各地の公園ボランティアの活動を紹介するコーナー「となりの公園愛護会」。行政と地域NPOが協働で愛護会のサポートをする取り組みについて、先日「地域のNPOだからこそできる行政と公園愛護会のサポート」の記事でも紹介しましたが、地域の営みに光を当てるローカルウェブメディア「森ノオト」さんとのコラボレーション第6回。
タネから育てた花苗を、区内各地の公園愛護会へ配付して花壇づくりをしているという、公園ボランティアの会の皆さんの興味深い取り組みにスポットライトを当てた記事です。(本記事は2021年に取材したものです)
横浜市青葉区とNPO法人森ノオトは、花と緑を通じた対話(=ダイアログ)を通して、花と緑の活 動を始めるきっかけや、活動をしている人同士のつながりをつくる、「フラワーダイアログあおば」 事業を協働で行っています。この活動の一環として、NPO法人森ノオトが地域のボランティアの みなさんを取材した記事をご紹介します。
金沢区公園ボランティアの会の皆さん
金沢区では、公園ボランティアの会の方々がタネから育てた花苗を、公園愛護会に配って花壇づくりをしているらしいという噂を、昨年から何度か耳にするようになりました。一般的な公園ボランティア活動の、さらに上をいく活動って何? どうやって運営しているの? 気になる!ということで、その謎を解き明かすべく取材に行ってきました。
向かったのは、金沢区の土木事務所です。金沢区というと、八景島シーパラダイスがあり、海山の魅力や、歴史的な文化遺産も多く、逗子や鎌倉が近くてなんとなく観光気分になってしまうのですが、気持ちを引き締めて目的地へいざ!
横浜市営地下鉄であざみ野から上大岡へ、そこで京浜急行に乗りかえて、金沢文庫駅から10分ほど歩くと、左手に土木事務所の看板が見えてきました。
土木事務所の入り口を入ると、左手に事務所の建物があり、駐車場を挟んで右手に、金沢区公園ボランティアの会の活動場所である「フラワーセンター」があります。午前9時半ごろに伺うと、すでに作業が始まっていて、お揃いの緑のエプロンをした方々が、たくさんいらっしゃる!そして、それぞれの持ち場で作業を進める姿は、まるでプロの業者さんのようです。
金沢区公園ボランティアの会では、毎年、春と秋にタネから苗を育てて、区内の100カ所以上の公園愛護会の花壇に花苗を配付しています。メンバーは約60人で、毎回の作業日には20人から30人ほどが参加しているそうです(2021年6月時点)。メンバーの大多数が、それぞれ自分の地域での公園愛護会活動もしているので、フラワーセンターでの活動の後に、そのまま公園に作業に行くという方もいました。
現在、金沢区土木事務所の下水道・公園係、公園愛護会等コーディネーターの千﨑さんが、この活動をまとめ、支えています。「活動の最初のきっかけをつくったのは、前任のコーディネーターさんで、詳しくはわからないのですが」と、いうことで、熟練のボランティアメンバーの方々を交えてお話を伺いました。
金沢区にはたくさんの公園があり、その数は207。総面積は293万4,287㎡です。公園数では233の青葉区が横浜一を誇りますが、総面積では青葉区は102万1,066㎡ですから、その2倍以上、いや3倍に近い面積。人口は、青葉区が約31万人で、金沢区が約20万人なので、単純計算では、区民一人当たりの公園の面積は青葉区よりも広いことがわかります。(公園数・総面積については令和3年3月31日現在。人口は令和3年5月1日現在。)
2008年頃、前任のコーディネーターの方の強い希望と熱意により、それに応じた市民のみなさんが、1年間、コーディネーターさんと共に公園の管理や手入れ方法について学ぶことから、活動が始まったのだそうです。
「南区にあるこども植物園の講座で、草花や木のことを学んだ人たちが、金沢区土木事務所から『緑の環境リーダー』の委嘱状をもらいました。そのメンバーで『緑の環境リーダー会』をつくって、サークル的に様々な活動をする中で各愛護会を超えた横のつながりが徐々にできていきました」と、ボランティアのみなさん。
以前、青葉区の土木事務所の取材で、公園愛護会の支援メニューの紹介をしたことがありましたが、金沢区では、堆肥づくりや、剪定、刈り込み、樹名板作りの支援など、行政が用意しているメニューを、緑の環境リーダー会がサポートして、そのうちに区内の愛護会を指導する役割をも担うようになっていったそうです。金沢区では、公園管理のスキルを持った市民を、コーディネーターと緑の環境リーダーが先頭に立って積極的に育てていった、という背景があったのですね。
「最初は、フラワーセンターの施設も何もなくて、ただの砂利の広場だったんですよ。リーダー会のメンバーは、まず公園の清掃など環境を整備することから始めて、次に花壇づくりをしましょうということになったのかな。堆肥づくりからやっていて、最初は花苗を買っていたんだけど、ちゃんとやろうと思ったら愛護会費じゃ全然予算が足りないねっていうので、タネから育てることを始めたわけです。施設をつくるのは土木の得意分野だから、だんだんに作業場がつくられていったんです。今では、床にコンクリートが敷かれて、屋根も全面にできてね」と、皆さん感慨深げです。
緑の環境リーダー会では、公園の手入れや育苗作業だけでなく、交流の機会も自分たちでつくってきたそうです。「今年はコロナでウォーキングも中止だけど、それぞれの公園をエリアごとに分けて順に回ったのは楽しかったね。あれで、いろんな公園があるってことを知ったのはよかった」、「そうそう、たくさんあるからちょっとずつ、10回以上行ったんじゃないかしら」、「樹名板をつくりたいっていう公園があると、そこへいって、樹木の種類を調べるところから私たちやるんです。このまちは、もともと山だったから、図鑑に載っていないような木があったりするんですよ」と、思い出話に花が咲きます。
活動するボランティアのメンバーは、50代から80代の方々です。前任のコーディネーターさんの、巻き込み力によって活動の母体ができ、緻密なスケジュールで動く皆さんの行動力には驚くばかりですが、千﨑さんの代になって、少し穏やかに落ち着いて、みんなが参加しやすい形ができてきたそうです。
「緑の環境リーダー会は、やることの量が増えてしまって、他のメンバーが必要だと感じていたので、フラワーサポーターという別のサークルを立ち上げました。育苗に関してゆるく関われるメンバーということで、募集したら30人くらいの方が集まりました。しばらくはリーダー会とは別で運営していたのですが、2年前に、2つの団体を合わせて『金沢区公園ボランティアの会』として、新しいメンバーを加えて活動するようになったんです」と千﨑さん。育苗の季節はこまめに活動する必要があるので、水やり当番に分担して入ってもらえるように細かな調整が欠かせないといいます。今では、月一回の定例会に、コーディネーターだけでなく、土木事務所の下水道・公園係長も毎回参加して、意見交換をしたり、スケジュールなどの情報共有をするようになったそうです。
作業の様子を見ていても、お話を伺っていても、千﨑さんのことを、皆さんが信頼している様子が伝わってきました。「今後もこの公園ボランティアの会の活動が長く続くようにサポートしていきたいです」と、しっかり言い切る千﨑さんの姿に、横で聞いていた土木事務所の下水道・公園係長さんも、深くうなずいていました。
金沢区公園ボランティアの会の活動情報は、会報で公開されているので誰でも読むことができます。
会報での広報を長年担当している方は、「自分も、定年退職してから初めて公園愛護会っていうものがあるって知って、これは広報が必要だと感じましてね。まず、自分が携わっている公園の情報をブログで紹介していたんです。そしたらそれいいわね!やりたい!と、その前任のコーディネーターさんからお声がかかって」と笑います。「でも、これは、いつまで続くのかね(苦笑)」と皆が顔を見合わせていた時、その場にいた最年長の方の口から、「緑の事業に終着駅なし!」という名言が出て、本当にその通り!と皆が納得する瞬間がありました。
草花や木々がなくなってしまったら、経済活動どころではなくなり、私たちは生きていけません。だから活動にも終わりがなく、花や緑の活動には、おおぜいの人が関わる余地がたくさんあります。
金沢区公園ボランティアの会の活動は、10年以上の月日と、人の入れ替わりなどを経て、今、安定期を迎えていると言えるかもしれません。これから先も、また新たなメンバーや仕組みが取り入れられて、変化しながら続いていくことでしょう。会報に公開されている情報を見た若い世代が、金沢区公園ボランティアの会に興味を持ち、今後の活動の担い手になってくれるかもしれません。
金沢区は、2021年で区制73年を迎え、文化遺産も多いまちだけに、花と緑の活動に関しても一歩進んでいるなと感じさせられました。サスティナブルな未来のまちづくりのモデルが一つ、すでにここにある。私は大いに刺激を受けて、帰路につきました。
【基本情報】
団体名 | 金沢区公園ボランティアの会 |
活動場所 | 横浜市 金沢区 |
設立時期 | 2008年 |
(取材:梅原昭子(森ノオト))
*この記事は2021年6月に取材されたものを転載・再掲載しています。
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