各地の公園ボランティアの活動を紹介するコーナー「となりの公園愛護会」。公園ボランティアは全国さまざまな地域で行われていて、その活動を応援する人たちもいます。
横浜で地域メディアを運営するNPO「森ノオト」さんは、地元の公園愛護会の活動を紹介する記事を書かれています。自然との調和や地域コミュニティを大切に、地域に軸足をおいた暮らしや子育てをする皆さんの視点で書かれる記事の数々は、とても興味深く、私たちみんなの公園愛護会の思いとも近いので、これから、森ノオトさんの記事を時々こちらでも紹介する取り組みを始めることになりました。今回はその記念すべき第1回です!
横浜市青葉区とNPO法人森ノオトは、花と緑を通じた対話(=ダイアログ)を通して、花と緑の活 動を始めるきっかけや、活動をしている人同士のつながりをつくる、「フラワーダイアログあおば」 事業を協働で行っています。この活動の一環として、NPO法人森ノオトが地域のボランティアの みなさんを取材した記事をご紹介します。
ウェブメディア『森ノオト』
東急田園都市線青葉台駅から徒歩10分ほど、現在建て替え工事中の桜台団地に隣接する桜台公園は、横浜市青葉区で3番目の広さを誇ります。起伏に富んだ公園内には池あり、広場あり、雑木林ありとバリエーション豊かな環境が魅力で、大人から子どもまでたくさんの人が思い思いの時間を過ごしています。桜台公園のことならなんでも知っている桜台公園愛護会の目黒測さんは、愛護会員として公園のボランティアをなさっている、今の桜台公園に欠かせない功労者でした。
コロナ禍もあいまって、5歳の息子がいる私は、家族と公園で過ごすことが当たり前の日常となりました。中でも家から近い桜台公園は、親子ともにお気に入り。バス通りに面した明るく大きな池の前で、子どもが石の上で日向ぼっこする亀を眺めていると、何かいるのかなと他の子どもたちが集まってきます。クチボソ、ヨシノボリ、タナゴなど、ベテランのおじさんたちも魚について教えてくれます。少し奥にある大きな木々に囲まれた広場では、サッカーをしたり、バスケットボールをしたり、夏は父子でカブトムシを捕まえに行き、たくさんいる場所を探したりしました。暖かい日には公園内に点在するベンチや東屋でお弁当を食べ、すっかりわが家の暮らしに欠かせない公園となっています。
子どもが全力で走り回りたいときも、母親の私が日向でのんびり過ごしたいときも、いつでも受け止めてくれる包容力と安心感が魅力の公園ですが、桜台公園の愛護会ではどのような活動をしているのでしょうか。
愛護会の目黒測さんにお話を聞きに公園に足を運ぶと、目黒さんは枯れてしまった木を切っていたところでした。全国的に被害の出ているナラ枯れですが、この数年で横浜市内でも被害が広がっています。ここ桜台公園でも枯れてしまった大きなコナラなどの木がたくさんあるようです。人が歩く園路側に倒れてしまっては危険なので、横浜市が順に伐採する予定になっているそうです。目黒さんは、枯れてしまった木の一部を自ら切っていました。板についた作業着姿は、まるで公園整備の業者の方そのものです。
地域の人が公園の木を切ることや大きな電動工具を使うことは通常禁止されていますが、目黒さんは土木事務所とよく連絡を取り合い、実施しているそうです。
それもそのはず、もともと49年前に桜台で電機店を立ち上げ、自身も長らく工事の現場に立っていた目黒さんは、工具の扱いも手慣れたもの。その出で立ちを見ても、やっている作業内容や扱う道具からも、公園に遊びに来た人の目にはとてもボランティアの活動には見えません。健康管理のために4年前から始め、2、3日に1回は来ているそうで、公園内の様子は常に把握している様子です。
山の方を案内してもらおうと、目黒さんに付いていくと、谷間に木漏れ日の美しい雑木林が広がっていました。谷間のエリア全体に下草や木々が鬱蒼と茂っていた頃を知っている私は、どこか遠くに来たかのような、森林浴ができる散策路になっているその変貌ぶりにとても驚き、「開拓…」とつぶやいてしまいました。途方もない作業量に呆然としながらも、ふかふかの落ち葉のじゅうたんの上を気持ちよく歩いていると、目黒さんも「いいでしょう?」と柔らかい笑顔です。
自らを「公園おじさん」と言う目黒さん。公園で作業をしていると、業者の人と思われていろいろな人から声を掛けられるそう。「お散歩で遊びに来る保育園の先生から、落ち葉を集めて落ち葉プールを作ったら子どもが喜ぶと言われて、あそこに集めたんだよ」「あの斜面を子どもたちが登れるようにしてほしいと言われて、きれいにしたんだよ」。そういえば、ちょうどたくさんのどんぐりが落ちるそのあたりは、以前は笹の葉におおわれていて、「茂みに入ると危ないからやめましょう」と書かれた看板が立てられていたことを思い出しました。
さらに公園の裏手側、人通りの少ない山側の外周部も、以前は鬱蒼とした印象でしたがすっきり見通しが良くなっています。なんと向かい側のマンションの住人の「景観が悪いからなんとかならないかしら」との声を受け、それならばと急斜面にもかかわらず下草を払ったそう。淡々と穏やかな口ぶりですが、その範囲の広さに、行動の柔軟さに、驚かされっぱなしです。それでもご本人は、「いい運動だよ。健康のためのリハビリ。気が向いたときに来て作業しているだけだよ」とまったく気負いがありません。
「とってもいい公園。自慢の公園だよ」と口にする目黒さん。「新しく整備した雑木林なんかで親子キャンプなんて企画したらいいと思うんだよ」「道路に面したこの斜面は花畑にしたくて。花時計とかいいよね」「小さい子も遊べるように芝を植えたい」と、日々のメンテナンスにとどまらず、まだまだやりたいことは次から次へと尽きないようです。手入れの行き届いた公園内をぐるりと一周する間にも、公園への愛情と、公園を使う様々な立場の人への優しい眼差しにあふれていました。
「困っていたらかわいそうだからなかなか捨てられない」と、忘れ物はしばらくの間、全部とっておくそう。「またかわいいのがあるんだよ」と目尻が下がります。取材の日も落とし物のおもちゃを片手に現れ、子どもに声をかける姿がありました。取材が終わる頃には、公園に遊びに来ていた3歳の男の子に、切った木の下で眠る大きなカブトムシの幼虫を見せてあげました。しばらくしてから、勇気を出して一生懸命に持って帰りたいと伝える男の子に嬉しそうに応える目黒さん。こういった、子どもたちとのやりとりが楽しく励みになると笑顔です。
北海道の農家出身だという目黒さん。学生時代には、冬の間に凍った沼の上を通り、木を伐採して製材するアルバイトをしていたそう。桜台公園が開園する10年以上前から桜台に電機店を構え、地域と密に関わってきたからこそ、今このように桜台公園で活き活きと公園手入れに精を出す自然体な姿があるのだなと感じます。思い返せば目黒さんが活動を始めたという4年前は、私が桜台公園を利用し始めた頃と重なります。その頃は公園の山側は鬱蒼としていて、池や広場などの平らな部分が主な居場所として整備されていた記憶があります。今では遊歩道や雑木林まで気持ちよく手が行き届いているのは、目黒さんたちの愛情いっぱいの活動の賜物だったと知り、公園やその公園を使う私たちにはなんて幸せなんだろうとあたたかな気持ちになりました。
目黒さん自慢の桜台公園には現在花壇がありません。樹木の手入れや草刈りなどを担う目黒さんに加えて、新たに、花壇の手入れを楽しむ愛護会仲間が増え、花端会議が生まれたら、なんと素敵なことでしょう。桜台公園が、これからまだまだ豊かになっていく気がして楽しみです。
【基本情報】
団体名 | 桜台公園愛護会 |
公園名 | 桜台公園 (横浜市青葉区) |
面積 | 35,798 m2 |
(取材:渡辺 絵梨(森ノオト))
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