みんなの公園愛護会では、地域の人々とともに、公園をより良くしようと頑張る行政の取り組みにも注目しています。
1972年から公園愛護会制度を運用し、パークマネジメントプランの実践にも力を入れている姫路市で、地域の人たちと共に、公園の緑の育て方を実践的に学ぶ取り組みが行われていると聞きました。
緑で豊かな景色を作りながら、ラクに管理していく方法を学んだり、剪定枝はチップに・落ち葉はコンポストに、と公園での緑と土の循環を作る取り組みを、地域住民と一緒に実験しているとのこと。
地域の複数の自治会を横に繋げる城の西エリアマネジメント準備会の皆さんと、市役所の協働事業で、地域の人向けの「みどりを見る目を養う剪定講座」イベントが行われるということで、見学に伺ってきました。
市民と行政のこれまでの取り組み
イベントの主催は「城の西エリアマネジメント準備会」の皆さん。地域のNPO法人スローソサエティが世話役となって、地域の複数の自治会を横に繋げながら、姫路城の西エリアのまちづくりや持続可能な暮らしを考えるイベントなどを行っている方々です。
これまでにも、地元の山に生えている多年草や宿根草・樹木を使った庭づくりを、公民館の中庭で2年間実践されてきた皆さん。今回は外に飛び出して、姫路市役所との協働で、公園の緑を題材に、メンテナンスがラクになる樹木の剪定の基本を学ぶ実習講座。それだけでなく、剪定枝をその場でチップにして公園の土に還すという取り組みや、落ち葉コンポストの設置実験を行うということでした。盛りだくさんで、アツイ!
地元の自治会や愛護会の皆さん、公園のご近所さんや、普段いろんな公園を利用しているという人、市役所公園部の職員さんなど、30名ほどが集まりました。講師は「リビングソイル研究所」の西山雄太さん、土から庭を考える土の専門家です。
土と循環の専門家に学ぶ、公園での緑の循環の考え方
公園にある大きな樹。木が伸びると落ち葉が増えて苦情が来るからと、バツっとある高さで伐採。そうすると一時は落ち葉がなくなるものの、翌年切ったところから一斉にワサッと生えてきて、木は不恰好な上に、落ち葉も当然落ち、散々になっている様子をよく見かけます。
ケヤキのような樹形の美しさが魅力の木の良さが失われるから、木自体への愛着がなくなり、落ち葉が余計に邪魔モノになるという悪循環。一方で、公園に求めるものの上位にランクインする「日陰」は、大きな木が作ってくれます。
これを、「育てる」という視点で、切り方を変えるだけで、美しい木が育ち、落ち葉の量やメンテナンスの苦労がちょっと減る、そして木陰によって、公園がより過ごしやすい場所になる可能性があることを語る西山さん。
姫路市の公園の樹木は、3年に1回の頻度で市職員の剪定が入っています。年に2回くらい庭師が木を剪定し、日々のお手入れもある家の庭とは考え方が違うとのこと。
「毎年1~2回手が入る住宅の庭と同じように手入れするのとは、考え方もさわり方も変えなければならない。剪定という言葉は同じですが、別物としての技術が必要です。」と話す西山さん。
公園ならではの管理の考え方と手法で、木にも、土や環境にも、人にも優しい循環を作っていこうという作戦です。
この日のイベントは、城の西公民館の中庭を見るところからスタート。
公園に移動したあとは、公園の近くに住んでいる順に並んで輪になっていく自己紹介をしたりと、城の西エリアマネジメント準備会の米谷啓和(こめたに・ひろかず)さんが、楽しく進行されていました。
そして、いざ、剪定の実践です!
その1:木の剪定は枝の分岐点で思い切ってカット
まずは公園の定番低木 ツツジ を剪定。西山さんが実際にやって見せてくださいました。ただ切れば良いという訳ではありません。どこで切るか?が重要とのこと。
低木の管理は見通しの良さを重視。剪定のポイントは、枝の分岐点で切って、中からスッキリさせること。木は切ったところから新しい芽が出てくるので、バリカンなどで外側を一定の高さに刈り込むと、そこから葉っぱが倍増して、益々密になり、見通しも風通しも悪くなります。
もう一つのポイントは、公園全体をみて、何を優先するか?を決めること。出入口に近いところは安全と見通しを優先することや、2種類の植物が入り組んで生えているところでは、たとえば、公園内で他にも多く生えているシャリンバイより、数の少ないユキヤナギが目に付くように剪定するなど。たまたま生えてきたドングリを育てるも良し、あるものを生かして公園全体で豊な景色を作っていきます。
剪定バサミを持って皆さんも実践。枝が太くなったところはノコギリも使います。ツツジは切ったところから小さい葉っぱがいっぱい出るので、一度思い切って全部切ってしまってもOKとのこと。どんどん切っていくと、あっという間にスッキリしてきました。
しげみの中からボールやゴミも出てきました。低木の見通しが良くなると、子どもの安全が確保されるのはもちろん、ゴミのポイ捨てや、ボールなどの失くしものも減りそうだね、という声も聞こえてきました。
ケヤキやカシなどの大きくなる木も、考え方は同じです。枝の分かれ目の根元で切れば、そこからはもう新しい枝が出ないので、枝の伸び方の予想がつけられます。
これなら、周辺の住宅に迷惑になりにくいように木を伸ばし、大きく育てて、木陰や遊び場を作るということも可能だそうです。
太い1本の木ではなく、細い複数の木を育てるという考え方もあります。切ったところから新しい枝が出るという特長を生かして、太い幹を切って切り株にし、その横から出たヒコバエを育てていきます。これなら、高さやボリュームの管理もラクになるとのこと。
「下から複数の幹が立ち上がった状態のことを株立(かぶだち)と言います。 考え方としては、昔の里山の薪炭林管理の手法と同じです。萌芽再生させることで、樹木を若返らせ、細くスッキリさせた状態で再度大きく育てていきます。 かつての薪炭林の場合は、カシやコナラなどを15年スパンで切っていました。だいたい直径10~15センチ、高さが10m超。 公園でも10~15年スパンを考えたこの手入れに近いものが必要かと思ってます。」と話す西山さん。
木の特性に合わせた剪定を知ることで、管理がグンとラクになり、育てる楽しみにもなるっていいですね。
その2:落ち葉はコンポストで堆肥に
秋の公園といえば、落ち葉。多くの人の困り事にもなっている落ち葉の処理ですが、西山さんのオススメは、熊手で集めて、公園に設置したコンポストに入れるだけ、という簡単な循環管理。
市役所から支給されるコンポスターと、熊手や箕などの道具があれば、作業の手間もかかりません。子どもたちも遊びの一環で楽しく落ち葉を集めてコンポスターに運ぶ作業ができそうです。
落ち葉を集めて、ビニルのゴミ袋に入れて、回収して、輸送して、燃やすという労力とエネルギーを大幅にカットする、人にも環境にも優しい方法です。
コンポストのポイント:剪定した枝を大きな塊のまま入れると、そこが空間になって周りのものが分解されないので、入れないようにするか、ハサミで刻むなど工夫が必要。
その3:草は抜かずに刈って緑のはらっぱに
落ち葉とともに、公園の困り事になりがちな雑草。夏の雑草抜きは重労働です。これを抜かずに短く刈って緑のはらっぱにしていくことを提案する西山さん。
公園整備でほしいものランキング上位に入る芝生広場。実際に作ってもメンテナンスが大変という話もよく聞きますが、地域のみんなの公園は、少し考え方を緩くして、純粋な芝生だけではなく、シロツメクサなどの短い草も自然に混ぜて、短く刈ってはらっぱを作れば、管理もぐんとラクになるとのこと。
電気もガソリンも不要の手押しの芝刈り機をカタカタ押して、短くカット。刈った草は公園のコンポストにポイ。これなら、年齢も経験も不問の簡単さで、楽しくはらっぱの管理ができそうです。
その4:剪定枝はチップにしてグラウンドカバーに
この日の実験の目玉のひとつは、剪定枝のチップ化です。事前に剪定しておいたケヤキの枝や、みんなで剪定した低木の枝を、機械で細かく砕くというもの。その音や時間、作業時に舞うチリがどのくらいなのか?今後も継続できそうか?をご近所さん含めみんなで見て確かめてみよう!という実験です。
トラックに積まれていた機械が登場し、実験開始!
みんなで見守っていると、山積みになっていた剪定枝が、あっという間にチップになりました。しかもほんの少しの体積に。
出来上がったチップは、元のケヤキの木の根元に敷きました。このように根元をグラウンドカバーとしてチップで覆うことで、保水効果がある上に、雑草対策、落ち葉の散乱も防げるなど、さまざまなメリットがあるとのことで、良いことづくめ!
ポイントは狭い範囲に厚めに敷くこと。雑草のタネが入っていそうな時はしばらく置いてから使うと良いそう。木の幹が多いと分解が遅くなり、葉が多いと分解発酵が早いんだとか。キノコが生えてきたり、カブトムシやクワガタの幼虫が育ったりと面白い展開もあるようです。
やってみて参加者の感想
最後に輪になって今日の感想が話されました。
・新しい形の庭ができた。手入れの行き届いたマイガーデンができたようでうれしい。
・枝や葉をゴミにしないというのは、まさにSDGsだと思った。
・みんなで楽しみながらできた。こういう公園がモデルとして市内でも増えていったら良いと思う。
そんな声が上がっていました。
この日の取り組みの様子は、城の西エリアマネジメント準備会のサイトでもレポートされています。
また、この日はケーブルテレビの取材があり、姫路市政広報番組でも放送されるとのこと。全市をあげて熱心に活動されていることが伝わってきます!
公園の緑を、みんなでラクに管理し、その場で循環させていくという取り組みに、感動しました。西山さんによると、他の地域でも実現できる考え方とのことなので、このような取り組みがどんどん広がっていくと良いなと思います。
西山さんのお勧めする道具や、緑の管理方法については、スローソサエティのWEBサイト内で公開されている「みどりのマネジメントガイドブック」に詳細が掲載されているので、気になる方はチェックしてみてください。
【基本情報】
実施自治体 | 姫路市 建設局 公園部 |
主催 | 城の西エリアマネジメント準備会 |
プロジェクト | 姫路市提案型協働事業 「SDGsで育む<城の西>シビックプライド〜みどりを見る目を養う剪定講座」 |
協働団体 | リビングソイル研究所、兵庫県立大学 |
事業の目的 | 地域に開かれた剪定講座をおこなうことで、住民の緑を見る目を養う。また公園の使い手を始めさまざまな人々が管理や運営にかかわることで、公共空間の担い手となる多様な主体の形成を図る |
自治体より | 姫路市では、パークマネジメントの一環として、公園愛護会活動の負担を軽減できる公園管理手法の検討を進めています。公園愛護会と協力・並走することで、地域のみなさんが楽しく公園を利用した結果が管理しやすい公園環境につながるような、よりよい公園づくりを目指しています。 今回の山野井公園では、先進的かつ活動的な取組みを地域のみなさんとともに体験できました。今後は、市内の各地域でもいろいろな活動が生まれるよう取り組んでいきます。 |
主催/協働団体より | <主催団体 米谷啓和さんより> 公園管理をはじめとする公共空間の活用には「参加と協働のデザイン」(世古一穂)が欠かせません。 西山さんのような確かな専門家がもつ知見やスキルと使い勝手のよいツール、行政が所有する設備等のリソースとともに、それらをうまく生かしながら住民の自立と参画意識を引き出し、主体形成へとつなげる「協働コーディネーター」の存在が必要です。 多様な担い手をつなぎ合わせ、<循環する時間>を生み出すことのできる資質を持ったリーダーをそれぞれの地域において見出し、チームビルディングすることがたいせつだと感じています。 <講師 西山雄太さんより> 姫路市で公園の緑管理に関わり始めて3年経ちましたが、長期的なビジョンや緑の扱い方や設計などがあまり考えられておらず、とりあえず今の問題を解消することが続けられてきたのではないかというのが実感です。これから大切なのは長期的視点で、10年、20年先を見据えた緑の管理方法を定着させていくことだと思っています。 長期的視点で適切な管理を継続していけば空間や景色がより良くなり、費用も削減でき、環境に負担をかけない形に変えていけます。 遠くの自然に出かけなくても、身近に気持ち良い公園が増えれば、日々気持ち良い時間を過ごせる公の場としての公園の価値が高まっていくのではないかと思っています。 |