2024/3/29

落ち葉コンポストでつくる自然と共生する花壇

有馬やまぼうし公園、有馬ふるさと公園(川崎市)

各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は公園からちょっとエリアを拡大して、公園+地域で緑の循環を作っているこんな取り組みをご紹介します。

神奈川県川崎市の住宅街を流れる有馬川。川の両側はコンクリートの壁で固められ、道路との境目には転落防止のためのフェンスが建てられています。10年前は雑草だらけだったこの道が、今では地域の人に愛されるバラの咲く道に大変身。その活動を行ったのが、今回ご紹介する団体、Rose walk Gardeners(ローズウォークガーデナーズ) です。

Rose walk Gardenersは、公益財団法人川崎市公園協会のみどりのボランティア 緑の活動団体として、公園愛護会をはじめ地域の様々な団体と協力しながら活動しています。代表の大島京子さんは有馬川沿いに花壇を作ったことをきっかけに、無農薬・無肥料・無耕起の花壇づくりに着目。現在は、落ち葉活用によるゴミの削減や、自然にやさしい花壇づくりを様々な場所で広めています。大島さんが有馬ふるさと公園で新しく始めた「森カフェ」でお話を聞いてきました。

(ローズウォークガーデナーズ主宰の大島京子さん)

薄暗い川沿いの道がバラの道に

大島さんの活動が始まったのは2014年のこと。近所にゴミ捨て場があり、どことなく薄暗い雰囲気の有馬川沿いの道路。中学生の通学路にもなっていた道でした。大島さんは友人2人とみどりのボランティア緑の活動団体に登録。川沿いに設置されたフェンスとその前のガードレールの間のわずか50㎝ほどのスペースに花壇を作り始めたのです。

(ローズウォークが作られる前の状態。雑草だけでなく、ゴミも目立っていたそうです。写真提供:Rose walk Gardeners)

 最初は雑草だらけ。土は固く、掘り起こしても石がたくさん出てくるような状況でした。そんな状態にも負けずに、大島さん達は暑い夏の時期に毎日のように作業したそうです。なんとかバラやブルーベリーの苗などを植え付け、「リバーサイドローズウォーク」と名付けました。

今ではすっかり明るい雰囲気になったリバーサイドローズウォークは、散歩をする人も増え、複数あるバラの種類を楽しんで見ている人も多いと言います。

(今では色とりどりの花が楽しめる道に。写真提供:Rose walk Gardeners)

そしてこの活動が、大島さんが落ち葉コンポストに取り組むきっかけになりました。剪定で出る枝や草花。少ない人数では、これらを持ち帰って、処理するのも一苦労です。そこで、大島さんは切った枝や草花を、土を覆うマルチングに活用することに。すると、しばらくすると分解されて、植物が土に還っていくことを発見したのです。マルチングには水分の蒸発を防ぐ効果もあることから、2022年の夏は一度も水やりをしなくても、バラは枯れなかったそうです。 

活動は地域の公園へ:ゴミを出さず、手間も掛からない、地球にやさしい花壇づくり

Rose walk Gardenersの主な活動は、花壇づくりと落ち葉コンポストづくり。メンバーは現在3名ですが、3人とは思えないほど様々な場所にその活動を広げています。その推進力となったのが、リバーサイドローズウォークの次に参加した、有馬やまぼうし公園の花壇づくりでした。

大型マンションの一角にあるこの公園は、建設からしばらく経ち、雑草だらけになっていたとのこと。これでは子どもたちがかわいそうと、区役所の協力を得ながら、大島さんや有馬オープンガーデンの会(有馬ふるさと公園・有馬かえで公園で活動する緑の活動団体)のみなさんによる花壇づくりが始まりました。

初めは1年草が中心の花壇だったものの、植え替えの頻度が高く、土づくりにも手間が掛かることから、宿根草中心の花壇に途中から方針を変えます。そこで問題となったのが、切り戻した草花の処理でした。なんとかそれらをゴミにしない方法はないものか。大島さんは剪定した草花や雑草で腐葉土を作れないか、実験を開始。こうしてコンポスト第1号が作られたのでした。

(看板も大島さんの手づくり。かわいいイラスト入りです)

実験を始めてみると、コンポストの中に、ミミズやワラジムシやハサミムシなど小さな虫たちが集まってくるようになりました。

こうした虫たちや土の中の微生物の働きを調べるうちに、大島さんにはある疑問がわいてきました。「誰も肥料を与えないのに、森の中で大木が育つのはなぜだろうか」という問いです。花壇でも森の地面を再現してみよう、そう考えた大島さん。こうして、農薬や化学肥料を使わず、耕すこともしない花壇づくりを目指すようになったのです。

(ギョリュウバイは元々はもらったものだそう。赤い花が見事です)
(落ち葉でマルチングしたすき間から一斉に広がり始めたみどり。元気なカラスノエンドウは根は残して刈り取ります。根っこに根粒菌がいて、土の栄養分である窒素を固定してくれる働きがあるそうです)

 落ち葉や雑草、そして米ぬかで作るコンポストの作り方

 それでは、大島さんのコンポストの作り方についてご紹介します。

 コンポストの材料は3つ。1つめは、公園の植栽を選定した枝や雑草、清掃で集められた街路樹の落ち葉。2つめは米ぬか。3つめは水です。

 米ぬかは微生物の餌になり、発酵を促進する効果があります。使う時は、雑草や落ち葉とよく混ぜ合わせて、最後に上から足で踏みます。こうすることで、発酵が進み、微生物が植物を分解してくれるのです。米ぬかは一度にたくさん加えてしまうと、発酵で高温になり、虫がたくさん寄ってきたり、微生物の分解が追いつかないことも。そのため、大島さん達は1ヶ月に1回、少しずつ米ぬかを混ぜているそうです。また、水は雨水頼りで特別に水やりをすることはないとのこと。そのうちに、白いカビのような放線菌という菌が出始め、植物を分解してくれるそうです。

(有馬ふるさと公園の広場で作られている落ち葉コンポスト。分解には雑草より落ち葉の方が時間が掛かるそう)

 作り方を教えていただいたところで、次に気になるのがコンポストにまつわる問題。臭いは大丈夫なのでしょうか。

大島さんたちが作るコンポストには、植物しか入っていないため、臭いが問題になったことはこれまでに一度もないとのこと。では虫はというと、分解を助けてくれるミミズやワラジムシは出ますが、コバエやゴキブリなどが出たことはないそうです。また、コンポストにゴミを捨てていくような人はほぼいない、ということでした。

(有馬梅林公園のコンポスト。竹のかごも大島さんの手作り。写真提供:Rose walk Gardeners)

小さな森で繋がる地域のご縁

大島さんがリバーサイドローズウォークを作ってから今年で10年。現在は、やまぼうし公園の他にも、地域の公園愛護会活動を担う町会と協力して、有馬さくら公園、有馬梅林公園で落ち葉コンポストの活動を行っています。今回訪問した有馬ふるさと公園でも、友人や家族と共に、昨年12月からコンポスト作りを始めました。

 有馬ふるさと公園はこんもりとした雑木林を中心に、今回森カフェを開いた広場と、シンボルツリーが印象的な大きな遊具のある公園です。自然遊びと遊具が楽しめる公園に、取材に同行した私の娘たちも大喜び。ところが、少し前までは森が鬱蒼として薄暗く、近づきにくい雰囲気だったとか。2023年11月、市によって手入れされ、明るい森に変身。

せっかく整備された明るいこの森をこれからも守っていこうと、野川で森林保護を約20年続けられている「野川はあも」の伊藤菊代さんと一緒に、ふるさと公園での保全活動+地域コミュニティづくりを始めることにしました。

(森を抜けると、大きな遊具が!)

地域コミュニティづくりのイベント” 森カフェ”は、「作業よりも地域の方が気軽に集まってお話しできる場所にしたい」と大島さん。広場には大島さんが持って来たキャンプ用のテーブルが立てられていました。そしてテーブルの上には、ハンドドリップのコーヒーに、参加者から持ち寄られたお菓子、さらには地元の農家さんから買ってきたばかりという柑橘類がテーブルいっぱいに並びます。

(広場にコーヒーの良い香りが広がりました)

取材の日、森カフェには入れ替わり立ち代わり多くの人が訪れました。たまたま公園を訪れた親子や町会の役員さん、大島さんが開かれていたトールペイント教室の元生徒さんなど、合計21人。なかには、宮前区で花壇づくりの活動を25年続けている宮前ガーデニング倶楽部の方の姿も。

こうしてゆっくりと語り合える場があると、自然保護や地域コミュニティをテーマに、いろいろな活動が繋がっていきますね。参加者に話を伺うと、「大島さんは人同士を繋げるのがとても上手」とのこと。この日もいつの間にか、2,3人の輪がたくさん出来上がり、新しい出会いが生まれていたようです。

(環境に配慮してマグカップ持参で集合です)

歓談の後は、伊藤菊代さんから地域や公園の森についてのお話を伺いました。菊代さんは有馬生まれ有馬育ち。このエリアが宅地開発される前の風景をよく知る人です。公園の周辺は今は一戸建てやマンションが建っていますが、菊代さんが子どもの頃は田んぼや畑がたくさんあったそう。地形も以前はもっとなだらかな丘陵地帯だったとか。宅地造成によって、地形が変化してきたことを知りました。

また、伊藤さんは樹木医でもあり、現在の森の状態についてのお話も。長い間手入れがされていなかったために、弱っている樹も多いようです。今後は、根がむき出しになっている日陰部分に下草を植えたり、どんな植物が育っているのか調査の上、散策マップを作りたい、という話も出ていました。

(一緒にふるさと公園での活動を始めた伊藤菊代さん。現在の森の木の状態や今後の取り組みについてお話されました)

 ついに実現!落ち葉清掃から花壇づくりへの循環 

さて、Rose walk Gardenersの活動には森カフェの他にも最近、新しい動きがありました。宮前郵便局の前にいくつもある大きな花壇に、コンポストの腐葉土を使って花を植えることになったのです。

こちらで使った土が作られたのは、有馬梅林公園。町会の街路清掃で出た落ち葉が材料です。先日土を入れ替え、現在進行形で花壇づくりが進んでいます。間もなく、やまぼうし公園で大島さん達が育てて、増えた植物や新たに購入された苗も追加予定。以前はゴミになっていた落ち葉が花壇の土となり、公園で育った植物が街の郵便局の花壇を彩る。見事な循環が実現しました。

(有馬町内会による土づくりの様子。落ち葉コンポストの腐葉土を混ぜこみました。花は以前植えられたもの。写真提供:Rose walk Gardeners)
 (後日、有馬町会の方たちと花苗が植えられました。写真提供:Rose walk Gardeners)

また、今回の郵便局前の花壇づくりは有馬町会と一緒に行われました。公園から花壇までの土の移動から植え付けなど、町会の協力がなければ実現できなかったことです。 この様子はタウンニュース川崎宮前区版にも掲載されました。

サステナブルなこれからの花壇づくり

大島さんが町会と共に進めてきた落ち葉活用の取り組みは、区からも注目されるようになりました。2023年9月には、区が主催する住民参加型の地域課題解決を目指した「地域デザイン会議」に参加。これまでの花壇づくりや落ち葉活用の取り組みについてプレゼンしました。

さらに11月には、宮崎第4公園で、子どもたちと落ち葉を集め、落ち葉プールで遊び、落ち葉コンポストを作る、というプログラムにも参画。こちらは、区が主催者となり、現地の町内会や公園愛護会、子ども育成支援団体と共に運営されました。

(大島さんオリジナルの落ち葉で暮らす小さな生き物たちのお話「落ち葉物語」。地域デザイン会議の取り組みの詳細と共に、川崎市のページの一番下に掲載されています。鷺沼在住の手塚梓さんによる朗読データも。)

精力的に活動する大島さんの原動力は、CO2削減に貢献し、未来に自然を残したいという思い。有馬町会では、年に3回街路清掃が行われます。そこで廃棄される落ち葉の量は、45Lのゴミ袋にして、1960袋分とのこと。落ち葉コンポストに活用されているのはその一部とはいえ、この活動が他の地域にも広まっていけばどうでしょうか。きっとゴミの削減に大きく貢献できることでしょう。

しかも、落ち葉コンポストの腐葉土を用いた大島さんの花壇づくりは、農薬・除草剤・化学肥料を使わない地球に優しいもの。植物と小さな生き物が共生する生物多様性に富んだ花壇です。

いいことづくめな落ち葉活用と自然の力を使った花壇づくり。環境に優しくて持続可能な、新しい花壇のあり方のヒントとなりそうです。


【基本情報】

団体名Rose walk Gardeners(ローズウォークガーデナーズ)
活動場所有馬川沿い、有馬やまぼうし公園、有馬ふるさと公園(川崎市宮前区)
基本的な活動日森カフェは毎月第3日曜日10時から有馬ふるさと公園にて開催
そのほかの活動は随時
活動内容雑草や落ち葉の堆肥化、除草、落ち葉かき、低木の管理、花壇の管理、植物の水やり、地域のイベント
設立時期2014年
主な参加者お花好きの地域のみなさん
活動に参加したい場合は森カフェは直接有馬ふるさと公園のとちのき広場へお越しください。その他の活動は、Facebookに掲載しています。
取材・執筆
取材・執筆
武石 ちひろ

子どもの頃好きだった遊びは、公園での蝉取り。一人で木に登って、狩りのような気持ちで挑んでいたことを覚えています。知らない子と友達になって、その子を追いかけて迷子になったことも。今は人見知りなのに不思議です。現在は、地域で”はたらく”をテーマに対話の場をつくりながら、ライターのお仕事も。地元の寺子屋活動にも参加し、地域活動にも興味津々。

子どもの頃好きだった遊びは、公園での蝉取り。一人で木に登って、狩りのような気持ちで挑んでいたことを覚えています。知らない子と友達になって、その子を追いかけて迷子になったことも。今は人見知りなのに不思議です。現在は、地域で”はたらく”をテーマに対話の場をつくりながら、ライターのお仕事も。地元の寺子屋活動にも参加し、地域活動にも興味津々。

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