各地の公園ボランティアの活動を紹介するコーナー「となりの公園愛護会」。地域のNPOだからこそできる行政と公園愛護会のサポートを行う、地域の営みに光を当てるローカルウェブメディア「森ノオト」さんとのコラボレーション第7回。
今回は、バラで公園を再生させたいという情熱で、手間と愛情をかけて、地域が誇るバラの庭をつくっている皆さんの記事をご紹介します。長年の地道な努力と、多くの人の応援を集めるアイデアで、活動がどんどん進化していった様子もドラマチックなお話です。(本記事は2018年に取材したものです)
横浜市青葉区とNPO法人森ノオトは、花と緑を通じた対話(=ダイアログ)を通して、花と緑の活 動を始めるきっかけや、活動をしている人同士のつながりをつくる、「フラワーダイアログあおば」 事業を協働で行ってきました。この活動の一環として、NPO法人森ノオトが地域のボランティアの みなさんを取材した記事をご紹介します。
太陽ローズガーデン「Joy of Roses(バラの会)」の皆さん
新緑の美しい季節、青葉の荏子田太陽公園からはバラの香りがふわりと漂ってきます。きれいに咲くようにと、手間と心をかけてバラの手入れをしているボランティアさんは一体、どんな方たちなのでしょうか。公園内にある「太陽ローズガーデン」を訪ねました。
私の住む横浜市青葉区荏子田には、小さな公園内に230株のバラが咲き誇る「太陽ローズガーデン」(荏子田太陽公園内)があります。今では、園芸雑誌の表紙を飾ることもある美しい公園ですが、かつては雑草が生い茂る荒れた公園だったといいます。
それから17年、どういったあゆみを経て今のようなバラいっぱいの公園になっていったのでしょうか。この公園の維持、管理、運営を任されている「Joy of Roses(バラの会)」、(以下、JOR)の赤澤増男さん、増田健一さんにお話を伺いました。
荒れた公園にバラの花壇を
赤澤さんはJORの会長で、太陽ローズガーデン立ち上げの発起人の一人です。 「以前は『ちかんに注意!』という看板が各入り口にあったんだよ」と赤澤さん。見通しも悪いことから、近所では子どもたちはあの公園には遊びに行かないようにと言われていたのだとか。
そこで、なんとかしなくてはと立ち上がったのが、荏子田おやじの会でした。荏子田おやじの会とは荏子田小学校在籍の親を中心として作られたグループです。2001年、「子どもたちが安心して遊びに行かれる公園にしよう!」と、公園にツリーハウスを作ってはどうかと青葉区に提案します。ところが、その案は安全面の問題から却下されてしまいます。
そこでおやじの会のメンバーでもある赤澤さんは、公園内にバラの花壇を作ることを提案しました。赤澤さんは自宅でも100本のバラを育てていたというほどのバラ愛好家。その数ヶ月前、バラの会「Joy of Roses」(以下、JOR)を立ち上げたところでした。JORとは、「バラ育てを楽しみながら、公園や庭にバラが咲く、美しく、明るい街にしよう」という思いを持った人たちの非営利の会で、まさにこのプロジェクトにぴったりの会だったというわけです。この提案は認可され、赤澤さんを先頭に、おやじの会とJORの有志、約50人が公園の花壇づくりを始めました。
しかし、行政が認可したとはいえ、資金はゼロ。元銀行員だったという赤澤さんですが、「バラで公園を再生させたいという情熱を持ったみんなが力を合わせればなんとかなる」と、お金のことはあまり心配していなかったそうです。
幸い、おやじの会に造園業をしているメンバーがいたので、草刈り機など、農機具類は借りられたそうです。また材料費を抑えようと、2トントラック2台で、静岡の伊豆急行まで枕木をもらいに行ったこともあるのだとか。公園内にあるセンスの良いベンチ、パーゴラ、アーチなどはすべて手作りです。
こうして、お金はかけられないけれど、手間と愛情をかけて公園の整備を進め、ようやくバラを植えられる環境になったのは1年ほど経ってからだそうで、その頃からの活動はJORが中心となっていきました。
ギフトとマイローズ制度
最初に植えたのは、2002年から2003年にかけてのことで、バラ愛好家の方たちから寄付してもらった苗25本だったそうです。
その後、公園内の設備を整えていくために2003年、アメリカのサン・マイクロシステムズの日本支社に勤めるおやじの会のメンバーが本社にこの公園のプロジェクトを紹介しました。そして、賛同を得て40万円の寄付金を取り付けることができました。その寄付金を利用して、資材を調達し、自分たちの手でさらにインフラを整えていきます。
また、もっとバラを増やしていこうと、2004年、マイローズ制度という仕組みを考えだしました。これはバラの苗代と管理料を寄付してもらい、その代わり、バラに好きな名前をつけられるという制度です。
少しずつ、そして着々と
2011年、現代表の増田さんがこの活動に加わります。元警察官の増田さんは体力のあるうちに好きなことをやりたいと一年早く退職し、太陽ローズガーデンが散歩コースであったこと、もともとバラが好きだったことからJORのメンバーになりました。
増田さんは荏子田地区公園愛護会の会長、荏子田に花を増やす会の会長も兼任しています。バイタリティーあふれる増田さんが加わったことで、太陽ローズガーデンはますます活気づいていきます。
その後、地道に続けてきたJORの活動が評価されるようになります。2012年には第一回東急電鉄「みど*リンク」アクションに入選、2016年には第一生命「緑の環境プラン大賞ポケット・ガーデン部門」を受賞し、それぞれ支援を受けることができました。
これらの支援金で門柱、水場、花壇の土留めなど、さらに公園内の設備を整え、現在の荏子田ローズガーデンが出来上がっていったのです。
ボランティアと太陽ローズガーデン
JORの会員は123名(2018年4月現在)にまで増えました。会員の中の有志が週2回、公園内のメンテナンスやバラの手入れに訪れます。また、天候やバラの状態によっては活動日以外にも作業をしています。ボランティアメンバーが、いつでも太陽ローズガーデンのことを自分の庭のように気にかけ、大切にしていることが伝わってきます。
このJORの活動を支え、引っ張っていく赤澤さんと増田さんは、お互いのことをこう評します。
「増田さんはすごいよ。行動力もあるし、人当たりもいい。彼がいなかったらここまでできなかった」と、赤澤さん。また、増田さんの人柄を感じさせるこんなエピソードも伺いました。
東日本大震災の後のことです。土が固く粘土質、水はけも悪かった階段横スペースは、誰もがバラを植えるのは無理だと諦めていました。そんな中、増田さんは「東北の人たちの苦労を考えたら土を掘ることなんてなんでもないことだ」と階段横にもバラを植えることを提案します。そして皆で力を合わせて、いくつものバラの苗床を掘り下げました。「ここは被災した方たちへ応援のつもりで植えたんだ」と増田さんは言います。
一方、赤澤さんについて、増田さんはこんな風に語ってくれました。「赤澤さんは緻密できっちりして図面など企画書などを書くのがうまいんだよ。自分にはできないな。それから人を惹きつける魅力もあるね」。取材中も、赤澤さんは公園を訪れる人やボランティアさんに対しても気配りを忘れず笑顔で接していました。
この活動がうまく続いている秘訣をお二人に尋ねると、
「みんなが平等であること」
「少しずつやる、一気にやろうとしないこと」
「リーダーの情熱!」
と答えてくれました。
また10年先のビジョンが明確であることも大切だと教えてくれました。
このJORの活動は各地のボランティア運営グループにも注目され、赤澤さんと増田さんは他地域の講演会にも招かれています。
取材を終えて
私は、4月から何度か取材に訪れているうちに、すっかり太陽ローズガーデンのファンになってしまいました。つぼみの段階から見ているだけに、訪れるたびにバラに包まれて行く公園の変化にワクワクしました。また、それと同時に毎回笑顔で迎えてくれるボランティアの方たちとの会話が楽しく、帰りはいつも心の中にバラのお土産をもらったような気持ちで家に向かうのでした。
取材を続けているうちに、「バラを育ててみたい」という種が私の中にまかれてしまったようです。
今まさに、満開の季節を迎えた太陽ローズガーデン。皆さんもバラとボランティアさんの笑顔に会いに、出かけてみてはいかがでしょうか。
【基本情報】
団体名 | 荏子田太陽公園愛護会 |
公園名 | 荏子田太陽公園 (横浜市青葉区) |
面積 | 4,600 m2 |
設立時期 | 2001年 |
活動の様子は | Joy of RoseのFacebookページをご覧ください |
(取材:山田麻子(森ノオト ライター))
*この記事は2018年5月に取材されたものを転載・再掲載しています。
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