2023/3/31

公園花壇で地域がつながる花の里親

新蒲田二丁目児童公園、東矢口三丁目公園(大田区)

各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、公園に植える花の苗をみんなの自宅でタネから育て、公園花壇をきっかけに地域のつながりづくりをしている、こちらの皆さんです。

いきちかクラブの皆さん

花の苗を自宅でタネから育て、公園の花壇に植える「花の里親」という取り組みで、地域の人が協力しながら公園の花壇をつくっているというお話をお聞きしました。

東京都大田区にある新蒲田二丁目児童公園(しんかまたにちょうめじどうこうえん)。JRと東急の蒲田駅から、駅前の商店街を歩いて1kmほど、東急多摩川線の線路や環八通りの近くにある小さな公園です。

園内には、砂場や藤棚のほか、小さな広場の奥にはタイヤの遊具があります。公園の真ん中にはトイレがあり、ドライバーや近くで働く人など多くの人に利用されているようで、お伺いした日も、様々な人が行き交っていました。隣にはコンビニもあるので、コンビニで買ったものを食べたり飲んだりするという人も多いようです。

こちらの公園で花壇のボランティア活動をしているのは、いきちかクラブの皆さんです。代表の向井愛さんはじめ皆さんにお話をお聞きしました。

(いきちかクラブ代表の向井さん、公園活動を始めてこの2年で花にかなり詳しくなったそうです!)

公園花壇を中心にSNSでつながる地域コミュニティ

いきちかクラブは、公園花壇づくりを通して、地域の人々のつながりを育むというプロジェクトで、LINEのオープンチャットでゆるやかに会話をしながら、月に1回集まって、公園での花壇活動を行っているとのこと。

メンバーは、公園や区内で配布されるチラシや、Facebook、LINE、Instagram、YouTubeなどのSNS、ホームページを見て集まった人々。ご近所さんが多いようですが、遠方から参加する人も。登録もニックネームでOK、公園花壇でつながりあう自由な地域コミュニティです。

この日も、活動のはじめに、シールにそれぞれ今日の呼び名を書いて名札をつくるところからスタート。お互いをニックネームで呼び合う雰囲気も温かです。

新蒲田二丁目児童公園の花壇は、多年草中心のナチュラルガーデン風の花壇です。月1回の集合活動日は花壇のお手入れの時間。向井さんから今日の作業内容が紹介されると、それぞれできること、やりたいことに取り掛かります。伸びすぎた草を切ったり、咲き終わった花の花殻つみをしたり、お水をやったり。

(今日は良いお天気だから、たっぷりお水をあげよう!)
(こちらは花殻つみ:公園入口の花壇は紫と白でコーディネートされています)

自宅でマイペースに地域貢献ができる「花の里親」

いきちかクラブの皆さんが熱心に取り組まれている活動のひとつが「花の里親」です。花の里親とは、タネと土のセットを配り、里親が自宅でタネから苗を育て、丈夫な大きさに育ったら、公園の花壇に植えるというもの。この日も春蒔きのタネの配布が行われました。

向井さんたちは、初めての人でも参加しやすいように様々な工夫をされています。たとえば、初心者でもすぐに始められるように、タネと一緒に、小さな種まき用の土ポットを用意して、里親さんたちに渡すこと。途中経過の報告や疑問などをお互い気軽に聞けるように、誰でも参加できるLINEのオープンチャットで、やりとりを共有することなど。

種まき用の土ポットは、水につければ膨らんで、少しほぐしたら、そこにタネを蒔いて発芽させるという培養土。芽が出て、底から根っこが出るくらい大きく育ってきたら、そのまま土に植えられます。向井さんたちは、渡しやすく育てやすいジフィーセブンを使っているそうですが、より良い方法を常に模索中とのこと。

かつては、花壇の土に直接種を蒔いたり、花の種が入った泥ダンゴをつくって花壇に植え込む「タネだんご」を試したこともあるそうですが、水不足になったり、青虫に食べられてしまったりで、うまくいかなかったという経験もあるとのこと。その後、花の里親という方法があることを聞き、挑戦。試行錯誤しながら、だんだんと今の形になっていったそうです。秋蒔きのタネは虫による被害が少ないので初心者向き、春蒔きのタネは生長が早いからお楽しみも早いことも教えてくださいました。

発芽するまでは水不足に気をつけて、水やりはトレーに水を入れれば吸いますよ、芽が出たら日光に当てるのが成功のカギですよ、風が強いと飛ばされてしまうから置き場所は注意してくださいね、など、ちょっとしたコツをアドバイスしてもらいながら、皆さん新しい里親セットを受け取っていました。

(里親の皆さんが育てている様子:いきちかクラブより)

「公園の花は、役所の人が植えているのかと思っていましたが、違うんだ!と知ったのと同時に、これなら私にもできるかも!と思って参加しました。」と話してくださったのは、この日初参加のふじさんです。案内チラシを見て、活動のことを知り、参加されたそう。

「ゆるさが長続きできる秘訣ですね。失敗しても大丈夫だよ〜と愛さんが言ってくれるから、参加しやすいんですよ。」と話してくださったのは、メンバーののりさん。SNSでいきちか花壇プロジェクトと花の里親の存在を知り、役に立てるのなら、と挑戦したのがきっかけで、最近は毎月積極的に参加されているそうです。

(大人も子どもも、初めてさんもお馴染みさんも、みんなで楽しく作業)

花は積極的に地域に関わるツール

「自宅で楽しく地域活動ができることが、花の里親の良いところですね。コロナ禍でもOK。それぞれのご自宅で長い期間育てることになるので、愛着も湧きますし、その間ずっと地域との関わりが継続することや、家庭=家族みんなで参加できることも大きいです。」と花の里親の良さを語ってくださった向井さん。

毎日の忙しい生活の中でも、土や緑に触れ、自宅で自分のペースで地域のための活動が続けられるという花の里親。それぞれの自宅での活動も、同じ時期に同じように育てているという共感と横のつながりが生まれる上に、体験としての学びもあり、とても素敵な活動です。

「はじめはたくさん失敗もしました。そのうちに失敗するポイントが分かってきたので、皆さんにコツを共有しています」と向井さん。この2年でかなりいろいろなことを試してみたそうです。

スタートした頃は、アンテナの高い人がSNSで見つけてくれて、遠方からも参加してくれたそうです。ガーデンデザイナーの方が、花壇に植える花苗を選んで寄付をしてくれたというエピソードも。そうやって原型が出来上がった花壇に、今では、里親さんたちの育てた花が加わってきました。

この日も、3ヶ月ほど前から参加しているというななわれさんが、土壌改良にとタマゴと牡蠣の殻を砕いたという粉末を持参して花壇に撒いていました。家のお庭でも花を育てているという花好きのもこさんは、植物のお裾分けをしたいそう。引退後の楽しみとして参加されていて、地域のいろいろな世代と関われて楽しいとおっしゃっていました。

メンバーそれぞれの知恵と工夫で、花壇も人のつながりもどんどん進化しているようです。

(いろんな人の協力で進化し続ける花壇、たくさんの種類の植物が育っています)

QRコードから花のことを詳しく知れる、花のネームプレート

この日はもうひとつの新しい取り組みが始まりました。花のネームプレートを花壇につけるという作業です。小さなプレートには、花の名前と一緒にQRコードもついています。

QRコードをカメラで読み取ると、いきちかクラブのブログの花の紹介ページへ。それぞれの花の写真とともに、特徴や咲く時期、雑学、観察ポイントや育てるコツまで、詳しい情報を見ることができるというものです。

この手づくりプレートは、雨にも紫外線にも負けないよう、UV対応のフィルムでラミネートしているというこだわりも。

(これは、ここかな?と花をよく観察しながらひとつひとつネームプレートをつけていきます)

花のネームプレートをつけていた小学2年生のりくくんも花の里親です。自宅でタネから発芽をさせ、大きく育てた苗を先月公園に植えたとのこと。「この前植えたムラサキハナナにお水あげてくる!」と花壇に元気に走っていきました。

きっかけは、子どもの育つ環境を守りたいという熱意

かつて、ご近所で学童保育をやっていたという向井さん。学童保育の時間の中で、子どもたちと外遊びに来ていたのがこの新蒲田二丁目児童公園でした。お弁当容器やペットボトル、タバコの吸い殻など、あまりにもゴミの多い公園の現状を目の当たりにしたことが、公園に関わるきっかけになったそうです。

子どもたちの遊ぶ公園が、安心で、安全な場所であってほしい。子どもたちの育つ環境を守りたい。そのような思いで、活動はスタートしました。

ただ、ゴミを拾ったとしても、持ち帰るのは難しい。公園のボランティア制度に登録すれば、拾ったゴミを回収してもらえると思って、区役所に相談してみると、清掃活動は既に別の方が登録されているとのこと。花壇活動をお勧めされ、学童で子どもたちと一緒にやるのもいいなと考え、花壇の活動を申請したそうです。

区役所と相談して、花壇の位置を決め、花壇が整備されました。ところが別の事情で学童施設を閉めることに。そこで、学童ではなく、地域のいろいろな人で花壇活動をするという今のスタイルができていったことを教えてくださいました。

大田区のふれあいパーク活動として2020年の秋にスタートしたいきちか花壇プロジェクト。現状、行政からの花苗提供や活動費の補助はないため、花やタネの寄付を募ったり、2021年からは地域力応援基金の助成を受けながら、花の里親募集のチラシを作って地域に配布したり、インターネットを駆使しながら、つながりの輪を広げてきたそうです。

LINEのオープンチャットには、取材当時60人が参加しているとのこと。この他にも、SNSでのつながりや、他の花壇団体で活動するベテランさん、地域の小学校とのつながりなどが広がっているそうです。

(花壇のお知らせ看板:公園を訪れた人が活動を知り参加するきっかけになっています)

「土の里親」もやってみたい

公園の中心に花壇ができたことで、明るい雰囲気になったという新蒲田二丁目児童公園。2022年5月からは、歩いて3分ほどの東矢口三丁目公園での活動もスタート。公園を明るくしよう、きれいにしようという活動が始まっています。

花壇に明るい花を増やし、花の里親活動を盛り上げていこうと、東急株式会社の支援「みど*リンク」アクションに申請したり、公園の外壁とフェンスの間の枯れツタをみんなで地道に取り除いたり、活動は益々パワーアップしていくようです。

「今度は、土の里親をやってみたいんですよ。各家庭にコンポストを置いて、できた良い土を公園に持ち寄るという方法を、今考えているところです。」と今後のチャレンジについて話してくださった向井さん。地域の公園が豊かになることはもちろん、家庭での資源循環とゴミ削減にもつながる素敵なアイデアです。

「花壇は手段で、目的は人のつながりです。体験しながら学ぶきっかけをつくることで、楽しんでつながってくれれば、たとえ花がうまく育たなくても結果はOKだと思っています。」向井さんは、続けてそう語ってくださいました。

地域の人々がつながりあい、協力しあって、さらに進化を続けるいきちかクラブ。これからの進化も楽しみです。

【基本情報】

団体名いきちかクラブ
公園名新蒲田二丁目児童公園、東矢口三丁目公園 (東京都大田区)
面積286 m2、795 m2
基本的な活動日毎月1回 奇数月は第2土曜、偶数月は第2日曜 10:30-11:30
いつもの活動参加人数7人くらい
会の会員数会員という形はあえてとっていません
活動内容ゴミ拾い、除草、花壇の管理、植物の水やり、愛護会活動のPR、新メンバーの募集や勧誘、地域住民と連携したイベント、花の里親(自宅での栽培)
設立時期2019年
参加者イメージ地域の有志メンバー、花好きのご近所さん
活動に参加したい場合はLINEオープンチャットへの参加がオススメです。ホームページでも活動について詳しくお知らせをしています。活動日に公園にいらしてください。花壇活動への参加以外にも、花やタネの寄付、写真を撮ってSNSに上げるなど、いろいろな関わり方大歓迎です。
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

みんなの公園愛護活動レポートに戻る