公益財団法人 東京都公園協会「2025 年度公益事業推進課 ボランティア活動レポート作成業務委託」として、一般社団法人みんなの公園愛護会が取材・執筆を行った記事です。
面積も広く、利用する人も多い都立公園。活動している公園ボランティアの方々の活動テーマも多彩。まさに「推しの公園」活動として行われている公園ボランティアのあり方を知っていただければと思います。
江戸時代を代表する大名庭園、六義園(りくぎえん)。その歴史や文化、自然の奥深い魅力を、訪れる人々一人ひとりに丁寧に伝えているのが「六義園ガイド倶楽部」です。2000年の設立以来、高い専門性と温かいおもてなしの心で活動を続ける、都内でも屈指の庭園ガイドボランティア団体。その質の高い活動を支える「流儀」とは何でしょうか。会長の萩原寿夫さんご自身に六義園ガイドをおこなっていただき、その後お話を伺いました。
ライセンス必須のプロ意識高いボランティア集団
六義園ガイド倶楽部の一番の特徴は、その専門性の高さにあります。メンバーになるには、東京都公園協会が主催する有料の養成講座を受講し、試験に合格して「都立庭園ガイドライセンス」を取得しなければなりません。
庭園の歴史から和歌、植物、石の一つひとつまで、覚えることは膨大です。六義園ボランティアガイドの取得のためには、都立庭園ガイドライセンス養成講座を受講後、ガイド現場での実技見習い研修期間があります。先輩ガイドに付き添ってもらっての研修期間を経て、晴れて独り立ちとなるそうです。しかし、その土台があるからこそ、自信を持ってお客様の前に立つことができるそうです。

現在47名のメンバーが在籍。土日祝日を中心に、美しい庭園を訪れる人々を温かく迎え入れています。また、第1・第3日曜日に英語ガイドも開催しています。

絶え間ない探求心。学び続けるための「ガイド塾」
ライセンス取得は、ゴールではなくスタートです。六義園ガイド倶楽部では、メンバーの知識と技術をさらに高めるために、独自の取り組みを続けています。
その中心が、毎月の月例会と一緒に開催される自主勉強会「ガイド塾」。メンバーが持ち回りで「塾長」となり、自身の得意分野や経験を他のメンバーと共有します。テーマは六義園に関することなら何でもOK。過去には、ボイストレーナーを講師に招き、発声練習まで行ったというから驚きです。

ガイド塾での勉強会と聞くと堅苦しいものだと想像していたのですが、伺ってみるとみなさん和気あいあいとツッコミが入ったり、笑いが起こったりと楽しい雰囲気のなか進んでいきます。ボランティアとしてやっているからこそ、楽しく、でも向上したいというガイドのみなさんの熱気を感じました。
造園学の教授や日本野鳥の会などの外部講師を招いた研修会も積極的に実施。その探求心が、参加するたびに新しい発見と出会えるガイドツアーの魅力につながっています。
多様な個性が光る、ガイドごとに異なる庭園案内
ガイド倶楽部には、実に多彩な経歴を持つメンバーが集まっています。他の庭園などでもガイドを務める人、歴史や和歌に詳しい人、植物や野鳥に詳しい人。それぞれの個性を活かせるのも、この倶楽部の魅力です。

基本となるガイドマニュアルはありますが、どの部分をどう切り取って話すかは個々のガイドに委ねられています。そのため、同じ庭園を巡っても、ガイドによって全く違う表情が見えてきます。
英語でのガイドを行う『英語班』も活動しています。言葉はあくまでツール。庭園の魅力を伝えたいという気持ちは、日本語でも英語でも同じです。
訪れる人の興味や関心に合わせて、柔軟に内容を変えることもあるそうです。
私たちが体験させていただいた会長の萩原さんによるガイドでは、庭園の設計意図をわかりやすく伝えるため、ところどころで和歌を吟じてくださいました。独特の節回しのおかげで、当時に想いを馳せることができました。
また、萩原さんは駒込の桜ツアーのガイドもされているということで、植木屋の里の歴史やソメイヨシノの誕生秘話について教えてくださいました。このあたりがガイドによる個性が発揮される部分のようです。

ボランティアだからこその、運営の工夫と課題
ガイドの活動はボランティアなのですが、ガイドを期待して来園されるお客様のために当番に穴を開けるわけにはいきません。そのため、シフト表を作成してスケジュール管理をしています。とはいえ体調などにより代わりのガイドをお願いするなど、サービスを維持するための運営に苦労しているとのこと。
「桜やつつじ、紅葉の時期はガイドが平日も開催されるなど日数も、人員も増やして対応する必要があるので、積極的な参加を呼びかけています」
コロナ禍もあり一時期会員数が減少しましたが、昨年のガイド養成講座には17名もの研修生が参加。2025年2月から新しいガイドとして仲間を迎えることができたそうです。

(公財)東京都公園協会からの助成金でパンフレットなどを作成
六義園ガイド倶楽部では、(公財)東京都公園協会のボランティア助成金を申請し、活動に活かしています。勉強会に外部講師を呼ぶ費用や、歴史や植物関係の書籍を購入しています。ガイド時に来園者に配布する「和歌のしをり」や「六義の栞」も助成金を活用して作成したものです。また、熱中症対策の備品や虫よけスプレーなども購入しています。

閑散期に新しい試み「六義園文化祭」の開催
2025年2月には、はじめての試みとして「六義園文化祭」を開催。テーマを「和歌の浦千三百年記念〜和歌の庭六義園〜」として、ガイド塾特別講義、和歌をテーマとしたガイド、俳句・短歌募集、アート展、クイズラリー、書写体験、バードウォッチング、ランタン制作などなど、多様なイベントを1週間連続で開催しました。

六義園サービスセンター長の樋口直行さんにお話を伺いました。

「六義園サービスセンターと、六義園ガイド倶楽部との協働で行ったはじめての文化祭でした。2月の閑散期にもかかわらず、入園者も増え大盛況。ガイド倶楽部の皆さんも、いままでやりたかったことが実現でき、達成感が得られたようでした」


「ありがとう」の一言が原動力
六義園ガイド倶楽部の萩原さんは、ボランティアの原動力について以下のように話されていました。
「歴史的な素晴らしい庭園を案内できること自体が喜びです。そして何より、ガイドが終わったときに拍手が起こったり、『ありがとう!』、『わかりやすかった!』と言われると、本当に嬉しい気持ちになります。今日も皆さんに最後拍手してもらって嬉しかったです」
歴史と文化の詰まった六義園という舞台で、訪れる人々と感動を分かち合う。その喜びが、メンバー一人ひとりの活動の原動力となっています。
六義園ガイドとしての誇りを胸に、研鑽を積み重ねる六義園ガイド倶楽部。六義園という歴史的遺産に、ガイドによる「豊かな語り」で光を当て、その奥深い魅力を多角的に浮かび上がらせています。
■取材後記
「庭園ガイド」が公園ボランティアで行われているということにまず驚きました! 実際に庭園ガイドを受けてみると、当時の位置づけや何を表現しているかなど見えているものの解像度が上がるクオリティでした。当時、この文脈を語るガイドは庭の当主などが行える権威のある役割だったのかもしれませんね。大変な活動だけれど、歴史好きの方々がハマって、切磋琢磨する理由が垣間見えました。(跡部)
ガイドをしてもらったら、江戸時代から今に続く歴史や人間模様、和歌の美しさ、四季折々の景色が目の前に浮かぶようで、また別の季節にも来てみたいなと思っていました。そんな庭園の魅力を深めるガイドの裏には、スキルを高めるための学びあいの場が!とても高尚な文化活動を垣間見せていただいた驚きの時間でした。(椛田)
団体情報
| 公園名 | 六義園 |
| 団体名 | 六義園ガイド倶楽部 |
| 設立 | 2000年 |
| 活動内容 | 無料の庭園ガイド(日本語/英語) 内部の研修会や勉強会を実施。月例会時に会員が順番に講師になるガイド塾での研鑽も実施 |
| 活動日 | 土日祝 11:00/14:00 英語ガイド:第1第3日曜 11:00/14:00 事前予約により平日の特別ガイド活動もあり |
| メンバー数 | 47名 そのうち役員会(世話人)として以下役職あり(会長、副会長・総務担当、副会長・研修担当、会計、書記、その他として監査役、英語班班長、図書係) |
| ボランティア活動に参加するには? | 都立庭園ガイドボランティアは、東京都公園協会主催の養成講座受講と試験合格により取得できる「都立庭園ガイドライセンス」が必要です。詳細・お申し込みは、水と緑の市民カレッジHPをご覧ください。 ※現在、六義園の養成講座は開催未定です https://www.tokyo-park.or.jp/college/ |
| 助成金情報 | 公益財団法人 東京都公園協会では「都立公園事業に参加協力する都民への助成金」を設けています。詳しくは以下のリンクをご確認ください https://www.tokyo-park.or.jp/public/volunteer/about/ |