2025/1/21

柴を刈り竹炭を焼く、豊かな里山の森づくり

相生山緑地(名古屋市)

さまざまな公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、名古屋の樹林地を25年以上にわたって保全し、地域の豊かな里山の風景をつくっている、こちらのみなさんです。年末に行われた恒例行事「門松づくり」にお伺いしました。

民有地の樹林を市民協働で守る「オアシスの森」第1号地

名古屋市天白区にある相生山緑地(あいおいやまりょくち)。地下鉄桜通線 鳴子北駅や相生山駅から歩いて15分ほどの場所にある面積123.7haと広大な緑地で、アカマツやコナラなどの雑木林が広がっています。

この相生山緑地の一部は民有樹林地で、土地所有者の協力のもと「オアシスの森」として市民とともに森づくりを行っています。約20haの相生山緑地オアシスの森は、民有樹林地を市有地と一体で市民協働で守っていく名古屋市の「オアシスの森づくり事業」の第1号地として、1998年に開園しました。

こちらの相生山緑地オアシスの森でボランティア活動をされているのは「相生山緑地オアシスの森くらぶ」(以下、森くらぶ)の皆さんです。雑木林や竹林の整備、アカマツ林の再生、ツツジの園づくり、伐採した竹を使った炭焼き、生物多様性を学ぶ講座や自然体験会、小学校の学習支援など、里山の風景を守るためのさまざまな活動を行っています。

人の暮らしに近くにある里山は、昔から柴刈りや炭焼きなど人の手が入ることで成り立ってきた環境であるため、放置すると荒れてしまいます。多くの生き物が住む明るい森と里山の風景を守るためには、継続的なお手入れが必要です。

森を歩くと、入口をはじめ散策路のあちこちに、森の見どころや活動を紹介する案内板を目にします。これもすべて森くらぶの皆さんの手づくりだそう。歩いているだけでも、森の魅力や自然の豊かさを感じられる工夫がされています。

(カブトムシの家「ビートルアパート」とその紹介案内板)

相生山緑地オアシスの森くらぶの誕生は、森の開園と同じ1998年3月。オアシスの森の開園に先立ち、名古屋市の呼びかけにより雑木林の管理手法を学び継続的に関わるための講座「雑木林インストラクター講座(入門編/応用編)」が開催され、その受講生やイベント参加者を中心に森くらぶの活動がスタートしたそうです。(当時の様子はなごや環境大学のコラムになっています)

公園愛護会として活動を続けたのち、現在は市と「緑のパートナー」協定を締結して活動をされています。なごやの森づくりパートナーシップ連絡会のメンバーとして名古屋市みどりの協会のWEBサイトでも紹介されています。

12月最後の土曜日、1年の活動を締めくくる門松づくりが行われました。代表の大舘学さん、創設からのメンバーでいらっしゃる村田英二さんをはじめ、皆さんにお話をお聞きしました。

(左から代表の大舘さんと創設メンバーの村田さん)

里山づくりと自然のめぐみを100%有効活用する竹炭焼き

相生山緑地オアシスの森くらぶでは、雑木林保全活動の基本である”柴刈り”を軸に、1年を通して森のお手入れをしています。広い緑地のため関わることができるエリアは限られているそうですが、放置竹林の拡大問題も顕在化する中、散策路周辺やポイントごとに計画的に整備を続けているとのこと。人の手が入ることで美しく気持ち良い里山の風景が守られています。

特に竹林は放置されることで、周囲の雑木林を荒廃させる原因にもつながるため、定期的にお手入れをされています。そしてユニークなのが、除伐した竹を利用した竹炭づくりです。秋に除伐した竹を数ヶ月乾燥させ、年明けの1月から3月に炭焼きが行われています。間伐材も、切ってただ捨てられるのではなく、手間をかけることで有用な材料に生まれ変わるなんて、とてもエコで素敵な取り組みです。

竹炭焼きは、森くらぶ創設の頃からの取り組みだそうで、最初は先生を呼んで教わっていたそうですが、そのうちに自分たちでできるようになったとのこと。自分たちでつくった炭で焼いたお餅を入れたぜんざいや、焼き芋の美味しさは、きっと語るまでもないでしょう。

(炭焼き窯:燃焼具合をみてここぞというタイミングで空気を遮断し炭にする、今は温度計があるが昔の人は観察と経験でやっていたそう)
(年明けの炭焼きに向けて竹材を乾燥させる棚(左)と出来上がった竹炭(右))

森くらぶではこのほかにも様々な活動が行われていますが、年間計画で予定が立てられています。たとえば、このような感じ:

春:萌木祭り・桜の園整備、竹林整備、草刈り
夏:トンボ池周辺や展望台周辺の整備、サマースクール、クラフト
秋:竹林整備、伐採した竹を使った炭づくり準備、森づくり体験会
冬:竹炭焼き、ツツジの園再生、アカマツ林再生プロジェクト

定期的に発行されている「相生山緑地オアシスの森くらぶNEWS」では、季節の活動報告とともに今後の予定も記載されています。メンバーに配布されるほか、森の掲示板でも読むことができます。

(森くらぶNEWS掲示板:ゆっくり読みたい人向けにプリント版がおかれているのも優しい)

このように活動内容が丁寧に紹介され、今後の日程も書かれているので、これを見て活動に参加される方もいるようです。この日も、前月の活動に初めて参加したという2名の方がメンバーの仲間入りをされていました。

森の素材で門松づくり

この日のメイン活動はお正月準備の門松づくりです。森で素材を集めてみんなで手づくりするのが、森くらぶ創設以来の恒例行事なんだとか。

まずは竹林から一番太い竹を選んで切り出すところからスタートです。これだ!という竹に目星をつけたら、根元からノコギリで切っていきます。大きな竹を切って、倒して、運び出すのは大変な作業ですが、急な斜面にもかかわらず皆さん手際よく行っていました。

(声を掛け合いながら太い竹を切り出します。周りの除伐をするメンバーも)
(切り出した竹を斜めにカット!どの角度で切るのがいいか話し合いながら合わせます)

竹チームが竹の切り出しをしている間、他のメンバーは山を登った奥のアカマツ林に松を切りに。そのほかにも、梅、熊笹、ウラジロ、ナンテン、クチナシ、スイセンなど、森の中から次々とお飾りの材料を調達してくる皆さん。

(切った松を門松づくりの場所へ運んでいます)
(細い竹を敷き詰めて大きな竹を支えます。細い竹は花瓶の役割も担っていて、そこに松や花を生けていきます)
(バランスを見ながらみんなで仕上げていきます。豪華になってきました!)

こうして、冒頭の写真のような立派な門松が出来上がりました。森にある季節の素材を集めて、こんなに豪華なお正月飾りを自分たちで作れるなんて素敵ですね。

午前中に門松が仕上がると、午後からはメンバーの谷本美枝子さんを講師に、しめ縄づくりが始まりました。

材料の稲わらは、ボランティアで参加されている田んぼのものだそうです。わらを柔らかくし、30本ほど束ねたら縄をなうように手のひらを使って編んでいくのですが、これが難しい!皆さんが苦戦する中、谷本さんの手からはするすると手際よくなわれていくのが魔法のようです。

わらを編んだら、松や松ぼっくり、ツルウメモドキ、稲穂などで華やかに仕上げます。飾るときは、しめ縄のわらの穂先を伊勢神宮の方角に向けるようにすると良いとのこと。私も皆さんと一緒に体験させてもらいましたが、とても楽しい時間でした。

(手のひら全体を使ってねじるように縄をより合わせていきます)
(飾りをつけたら、完成です!皆さんのおうちのお正月が華やかになりますね)

地元の野菜を育てる畑活動、森の楽しみを伝える活動も

森くらぶでは、耕作放棄地となっていた畑を再生させて、畑づくりもしています。畑では、近隣の地名がついた徳重大根や大高菜といったあいちの伝統野菜も育っていました。メンバーの皆さんがタネを持ってこられるので、様々な野菜育てにチャレンジしていることを、長尾さんが教えてくださいました。

この日はキクイモや大根の収穫をされていました。森を散歩中のご近所さんが作業の様子を見て、声をかけられ、自然に会話が弾んでいる様子も温かです。

(キクイモが土の中からごろごろ出てきました!茎が高く伸びるので支柱の高さも毎年工夫されているそう。ここでも竹が大活躍!)
(江戸時代、大高地域の特産品だったという「大高菜」:地元の伝統野菜を育てて里山の畑の風景を守っています)

相生山緑地オアシスの森を歩きながら、メンバーのおひとりが見どころを案内してくださいました。

門松の材料にもしたアカマツ林の近くに、最も見晴らしの良い眺望スポットがありました。ベンチも設置され、のんびり休憩することもできます。

また、戦時中に米軍が落とした爆弾が破裂した時にできたという戦争遺跡「爆弾穴」もいくつかあります。森くらぶの案内板に沿ってそのひとつに行ってみると、直径約10m、深さ2mほどのすり鉢状の大きな穴が、そのままの形で残っていました。

(名古屋の街が一望できる眺望スポットから。天気の良い日には伊吹山まで見えるそう)
(爆弾穴:どんなに大きい穴かメンバーさんが中に下りて見せてくださいました)

小学校の学習支援や、子どもが森に親しむイベントも

森くらぶの皆さんは、天白区内の2つの小学校の総合学習の支援も行っています。オアシスの森を散策しながら、里山の保全活動を見て学び、トンボ池や爆弾穴の見学をするほか、竹の除伐体験をしたり、竹を使った工作体験も、子どもたちにはとても人気があるそうです。

また、市役所と連携して、小中学生や親子向けの自然体験イベントやサマースクール、市民向けの講座や体験会なども行っています。鳥の巣箱作りや、ビートルアパート作り、生き物観察、竹クラフトなど、生物多様性や環境学習につながる様々な取り組みが、年に4回ほど行われています。

これだけの広い森のお手入れをしながら、里山の風景を守り続けていくことは簡単なことではありません。

毎月第4土曜日の定例活動のほか、第2土曜に運営会議、1月から3月は第3土曜に竹炭焼きを。そのほか、ご近所のメンバーは畑のお世話もしています。

メンバーの中には、竹細工の得意な方も。竹細工を始めて竹切りに興味をもつようになり参加したという方や、散歩でよくオアシスの森に来ていて掲示板をみて参加したという方もいらっしゃいました。市外や県外からの参加者も含めて100名ほどの登録者がいた頃もあるそうですが、今は市内の方を中心に30名ほどで、新しい方の参加も定期的にあるそうです。

「長く続くように、無理せずやっています」と笑顔で話してくださった大舘さん。「難しいことを言うと続かないですよね、楽しくないと」と村田さん。楽しいから続けられるし、活動が続くから、森がきれいであり続けられるんじゃないでしょうかと話してくださいました。

今回、年末の帰省のタイミングに見学をさせていただきましたが、自分が生まれ育った地域にこんなに豊かな森があり、このように素敵な活動があることを知りませんでした。この機会に知ることができて、とてもうれしくなりました。ありがとうございました!

【基本情報】

団体名相生山緑地オアシスの森くらぶ
公園名相生山緑地(名古屋市天白区)
面積約200,000 m2(オアシスの森)
基本的な活動日年間計画で活動(毎月第4土曜 9:30-)
いつもの参加人数17-18名ほど
会員数30名
活動内容雑木林の保全、竹林の管理、炭焼き、アカマツ林再生、自然観察、調査、活動のPR、地域のイベント、子ども向けイベント、他団体と連携したイベント、小学校の学習支援
設立時期1998年3月
主な参加者地域の有志、森や自然が好きな人
活動に参加したい場合は毎月第4土曜日に定例の活動を行っています。興味のある活動に体験参加してから入会を考えてもOKです。
名古屋市みどりの協会のWEBサイトでも活動日程やくらぶのパンフレットが見られます。
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

取材・執筆
みんなの公園愛護会の書籍紹介 学芸出版社

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

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