2023/9/9

坂の途中でひと休み、会話も生まれるベンチとお花箱

柿の木台地区(横浜市)

みんなの公園愛護会ではこれまで、地域の公園で様々な活動をする皆さんにお話を伺って、その知恵やアイデア・情熱をシェアしてきました。今日は公園からちょっとエリアを拡大して、花や緑を介してまちの美化と地域コミュニケーションを図るこちらの皆さんです。

ベンチつきのお花箱を町内に130個設置

横浜市青葉区の柿の木台地区には、プランターとベンチが一体になった「お花箱」があちこちに置かれています。坂の多い柿の木台地区で、季節の花に癒されながら、ひと休みもできる「お花箱」。

この取り組みについて、柿の木台グリーンクラブ会長の柳谷紀秀さんをはじめグリーンクラブの皆さん、やもと農塾代表の工藤昇さんにお話をお聞きしました。

(季節の花を楽しみながら坂の途中でひと休みできる「お花箱」)

やもと農塾の工藤さんのアイデアから始まったという「お花箱」。地元で生まれ育った工藤さんは、お母さんのリハビリで近所を一緒に歩く中で、ひと休みできる場所があまりないことに気がついたそうです。

「坂の多いこの柿の木台地区は、高齢化が進んでいて、4人に1人が高齢者なんです。坂の途中でお年寄りがひと休みできるベンチがあって、そこに花もあれば、歩いて楽しいまちになるんじゃないかと思ったのが始まりです。」と話してくださった工藤さん。

2014年度の横浜市「地域緑のまちづくり」に地域の有志10人で応募し、審査に通過、その後協定を締結。3年間の助成金を受け、柿の木台地区でのお花箱プロジェクトが始まりました。

(お花箱の産みの親工藤さんは、ご自身で畑もしながら、横浜市の公園管理のお仕事もされている)

お花箱はひとつひとつ手づくりのオリジナル

坂の多い柿の木台地区でのお花箱は、設置する場所の坂の傾斜に合わせて設計されています。しかも、坂の傾斜角だけでなく、擁壁の角度にもピッタリと合うように、ひとつひとつ計算され、作られているので、同じものは2つとなく、すべてがその場所のために作られたオリジナルです。

(お花箱は、坂の斜面はもちろん、擁壁の傾斜にもピッタリ合わせて作られている)

こだわりは、これだけではありません。お花箱の材料は、地産地消。神奈川県産の杉の間伐材を使用しています。適した材料を探すため、山に近い材木屋さんに相談しに行ったというお話をしてくださったのは、当時の自治会長の吉田敬雄さんです。

そして色にもこだわりが。色は、まちに馴染み、花の色を引き立てるグリーンを採用。腐食防止の塗装を二度、三度と重ね塗りし、深みのある緑色に仕上がりました。

茶々かきのきだい保育園、柿の木台町内会館の隣にある墓地「黄泉の園」、柿の木台郵便局、カトリック藤が丘教会など、様々な場所に設置されています。

お花箱を置いているのは、すべて民有地。擁壁と公道の隙間の土地の有効活用にもなっています。設置にあたっては、それぞれの土地所有者への協力依頼と民有地緑化のための同意書を取り交わし、受益者負担として設置数に応じた金額の負担も。日々のお手入れや、花の植え替えなども、基本的には土地所有者が行っています。

(茶々かきのきだい保育園では、その年の年長さんがお花のお手入れを担当するそう)

こうして、3年間で柿の木台地区に130個のお花箱が設置され、地域に憩いの場が増えました。お年寄りがベンチで休息する姿もよく見られるようになり、大成功。住民からも好評でした。

計画の内容は、横浜市のホームページに掲載されているほか、当時の様子はタウンニュース(横浜青葉区版)にも掲載されています。

地域で活動を継続するグリーンクラブ

3年間の横浜市との契約期間を終えた後、お花箱プロジェクトは地域に引き継がれていきます。やもと農塾から事業を引き継ぐ形で、柿の木台町内会にグリーンクラブが発足しました。

グリーンクラブでは、お花箱とベンチの管理や、定期的な花の植え替えを継続して行っています。その他にも、植え替え用の花苗の育成や、修理の相談、地域への花苗の配布、町内会館横の市有地での緑化活動としての畑の管理運営などの活動を実施。メンバーは、町内会の役員や、花や緑が好きなご近所さんなど、現在は12名です。

保育園や黄泉の園などのお花箱の花は、年3回植え替えをしています。乾燥や、暑さ寒さに強く、丈夫で育てやすい品種を選んで植えているそうです。見映えが良くなるよう、花の種類や色・数なども研究を重ねてこられました。水やりは当番で毎日誰かが行っているとのことですが、今年の夏は特に暑い日が続いたので大変だったことでしょう。

7月のラジオ体操でも、グリーンクラブは大活躍。最終日に、グリーンクラブで育てた日々草やケイトウなどの花苗や大葉・オクラなどの苗を合わせて350個を配布し、地域の人に喜ばれたそうです。町内会主催のラジオ体操には、大人子ども合わせて毎朝150人が参加。日曜日には体操後にモルックなどのスポーツも行われるなど、柿の木台地区の人気行事になっているようです。

(お花箱開始時の自治会長吉田さん(中央)と現会長の柳谷さん(右):ベンチに座ると自然に会話が生まれてくる)
(柿の木台の由来でもあり日本最古の甘柿と言われる「禅師丸柿」の木:あちこちのお花箱に植栽され実をつけている)

花でまちの美化と防犯に

グリーンクラブ会長の柳谷さんは、グリーンクラブの目的は「割れ窓理論」だと話してくださいました。

割れ窓理論とは:空き家などで、割れた窓を放置していると、誰も注意を払っていないというサインとなり、その環境の悪さによって犯罪が起こりやすくなる現象。

ニューヨークでの犯罪率低下の例を交えながら、まちに花があることの意義について語る柳谷さん。

「グリーンクラブは花でまちを美化することにより、地域で犯罪の芽を摘むことを目的としています。家の前に花を飾る人が増え、年に1回でも2回でも活動に参加し手伝ってくれる人が増えればいいですね。」と話してくださいました。

助成金活動が終了する際に行った住民アンケートでは、「柿の木台地区にお花があった方が良い」と92.5%以上の人が答えていたそうです。「住んでよかった柿の木台、これからも住みたい柿の木台」がキャッチフレーズという柿の木台地区、地域のコミュニケーションが活発なんですね。

お花箱ベンチは、お年寄りはもちろん、多くの住民が日常的に利用しているようです。親子連れ、中高生、バス停でバスを待つ人、散歩中の犬同士のつながりも。

「ベンチに座ってくれるのを見ていると、ほほえましいですね。」と皆さん口々に話してくださいました。

お花箱とベンチは、まち歩きや外出を楽しくするのはもちろん、それだけでなく、地域の会話が増えるきっかけにもなっている素敵な取り組みだと感じました。

(この日も、郵便局前のお花箱ベンチには散歩中のご近所の方が座っていらっしゃいました)
(藤が丘カトリック教会のお花箱:植える花もそれぞれの個性が出ます)
(町内会館横のサツマイモ畑と芝生の庭:荒れていた市有地を無償で借り受けて緑化・管理している)
(柿の木台を含む周辺地域のかつての風景を描いた模型)

【基本情報】

団体名柿の木台グリーンクラブ
活動場所柿の木台地区(横浜市青葉区)
会の会員数12名
活動内容花の植え替え、水やり、お花箱やベンチの管理・修理、植え替え用の花苗の育成、市有地の緑化と農作物の生産 など
設立時期2017年(お花箱プロジェクトは2015年)
参加者イメージアクティブシニア、お花好きのご近所さん
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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