2023/11/13

地域の花を種から育てる 花さかスミちゃんボランティア

大阪市(大阪府)

みんなの公園愛護会ではこれまで、公園ボランティアの活動や、それをサポートする行政の取り組みを紹介してきました。今回は公園からちょっとエリアを拡大して、花や緑を介して地域全体の交流や美化を図るこちらの皆さんです。

住吉区の花さかスミちゃんボランティア

大阪市では、市民が自分たちの手で種から花を育て、その花をまちなかの公園、道路、区役所、学校、幼稚園、保育所などに植えることで、きれいな暮らしやすいまちづくりを進めていこうという「種から育てる地域の花づくり」事業が行われています。

花や緑を通して地域を良くしようという活動は、公園愛護活動に限らず、様々な形で行われており、以前取材した我孫子公園で「花さかスミちゃんボランティア」のお話をお聞きしました。

大阪市の種から育てる地域の花づくり事業は、2005年からスタートし、各区ごとに取り組まれています。住吉区では、2008年に建設局主導でこの場所に花づくり広場の整備が行われ、翌2009年から「花さかスミちゃんボランティア」として本格始動。住吉区のマスコットキャラクター「すみちゃん」を活用したユニークなネーミングで親しみのある事業になっているようです。

花さかスミちゃんボランティア事業は、住吉区役所、長居公園事務所、区民ボランティアが良き連携をしながら活動しています。10月の気持ち良い秋晴れの下、活動の拠点である花づくり広場で、皆さんの活動の様子を見学させていただき、お話をお聞きしてきました。

(苗を育てるスペースやビニールハウスもある住吉区の花づくり広場)

住吉区の花づくり広場は、JR阪和線の高架線路傍にあります。ここはもともと線路だった場所で、線路の高架化によって空いたスペースが、地域の緑化の拠点として有効活用されている形です。広場内には、たくさんの育苗台や、ビニールハウス、テント、倉庫などの設備があります。周りには皆さんが種から育てた花々も咲いています。

花さかスミちゃんボランティアへは、興味がある住吉区民なら誰でも参加できます。花づくりの経験がなくても、1人でもOK。お花好きの方や、退職後の社会活動として参加されている方、公園愛護会の活動と兼任で活動する方もいらっしゃいます。季節を感じながら、地域の花を種から育てる活動は、楽しくやりがいもあり、10年以上続けられている方も多いようです。

花さかスミちゃんボランティアの安川ハツ子さん、谷本千賀代さん、小山耕司さん、髙田文惠さんをはじめメンバーの皆さん、そして住吉区役所地域課の担当職員の皆さん、長居公園事務所の担当職員の皆さんにお話をお聞きしました。

(左から髙田さん、安川さん、谷本さん、小山さん:花さかスミちゃんベストが映えます)

春と秋に1万株の花を種から育てて地域に彩りを

花さかスミちゃんボランティアの皆さんの主な活動は、春と秋の年2回地域に配る花苗を種から育てること。配付先は、小学校や中学校・幼稚園・保育園・郵便局・町会・公園愛護会など約90団体、つくる花苗の数はなんと約12,000株です。

花の種類は、丈夫で、手入れしやすく、長持ちするもの。学校などでも育てやすく、ラクに長く花を楽しんでもらえるものを選んでいるとのこと。幼稚園や保育園では植え付け作業のレクチャーも行い、子どもたちと一緒に楽しく花を植えていらっしゃるそうです。植え付けをしたら写真を送ってもらうというシステムで、地域からたくさんの写真が届いていました。

活動は、定例の活動日は設けず、時期に応じて必要な作業を行っています。種まきをして、芽がでる時期は毎日のようにお世話をし、水やり当番を組み、育った花を配ったらひと段落というサイクルです。

「生きもの相手みたいなものですから」と笑顔で話してくださったのは、リーダーの安川ハツ子さんです。安川さんは、育てる花の種類や数の決定、必要な作業の内容や時期の計画、肥料や資材など必要なものの量の計算や購入希望品のリストアップなど、花さかスミちゃんの活動を主体的に取り仕切っていらっしゃいます。

6月配付の春の花の種まきは4月に、11月配付の秋の花の種まきは9月に実施。できるだけ多くの花を地域に届けるため、発芽率を良くし、それぞれがよく育つようたくさんの工夫をされています。

たとえば、種まきはトレーの1区画に1粒ずつになるように丁寧に作業。そして、蒔かれた種は、一度でも水を切らしてしまうと発芽しなくなってしまうため、種まきの時期は水分管理に注意しながら毎日お世話をされています。種まきが終わったばかりのビニールハウスの中のトレーには、保湿のため白い不織布がかけられていました。芽が出たら日光が必要になるため、不織布は取り外し、引き続きハウスの中で管理されます。3枚目の葉っぱが出た頃に鉢上げの作業、苗は少し大きなポットに移植され、外の棚に並べられます。置かれた位置によって成長に差が出ないよう、水やりも端から端まできっちりと、といった具合です。これまでに多くの試行錯誤や研究を重ねた結果、今のスタイルが出来上がっていったんだとか。

(ビニールハウスではたくさんの種類の花の赤ちゃんが次々と芽を出しています)
(この日の作業は鉢上げ:1本ずつ大きなポットにお引っ越ししていきます)
(水やりは、端から端までしっかりたっぷりがポイント)

年2回配付する花苗育て以外にも、10月末のすみよし区民まつりに向けてコスモスを育てたり、3月には花さかスミちゃんふれあいフェスタを開催し、たくさんの子どもたちや地域の人と交流したりと、活動は盛りだくさん。

今年は夏の暑さが長かったせいかコスモス育てに難航したそうです。また区民まつりの日に合わせて花を咲かせるための工夫など、とても研究熱心な様子がお話からもよく伝わってきました。

(2週間後の区民まつりに向けて、花をつけ始めるコスモスたち)

区役所と公園事務所との連携で活動をしっかりサポート

現在、花さかスミちゃんボランティアは住吉区の事業ですが、区役所・公園事務所・ボランティアさんの良き連携によってうまく回っているようです。

区役所は、予算の確保と物品の購入・事業の広報やPRをはじめ、ボランティアの募集、花苗提供先との調整など、事務的な部分を担当。花さかスミちゃん事業は、地域の人々の楽しみになっていること、ボランティアさんが長年頑張って活動していることに加えて、花づくりを通して地域活動に気軽に参加できる事業、住民同士のつながりの「場」やきっかけ作りとなる事業として、歴代の担当者から引き継がれていることを担当の大藪さんと大宅さんが教えてくださいました。

かつて、東日本大震災で東北から移住してきた方が、花さかスミちゃんボランティアのチラシを見て参加し、地域で一緒に活動できる仲間ができたと喜ばれたこともあるそうで、同じ趣味でつながる心の拠り所にもなる事業として、区としても大事にされているそうです。担当の川原さんも、花づくり広場によく足を運び、一緒に作業を手伝っているそうで、つながりの強さが伝わってきます。

公園事務所は、主に技術的な部分を担当。技術指導としてプチ講座を行ったり、土づくりの支援をされているそうです。

また、建設局 公園緑化部では、地域の緑化ボランティア活動を推進する大阪市グリーンコーディネーターの育成を行い、公園事務所では、花と緑の相談車「ひふみ号」での講習も行っていて、心強い存在です。

グリーンコーディネーターの講座を受講して専門的な知識を身につけたメンバーが、花さかスミちゃんボランティアでの活動にフィードバックするという流れもできているとのこと。我孫子公園愛護会長としても活躍する小山さんも大阪市認定グリーンコーディネーターです。

花の育て方はもちろん、購入するものの計算や資材の管理も含めて、地域によってはほとんどの段取りを役所側で行うというケースもある中で、住吉区では花さかスミちゃんボランティアの皆さんが自立して活動していることの素晴らしさを、長居公園事務所の赤枝さんが教えてくださいました。

住吉区は、昔から花屋さんや花の農家も多い地域というのもあってか、配られた花もそれぞれの場所でよく育てられているそうです。この春にたくさんつくったジニアの花は、あまり市販されていない種類なので、近所で咲いているものは全てここでつくられたものだそう。

安川さんをはじめボランティアの皆さんが、主体的に活動されているので、その意志を尊重し気持ちよくやってもらえるように、区役所と公園事務所がしっかりサポートされている様子が印象的でした。またそうやってつくられた花を、地域の人々が大切に育てているというのもステキです。

(春に配付したジニアと千日紅:区内の施設で見られるこの花はほとんどが花さかスミちゃん生まれ)

地域にさまざまな楽しみをつくる

花さかスミちゃんボランティアでは、花にこだわって活動をされています。また咲いた花を最後まで楽しめるよう、ドライフラワーづくりや寄せ植えを学ぶ場を行ったり、住吉に由来のある菜の花を育てる活動にも関わったりと、活動は多岐に渡ります。

それもすべては、楽しみづくりのため。花づくりの活動は、生きものやお天気相手で大変なことも多い中、皆さんでとにかく楽しくやること、続けられることを大切にされています。出席簿は作らず、ボランティアだからみんなで楽しくできるよう、自由な雰囲気でいろいろなお楽しみを考えているとのこと。

花づくりの作業にプラスして、新しいことを覚えて、誰かに教えることもできるようになったり、みんなが喜んでくれるとき、楽しいと言ってくれることがやりがいにも繋がっていることを安川さんは教えてくださいました。

自分たちが楽しんでやることに加えて、区民まつりなどのイベントでより多くの人に楽しんでもらえるよう、ドライフラワーのリースやミニブーケ、松ぼっくりのクラフト、桜の枝のえんぴつなど、これまでいろいろなものをつくってきたそうです。

(広場内の桜の枝でつくった色えんぴつ、とてもかわいいです)

花があることで、まちがキレイになっているという声も届いているようです。線路沿いでごみが多かったこの場所も、花づくり広場ができて、花とともにお手入れをする人がいつもいることで、周辺の道までキレイになり、治安も良くなったそうです。花を植えるとごみも減るから花がほしいという人もいるんだとか。

高架化された線路跡のエリアは、15年か20年後には緑の道になる予定とのことですが、花づくり広場と隣のスミちゃん花広場は残り、緑の道の花の拠点になりそうです。

「自分がつくった花があちこちで見られると、自分のまちだなぁと思えるんです。またいろんな年代の人と作業して知り合いが増える、そうするとまた自分のまちだなぁと思えるんですよね。それが嬉しいです。」と話してくださった谷本さん。

「家にいるよりここに来たらお話もできるし、ここに来るのが生活の中の楽しみの一つになってます。」と話してくださった髙田さん。

「住み良いまち、住吉」「住んでよし、住吉」

インタビューの中で皆さんの口から何度もでた言葉です。昔からそう言われているからね、と話す皆さんの笑顔が輝いていました。

(隣接するスミちゃん花広場は、子どもからお年寄りまで多くの人が訪れる人気の散歩スポット)
(花づくり広場の入口にはこんな看板があります)
(育てる花が多い時には苗を置く台が足りなくなることもあるんだそう)
(将来はここが長い緑の道になるのですね)

【基本情報】

取り組みの名称花さかスミちゃんボランティア
実施自治体大阪市住吉区
事業の目的花さかスミちゃん事業は、現在大阪市の各区で進められている「種から育てる地域の花づくり事業」の住吉区における呼称で、区民のみなさんの手で種から花苗を育て、その花をまちなかの公園、道路、学校、幼稚園、保育所などに植えることで、きれいで暮らしやすいまちづくりを進めるとともに、まちへの愛着を深めながら自主的なまちづくりへの参加意識を高め、住民同士のふれあいやコミュニケーションが活性化し、区民の「健康・いきがいづくり」や「こころの健康づくり」の増進をはかることを目的としています。
取り組みの詳細大阪市住吉区のホームページをご覧ください
活動内容花苗の育成、種まき、水やり、移植、植物の管理、地域のイベント、子ども向けイベント、他団体と連携したイベント など
いつもの活動参加人数20人ほど
登録会員数35人
設立時期2009年
主な参加者お花好きのご近所さん、アクティブシニア
活動に参加したい場合は?住吉区役所地域課までお問い合わせください
自治体からのメッセージ花さかスミちゃんボランティアを募集しています!
ボランティアの皆さんの手で「花づくり広場」で種をまき、水やり、移植作業をしてお花を育てています。花づくりの経験がなくても、住吉区にお住まいで興味があればどなたでも参加できます。詳しくはホームページをご覧ください。
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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