を迎えました!この日に向けて、大和自治会を中心とする地域住民で、市への許可申請や焼き芋の装置等のたくさんの準備をしてきました。

当日はまず、大和自治会のメンバーを中心に、当日のスケジュールを確認しながら、焼き芋の火起こしから行いました。開催時間が近づくにつれ人が増えていき、なんとこの日は、300人ほどの人が集まりました。

(事前に打ち合わせをしながら焼き芋の準備をします)
(開始時間前から多くの人が集まってきました)

いつ始まるのか子どもたちがソワソワしている中、まず実証実験を始める前に、学生である私から注意事項のカードを配布しました。ここには、楽しく遊びながらルールを学んでほしいという想いを込めて、最低限守ってほしいことを書かせていただきました。

(ルールのカード:みんなで仲良く楽しく遊ぶことが一番大切!)

開始の時刻になると、子どもたちは瞬く間に広がり、お友達や親子で遊び始めました。サッカーやドッジボールなどで遊んでいましたが、特に危険な遊び方は見られませんでした。

もしかすると読者の中には、ボール遊びの実証実験って盛り上がるの?と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は私も不安でしたが、いつもは出来ないためか、この日は思いっきり楽しんでいる姿が見られました。

(友達とボールを追いかけます!)
(ゴムボールとプラスチックバットなら安全です)

次は、焼き芋タイムです。今回、皆さんが一番楽しみにしていたプログラムということもあり、行列ができました。自治会の皆さんが準備してくださった焼き芋を、大人も子どもも楽しくほおばる様子が見られました。

(焼き芋にすごい数の行列ができています)
(私もいただきました!公園で食べる焼き芋は、格別です!)

プログラムの最後は、花火です。近くのお家に配慮しながら、時間を分けて行いました。子どもたちは順番を守りながら、一人3回も4回も遊ぶことができ、明るい時間でしたがとても盛り上がりました。また初めて花火をする子どもも多く、大人たちに教えてもらいながら楽しみました。

実証実験について、子どもたちからは、「普段できなかったから楽しかった!」「いつもと違う公園を楽しめた」といった感想をいただきました。

(大人に遊び方を教えてもらいます)
(友達に火を分けてあげています)

最後はみんなでルールづくり!!

最後の第5回ワークショップは、みんなでルールを決めていきます。そこでまずは、実証実験の振り返りから行いました。ここでは、近隣にお住まいの方からの苦情がなく実施できたことが共有されました。また、実証実験の日に実施した参加者へのアンケート調査から得られた、騒音や花火の火の始末等の課題も共有されました。

その後は本題の、公園のルールをどう変えるかについて、議論しました。ここでは、これまでのワークショップの成果を踏まえながら、以下の3点について、参加者の皆さんで忌憚のない意見交換が行われました。①「何のルールを変えるのか」②「どの公園のルールを変えるのか」③「どんなルール内容にするのか」 

(地域のことを考え、皆さん真剣に議論します)
(ホワイトボードで公園ごとに整理します)

話し合いの結果、実証実験で一定の成果が得られたことから、ボール遊びと花火のルールの変更が決まりました。またボール遊びと花火ともに、実証実験を実施した大和第1公園を含め、複数の公園のルールを変更することになりました。ルール内容については、実証実験で得た課題を踏まえながら決めていき、特にボール遊びについては、公園の規模や周辺環境に応じて、ルール内容を異なるものにしました。

さらにこのルールでは、公園でできないことばかりを羅列するのではなく、「できること」を表記することになりました。これには、「公園をもっと使ってほしい」という地域の皆さんの想いが込められています。

また今回決定したルール内容については、近隣や他の利用者の迷惑にならないか等を検証するために、試行期間を設けることになりました。

(ワークショップで決定したルール案)

ボール遊びと花火の試行期間

試行期間はルールを変更した公園の中でも、平木谷公園、大和第1公園、大和第2公園、大和第10公園に絞り、決定した案を微調整したルールで、実施されました。ボール遊びの試行は、大和自治会のメンバーによる公園の巡回のもとで行われ、サッカーやキャッチボール等で遊ぶ様子が見られました。

(サッカーも思う存分楽んでいます)

花火の試行もボール遊びと同様に、大和自治会のメンバーによる見守りのもと、夏休み期間中に実施されました。なんと多い日には、80名もの人が集まったそうです。私が参加した日も中学生グループや多くの家族が参加しており、子どもだけではなく、見守りの保護者も楽しそうなことがとても印象的でした。

地域の皆さんからは、「今まで家の前でしていた花火を外で思い切りできて楽しかった」などの声があり、反響も大きかったそうです。また全体を通して、ボール遊び、花火ともに近隣家屋からの苦情やトラブル等もなく終えることができました。今後は試行実施をした公園のルールの実装だけでなく、その他公園への展開に向けても調整していくとのことでした。

(友達同士での花火はとても楽しそうです)
(家族での花火も楽しそうです)

変わったのはルールだけではない!?

試行期間終了後、地域の方々からは、今回ルールづくりをした花火に加えて、「焼き芋も地域に定着させていきたい」との声が聞かれました。さらに、この取組みで変わったのは、ルールだけではないようです。ある自治会メンバーの方は、「住民間でのコミュニケーションの機会が増え、地域の結束力が高まった」と言います。また、「自分たちでルールを考えた分、見守りたい。自分たちで公園の課題も解決できるようにしたい」と今後の展望を語ってくださいました。

今回の大和団地の取組みが成功した要因は、たくさんあると思います。その中の一つとして、実証実験を実施したことが重要だったと思います。これを機会に、禁止されていたことでも、「意外とできるかも!」という機運が一気に高まったと感じました。同時に課題も見えたことで、議論すべきポイントも明確になりました。

ただ中でも一番は、やはり公園の課題に真摯に向き合った”地域力”だと思います。ワークショップ開催前から課題と目標像を定めていたこと。そして実証実験の準備や、試行期間の見守り等の活動など、地域の皆さんの「地域を良くしたい」という一心が、実を結んだのだと思います。

私は、卒業論文から公園のルールについて研究してきましたが、今回の取組みは私に、大切なことを気づかせてくれたと思っています。それは公園のルールづくりには、地域を変えられるポテンシャルがあること。少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、私はそうでもないと思っています。本来誰もが自由に使える公園の使い方を見直す過程を大切にし、その先のルールをうまく運用していけば、きっと良い地域づくりにつながると思います。

(大和団地にかかる虹:とてもきれいです!)

川西市の「特色ある公園づくり」の先駆事例である大和団地での取組みは、川西市の他地域からの反響が大きかったそうです。さらに複数の地域からルールの見直しの要望があがっていると言います。今後は大和団地で得られた成果が、他地域にどのように展開されていくかにも注目です!

 今回の大和団地でのルールづくりのプロセスは、筆者の修士論文「川西市の“特色ある公園づくり”における実践的研究」でも報告しているので、是非ご覧ください。

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取材・執筆
取材・執筆
中辻 魁人

学生時代に始めたレポーター活動にやりがいを感じ、社会人になった今も継続。卒業論文、修士論文ともに公園の利用ルールについて研究し、どうすれば誰もが自由に使いこなせる公園になるか日々考えている。大阪公立大学大学院 緑地計画学研究室卒業。大阪府堺市出身。現在は関西に基盤を置く不動産会社に勤務。

学生時代に始めたレポーター活動にやりがいを感じ、社会人になった今も継続。卒業論文、修士論文ともに公園の利用ルールについて研究し、どうすれば誰もが自由に使いこなせる公園になるか日々考えている。大阪公立大学大学院 緑地計画学研究室卒業。大阪府堺市出身。現在は関西に基盤を置く不動産会社に勤務。

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