2023/11/1

自治の力で公園を地域の居場所に

下月隈中央公園(福岡市)

みんなの公園愛護会では、公園ボランティアの活動や、それをサポートする行政の取り組みを紹介しています。今回は、地域の公園の積極的な利活用を応援する制度を使って、公園を地域の多世代の憩いの場として活用するこちらの皆さんです。

福岡市のコミュニティパーク事業

福岡市では、公園をとりまく様々な課題解決に向け、地域による公園の利用ルールづくりと自律的な管理運営によって、地域にとって使いやすく魅力的な公園づくりと地域コミュニティの活性化を目指すため、希望する地域でコミュニティパーク事業が行われています。

公園が画一的なルールで使いづらいという声や、公園をもっと有効に活用したいという地域からの多くの声を受けて、身近な公園において、地域が主体となった利用ルールづくりや公園の管理運営を進めることで、公園の利活用を促進するとともに、地域の課題解決にもつなげようと、2017年からコミュニティパーク事業がスタートしました。

地域でワークショップを行い、その公園独自のルールを決めることで、花火やボール遊びなどの具体的なやり方を定めたり、コンサートやバーベキューなど住民主体の地域イベントを行ったり、花壇やベンチの設置をするなど、公園の活用の幅が広がっています。

また、1年以上コミュニティパーク事業による公園の適切な管理運営が行われ、さらなる公園の活用を希望する場合、一定の要件を満たせば、パークハウス(地域がつくる、魅力的な公園づくりと地域コミュニティの活性化を目的とした建物)の設置が特別に認められるという点もユニークです。

これまで7公園で実施され、それぞれの公園で様々な取り組みが行われているとのこと。コミュニティパーク事業の詳細な情報は「福岡市コミュニティパーク事業の手引き」として公開されています。

今回は、その中からコミュニティパーク事業の第1号公園として主体的に取り組まれている下月隈中央公園(しもつきぐまちゅうおうこうえん)の皆さんにお話をお聞きしました。

自治会ができて50年、公園はいつも地域の真ん中に

福岡市博多区の下月隈中央公園は、福岡空港から車で約10分、博多の森として親しまれる東平尾公園にもほど近い住宅地の中にある街区公園です。この辺りは1970年代に開発された住宅地で、公園内にはボール遊びもできる広場や、テーブルといすもある大きな藤棚、かめの遊具などがあるほか、コミュニティパーク事業で建てられたパークハウスもあり、明るくゆったりとした雰囲気です。

草刈りイベントが行われた10月の活動日にお伺いし、下月隈団地自治会会長の山下健児さん、1区会長の永瀬枯緑さん、2区会長の諸藤美由紀さん、事務局長の秋山勇司さんにお話をお聞きしました。

(左から、永瀬さん、秋山さん、山下さん、諸藤さん:笑顔がステキな皆さんです)

下月隈団地自治会ができてちょうど50周年、最初の頃に住み始めた方々は70代、80代、90代を迎えられ、新たな世代も少しずつ入ってきているというこの地域では、下月隈中央公園は、いつも地域の活動の中心にあったと言います。

住宅地とともに1976年に整備された公園は、大きな広場が主役。かつては、町内だけで500人の小学生がいたという時代もあり、公園はいつも子どもたちの遊び場として賑わい、昔は運動会も、夏祭りも、餅つきも行われていたそうです。かめをモチーフにした遊具が特徴的なので、地元では「かめ公園」と親しまれているとのこと。

現在も、毎朝ラジオ体操で50人ほどの人たちが町内から集まり、午前中はグランドゴルフが行われたり、小さな子がのんびり遊び、午後は自転車で遊びに来た小学生で賑わうなど、小さな子どもからお年寄りまで多くの世代に愛されている公園です。

(50年近くの間この公園を見守り続ける大きなかめ)

この日も、30人ほどの方が集まり、公園内や周辺の草刈りが行われていました。草刈機を活用して草を刈る人、ハサミで刈り込む人、刈った草を集める人、袋に詰める人、絶妙のチームワークで、テキパキと作業を進めていらっしゃいました。

公園愛護会は、老人会が担当されていますが、5月から10月は町内にも声をかけて各組から皆さんが順番に参加されるようにもなっているんだとか。皆さんの手際の良さで、公園はあっという間にスッキリし、袋の大きな山ができていました。

作業のあとは、コーヒーと焼きそばが配られ、おしゃべりとリラックスの時間。パークハウスが上手に活用されています。

(草刈機で刈った草を、熊手で集めていきます)
(公園のフェンスの外側も皆さんであっという間にスッキリ!)

住民たちで相談して公園のルール決め

この下月隈中央公園がコミュニティパーク事業に参加した目的は、みんなで使えるパークハウスを建てること。かつて公園内には老人いこいの家があったそうですが、地域の公民館のリニューアルに伴い、そちらに併設されることに。もともとコミュニティ活動が活発なこの地域では、集会所のほかにも、みんなで集まれる場所がほしい!と考え、コミュニティパーク事業に参加し、パークハウス建設を目指すことになったという経緯を教えてくださいました。

コミュニティパーク事業に参加するにあたり、自治会のほか、公園愛護会活動を担う老人クラブ、地域のボランティア団体で運営委員会を結成し、定期的に集まって話し合い、市から派遣されたアドバイザーのサポートも受けながら、公園のルールや管理運営体制を検討していったそうです。

そうやって、音に関するルールや火気の利用、ボール遊び、ペットの散歩のルールなどを決め、地域に配布し、公園の入口に看板を設置しました。下月隈中央公園での地域ルールは、たとえば以下のようなものがあります。

・夜21:00〜朝08:00は静かに公園を利用すること
・公園内は禁煙
・花火は保護者同伴とする。ただし打ち上げ花火は禁止
・バーベキューやたき火は禁止
・飲酒禁止
・犬の散歩の際には、リードを放さないこと
・犬のフンが散見される場合は、「犬の散歩禁止」のルールを新たに加えるものとする
など(一部抜粋)

これらは住民の話し合いから生まれた地域独自のルールですが、利用の状況や必要に応じて変更していくことも視野に入れながら、運用されているそうです。

また、看板に記載されているルールのほかにも、グランドゴルフは11:00までに終了しそのあとは子どもたちに開放するなど、利用者同士がお互いを思いやる暗黙の申し合わせのようなものもあるとのこと。

危険がないよう、みんなが気持ちよく公園を使えるように、様々な配慮がされています。

(公園の入り口にある地域ルールを書いた看板)

パークハウスを建設

パークハウスは、魅力的な公園づくりと地域コミュニティの活性化を目的とした公園施設で、誰もがいつでも自由に使え、デッキを設けるなどして公園と一体的に活用する施設です。コミュニティパーク事業の協定締結後、運営委員会として適切な管理運営を1年以上継続するなど一定の要件を満たせば、パークハウス建設の検討をすることができます。

パークハウス建設に関する詳細の情報は、パークハウスガイドラインとして公開されています。

下月隈中央公園でも、数々の協議や審査を経て、パークハウスが建設されました。建設費用1600万円のうち、半額は補助金、残りの半額は自治会の積立金を活用する形で捻出。新たに住民から費用を集めるのではなく、地域の汚水処理に関する長年の積立金が自治会にあったので、それをパークハウス建設に活用し、かつて支払っていた人たちにも目にみえる形で還元し残せるようにと議論がなされたことを、当時を振り返って教えてくださいました。

2019年5月に完成した下月隈中央公園パークハウスは、年末年始以外は毎日オープン。朝9:30から夕方17:00まで、公園と合わせて誰でも自由に利用できます。公園を眺めながらひと休みしたり、暑さ寒さをしのげる場所としても便利で、清潔なトイレも利用でき、急な雨でもさっと入れる場所があるのは安心です。

老人いこいの家は地域の高齢者のための施設でしたが、パークハウスになったことで、住まいや年齢を問わず誰もが自由に利用できる場所となり、利用者の幅が広がって、より開かれた場所になりました。

(下月隈中央公園パークハウス:公園と合わせて誰でも自由に利用できるのはうれしいですね)
(インタビューはパークハウスの中でさせていただきました)

地域カフェで公園に生まれた賑わいと交流

パークハウスの運営は、主に自治会の皆さんで行っています。地域の人たちがボランティアで日替わり管理人をされているそう。2022年5月からは、地域カフェもスタート。100円でコーヒーを楽しめるようになりました。カフェのおかげで、来ればいつも誰かがいる場所として賑わい、パークハウスは「コーヒーハウス」という呼び名で親しまれ、これまで公園に来ることのなかったご近所の人たちも公園に足を運ぶようになったそうです。

一人暮らしの高齢男性たちにとっても、公園にコーヒーを飲みにくるということが、外に出て人とおしゃべりをする良い機会になっているとのこと。先に来た人が、ご近所の仲間に「コーヒー飲みにこんね」と誘いの電話をかけ、続々と集まってくることも。中には常連さんもいるようです。

グランドゴルフのメンバーは午前中週3回の活動後に、パークハウスでのコーヒータイムが定番に。活動前には公園掃除をして、グランドゴルフを楽しみ、終わったあとはコーヒーを飲みながらワイワイおしゃべり。まさに公園を自分たちの場所として満喫されているようです。

女性たちの間で最近流行っているのは、折り紙です。折り紙でいろいろな作品をつくっては、みんなに配ったり飾ったりされているそう。パークハウス内にもあちこちに折り紙の作品がおいてありました。折り紙のほかにも、得意な人や詳しい人が先生になって、次々といろいろな楽しみが生まれているようです。

「認知症予防や健康のためにも、外に出て人とおしゃべりすることは大切なんですよね。」と話してくださった皆さん。より多くの人がパークハウスに訪れるきっかけを作ろうと、毎月発行している自治会だよりにコーヒーサービス券をつけたこともあるそうです。

(折り紙のかごもハロウィン仕様になってます)

パークハウスがあることで、いつも公園に人がいるという状態になり、公園を利用する様々な人と良いコミュニケーションが取れているようです。

公園に遊びにくる子どもたちとも仲良く会話をしているそう。子どもを遊びに行かせる親の視点からも、公園に地域の大人がいつもいて見守ってくれていることは心強いと思います。

先日も花火をしようとした中学生を見つけたので、気をつけてやることと後片付けについて優しく声をかけたところ、翌朝にはゴミひとつないくらいきれいに片付けてあって嬉しかったというエピソードも話してくださいました。

コミュニティパーク事業のひとつの結果として、公園にパークハウスがあるから、人が集まり、会話が生まれ、地域の温かい交流ができているようです。

(藤棚の下も気持ち良い憩いの場になっています)
(子どもからお年寄りまでみんなに愛される中央の広いグラウンド)
(かめの後ろにはとっても大きな砂場が)
(小学生のポスターもかわいい:広場ゾーンのフェンスは高くなっています)

【基本情報】

団体名下月隈中央公園コミュニティパーク事業運営委員会
公園名下月隈中央公園 (福岡市博多区)
面積2,844  m2
基本的な活動日パークハウスは毎日9:30-17:00オープン(年末年始を除く)
活動内容ごみ拾い、除草、落ち葉かき、低木の管理、花壇の管理、植物の水やり、施設の破損連絡、地域のイベント、子ども向けイベント、遊びの見守り、高齢者など地域の声がけ、公園の地域ルールづくり、パークハウスの管理運営、地域カフェ
設立時期2017年(公園愛護会は1977年)
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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