各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は都市の中に残された貴重な湿地を保全し、絶滅危惧種の植物や生き物たちが育つ環境を守っている、こちらのみなさんです。
都市に残る湿地、希少な生き物たちの聖域
名古屋市天白区にある島田緑地(しまだりょくち)。名古屋市営地下鉄「原駅」もしくは「徳重駅」からバスで10分ほど、なだらかな丘陵の住宅地の中にある緑地です。
かつてこの辺りは、粘土質の土壌の上に水がしみだした広大な湿地で、樹林や田んぼもあり、今では貴重なさまざまな生き物がごく普通に生息していたそう。1970年代後半から今もなお進む宅地開発により、樹林地や湿地が減り、生き物たちも急速に姿を消していきました。そうした中、1994年に島田湿地がビオトープ公園「島田緑地」として整備されました。
湧水のある湿地を中心に、一部のエリアは自然生態園としてフェンスで囲われ保全されています。4月〜10月の土日祝日に公開される「再生区域」と、生き物たちの聖域(サンクチュアリ)として原則非公開の「保全区域」があります。
保全区域は、年に数回開催される観察会のときのみ特別に公開され、貴重な生き物たちが暮らすありのままの環境を覗くことができます。



白玉星草と八丁トンボを守る島田湿地の会
この島田緑地自然生態園で希少生物の保護と湿地の保全を行っているのは、名古屋市から緑のパートナーとして認定されている「白玉星草と八丁トンボを守る島田湿地の会」のみなさんです。代表の”tombow”こと浅井聡司さんほか、メンバーのみなさんにお話をお聞きしました。
ここには「シラタマホシクサ」という世界中でもこの東海地方の湿地にしか生息していない固有の植物と、「ハッチョウトンボ」という世界最小級のトンボが暮らしています。他にもたくさんの絶滅危惧種や希少な生物が暮らす島田湿地ですが、湿地の会はこの代表的な2つの種が自然のまま生きていける環境を守ることを大きな目的として活動しています。
「ここには私が4歳の頃から来ているんですよ。おじいちゃんの田んぼがあったのが、ちょうどあのあたり。」と話してくださった浅井さん。
40〜50年前は”山賊道路”と呼ばれるほど、人けのない場所だったのが、宅地開発によって湿地や森など生き物のすみかが失われていくことに危機感を持ち、活動を開始。湿地の会は、ここが島田緑地として整備される前の1989年から活動をしています。大学で森林生態学を学び、県立高校の生物の教員を務めていた浅井さんは、お話も上手で、会員さんや市の職員さんたちからも「浅井先生」と呼ばれています。

島田緑地自然生態園は、天白土木事務所のもと、名古屋市みどりの協会と島田湿地の会が協力して保全活動を行っています。
島田湿地の会では、月1回の保全活動として、外来生物や植物の駆除、自然生態園内の安全確認、植物のバランスの調整、光や水のバランス調整、草刈り、植物やトンボなど生き物の定点観測などを行っています。
「公園として整備される前からずっと専門的な保全活動をやってくださっています。保全も観察会イベントもとても頼りになり助かります」と天白土木事務所の花井さんも信頼を寄せます。
夏の観察会、8月はサギソウ
お伺いした日は、8月の観察会の日。観察会は、名古屋市みどりの協会と天白土木事務所、島田湿地の会の協力で、毎年6月と8月、9月に行われています。
普段は立ち入ることのできない、生き物たちの聖域である保全区域で暮らす希少な生き物たちを観察できる絶好のチャンス!ということで、ご近所さんはもちろん市内各地やお隣の市から参加されている方も。


天白土木事務所やみどりの協会の職員さん、そして湿地の会の浅井さんやメンバーのみなさんからのお話のあと、6-7人ずつのグループに分かれて、いざ自然生態園へ!観察会ツアーの出発です。


生き物への影響を考え蚊取り線香は使わず、必要な人のみ虫除けスプレーを使用します。「蚊もここで暮らすトンボたちのエサになるから、私は刺されても大丈夫。湿地の生き物たちに貢献しています」というメンバーの宇津野さんのお話に、一同笑顔がこぼれます。確かにそう思えば、蚊も愛おしい気がしてきます。
ハッチョウトンボ、サギソウ、シラタマホシクサ、食虫植物も
8月のメインは、美しく咲き誇る「サギソウ」。白鷺が飛ぶ姿に似ていることから名付けられたサギソウですが、自生する場所は全国的にも激減しています。島田湿地でも一時はたった8輪まで減ってしまったそうですが、大切に保護を重ね、今では約200株にまで回復しました。

さらに、会の名称にもなっている「ハッチョウトンボ」と「シラタマホシクサ」も見ることができました。
「ハッチョウトンボ」は、体長2cmにも満たない世界最小級のトンボで一円玉と同じくらいのサイズです。島田湿地のようなミズゴケのある解放された明るい湿地を好み、ほとんど生息域を移動しないため、今ではほんの一部でしか生息していないそう。真っ赤なオスは1mほどの縄張りを持ってじっと佇むそのかわいい姿に、参加者も見入っていました。
先端に白い玉のような花を咲かせる「シラタマホシクサ」は、別名コンペイトウソウと呼ばれている日本の固有種で、こちらも絶滅危惧種。咲きはじめの可憐な花を見ることができました。最盛期にはまるで輝く星空のような景色になるそうです。
一年草のシラタマホシクサは、花の先にゴマより小さなタネができるそう。この貴重な花を守るため、初冬に会員のみなさんで根元ごと花を振ってタネを蒔き広げるという作業もされているんだとか。

このほかにも、モウセンゴケ(毛氈苔)、トウカイコモウセンゴケ(東海小毛氈苔)、ミミカキグサ(耳掻草)、タヌキモ(狸藻)などの食虫植物や、サワギキョウ(沢桔梗)、サワシロギク(沢白菊)、ノリウツギ(糊空木)、ガガブタ(鏡蓋)、カンガレイ(寒枯藺)など、たくさんの湿地の植物が見られました。この辺りの土壌は栄養に乏しいため、食虫植物が多く生息しているそう。
トンボも、ハッチョウトンボのほか、チョウトンボ、キイトトンボ、アオイトトンボなど、さまざまな種類が飛んでいました。

観察会には、初めて参加したという方のほか、リピーターさんもちらほら。
「サギソウが自然に生える姿をはじめて見た!」
「あれだけの数が咲いている様子が、こんなに近くで見られて、感動しました!」
「お話を聞くのも楽しくて、毎回とても勉強になります」
花好きの7歳の男の子、生き物好きの小学生、リピーターのご夫婦、シニアの趣味で始めたカメラ仲間だというお二人、存在は知っていたけれど今回初めて中に入ったというご近所さん、いろいろな方がこの貴重な湿地の観察ガイドツアーを楽しんでいらっしゃいました。
残っているのは、守る人がこまめに手を入れているから
メンバーの野崎さんは、1970年代から失われつつあった湿地の植物たちを保護し、守ってきた湿地植物研究家です。宅地造成が行われる知らせと聞くと、区役所に許可を得て工事が入る前に湿地の植物たちを救出し、ご自宅に自ら考案した人工湿地で育て、栽培と研究を続けていらっしゃるとのこと。
湿地植物を栽培して、およそ50年。この辺りの景色はずいぶん変わったそうですが、こうしてさまざまな形で守り続けている人たちがいるから、環境が残っています。

日比野さんは、趣味で湿地の写真を撮影されているメンバーのお一人です。毎月の保全活動以外にも、ほぼ毎週湿地に足を運び、観察や撮影をされているとのこと。島田湿地では毎年、およそ20種類のトンボが見られるそうですが、どのトンボがいつ見られたか?今年の記録をつけているそう。浅井さんの記録では、1981年頃には37種類もいたというから、それも驚きです。


湧水があり、鉄分が多く、栄養分の少ない土壌で、明るい光の差し込む、小さな生き物たちの聖域、島田湿地。大切な生き物を保護していくためには、根気よく見ることが大切だと話してくださいました。
森や湿地の環境は変わっていくけれど、温度、光、風通し、水の量をチェックし、生き物たちが暮らしやすいように整え続けること。周りが住宅地になっていく中、名古屋市内ではほとんど見られなくなった生き物が今なお数多く生息する貴重な湿地がここに残っているのは、みなさんの力があってこそ。
「この環境が残っているのは、守る人がこまめに手を入れているからです」という浅井さんの言葉がとても印象的でした。
取材を終えて
島田緑地は、私自身も30年ほど前によく犬の散歩で家族と訪れていた馴染みのある場所です。当時はまだ住宅もまばらで草が生えた空き地や森のような場所も多かったのですが、今ではすっかり住宅街に変わり、街の景色は大きく変化しました。
今回初めて自然生態園の中に入ったのですが、こんなすごい場所だったとは!貴重な水源とこれほどまでに豊かな生き物たちのサンクチュアリが、この方たちの手で残されてきたんだと直接知ることができて、感動しました。ありがとうございました!



【基本情報】
| 団体名 | 白玉星草と八丁トンボを守る島田湿地の会 |
| 公園名 | 島田緑地(名古屋市) |
| 面積 | 2.9 ha (自然生態園) |
| 基本的な活動日 | 毎月第3日曜日、そのほか個人的な活動も |
| 会の会員数 | 22 名 |
| 活動内容 | 白玉星草やハッチョウトンボなど希少生物の保護、湧水湿地の保全、環境調査、市民向け観察会イベント など |
| 設立時期 | 1989年 |
| 主な参加者 | 湿地の環境を守りたいみなさん、生き物好き・植物好きのみなさん、ご近所の有志のみなさん など |
| 活動に興味のある方は | 観察会にどうぞ(6月,8月,9月に開催)。 毎月の定点観測や保全活動も手伝える時に来てください。 |