各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、以前ご紹介した鎮守の森の公園で楽しく三世代交流をしている東村山市 稲荷公園の皆さんの続編です。
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そうじ+イベントで三世代交流、11年目の「おいなりさん」
東村山市にある稲荷公園(いなりこうえん)。西武新宿線の久米川駅から歩いて15分ほど、恩多町の大岱(おんた)稲荷神社に隣接する公園です。稲荷公園と恩多稲荷児童遊園がくっついたような形状で、広場と遊具やベンチ、トイレもあります。園内には大きな木が多く、木々に見守られているような雰囲気の公園です。大きな木々は、夏の日差しや多少の雨からも人々を守ってくれるそうです。傍には野火止(のびどめ)用水が流れ、すぐ近くには恩多野火止水車苑もあります。
こちらでボランティア活動をしている大岱稲荷プロジェクトの皆さんは、毎月公園そうじ+イベントを開催し、地域の多世代で楽しんでいらっしゃいます。その名も大岱稲荷三世代交流、略して「おいなりさん」。
午前中は掃除や除草などの公園メンテナンス作業、午後から子どもたちが思いっきり遊べるような楽しいイベントを毎月企画。同じ日に開催することで、子どもから大人まで誰もが自然に公園に集まり、交流できるように工夫されています。ランチタイムにはキッチンカーも来て、一日のんびり過ごすことができるのも素敵なところです。
そして秋には毎年恒例となる音楽イベント「おいなりサンデー」も開催。昨年は久しぶりの開催で500人ほどの人で賑わったそうです。今年も10月に開催予定。神社のお囃子から始まり、音楽や踊りのステージあり、ものづくりのワークショップあり、いつものロープ遊びあり、キッチンカーありの盛りだくさんのイベントになるようです。
今年活動11年目となる大岱稲荷プロジェクトで、市内の公園では禁止されている「ボール遊び」の今後の在り方を考えていくイベントが行われるということで、見学させていただくことに。前回は1月にオンラインでの取材をさせていただいたので、今回が初訪問です。大岱稲荷プロジェクト代表鈴木重彦さんはじめメンバーの皆さんにお話をお聞きしました。
公園のあるべき姿を取り戻すためのボール遊び実験
11年目の今年は「公園のあるべき姿を取り戻す」ための第一歩と捉え、スポーツ鬼ごっこやボール遊びなど、新たな試みをしているという大岱稲荷プロジェクトの皆さん。
9月のテーマは「ボール遊び」。ボール遊びをする人もしない人も皆が快適に公園を使えるようにするため、どのように行うのがいいか考えるための試みで、市と大岱稲荷プロジェクトが協力し、安全に考慮して開催されました。
現在、東村山市では全ての公園でボール遊びが禁止されています。昔は当たり前のようにどの公園でも子どもたちがボール遊びをしていたそうですが、住宅地の増加や密集、環境の変化などで様々なトラブルやクレームが増え、1つ1つの公園に個別に対応したルールを作るのは難しいことを理由に、ここ5年〜10年の間に全面禁止という事態に。
自分たちも子どもの頃よくボール遊びをしていた稲荷公園。日常的に使っていたところに、突如ボール遊び禁止の看板がつけられたことをきっかけに、鈴木さんたち大岱稲荷プロジェクトの皆さんは考えました。
「ボール遊びも、靴飛ばしも、やりたい遊びをやって育ってきたので、今の子どもたちにも、思い切り遊べる場所を残してあげたいですよね。公園は本来思い切り遊ぶための場所ですから。」と話してくださった鈴木さん。
周辺の住民に迷惑になったり、公園を利用する様々な人が怖い思いをしなくて良い方法は、きっとあるはず。思いやる気持ちがあれば、禁止事項を作らずに、柔軟に使っていけるはずだと考え、これは自分たち大岱稲荷プロジェクトが主体となってやるべきだと動き出すことに。
市役所に相談すると、みどりと公園課から前向きな答えが。やはりボール遊びがしたいという市民の声もあるため、一緒にできる形を探っていこうと、今回の協力体制がすぐにできました。
まずはイベントとしてボール遊びを行い、今後の在り方を考える材料とすることに。
ドッジボールとボッチャを開催!
ボール遊びといえば昔ドッジボールをやっていた!という事務局メンバーの石井さんを中心にドッジボールと、地域の体力つくり推進委員会の協力でボッチャが行われることになりました。
場所の相談から、エリアの明示、幼児への配慮、大人の配置、フェンスの設置案まで、大岱稲荷プロジェクトと市役所みどりと公園課、指定管理者のアメニス東村山市立公園グループの協力のもと、アイデアを固めていきました。チラシの作成と掲示、SNSでの告知、近隣へのポスティングで周知をし、前日までに準備を進めてきたそうです。
午前の公園掃除がひと段落したら、午後の遊びの準備です。ドッジボールのコートの周りに即席フェンスが作られ、ボッチャのコートも整備されました。みんなで集まって、今日の目的や注意事項などのお話をして、いよいよスタートです。
いつものロープ遊びやサンバワークショップも
ボール遊びの横では、おいなりさん名物のロープ遊びエリアが登場。大きなケヤキの木に作られた長いロープのブランコは「ハイジブランコ」と呼ばれ、大人気です。
私も乗せていただきましたが、こんなに長いブランコに乗ったのは初めて。まるで空を飛んでいるかのような気持ち良さでした。子どもたちがとびきりの笑顔になって何度も何度も列をつくって待っているのも納得。毎月たくさんの子どもたち(時には大人も)を空への旅にいざなっているブランコ押し名人のすーさんは、何時間押しても平気だとおっしゃっていました。
そしてこちらは、サンバワークショップ。ダンボールを使った打楽器「サンバコ」を作ったり、サンバのリズムを練習したり、歌ったり演奏したり。翌月の「おいなりサンデー」に向けて、気持ちは高まります。
毎月の三世代交流の日には、お馴染みのカレー屋「タイニーメイ」さんのキッチンカーが登場し、公園ランチタイムも楽しめます。以前は、午前中のメンテナンス作業から午後の遊びまでの間、スタッフはそれぞれ一度お昼に帰宅していたそうですが、キッチンカーが来るようになって、みんなで一緒にランチができ、とても良くなったことを皆さん口々に話してくださいました。
キッチンカーも含んだ形で年間計画でイベントの申請を出すことで、煩雑な事務手続きを毎回する手間はないとのこと。
キッチンカー目当てで公園に訪れる人もいて、公園に足を運ぶ人の幅も広がっているようです。青空の下で、食べたり飲んだりしながら、ゆっくりと会話を楽しみ、子どもたちが元気に遊ぶ様子を見守る。地域の多世代が集う景色はとても温か。公園とキッチンカー、相性良しです。
市民協働を積極的に支援するためのサポート体制も
ここまで様々なことができる背景には、大岱稲荷プロジェクトの皆さんの熱意と行動力もさることながら、市役所のサポートも大きいようです。この日も、市役所みどりと公園課と、指定管理者であるアメニス東村山市立公園グループの職員さんがサポートにいらっしゃっていました。
みどりと公園課の髙橋亮太さんにお話をお聞きしました。
公園の維持管理協定を締結している団体は市内にいくつかある中で、稲荷公園でのおいなりサンデーのような大きなイベントの開催時には、市も積極的にサポートされているとのこと。
「一昨年までは資材の提供などの後方支援のみに留まっていましたが、市との共催という形にすることで、資金面や人員的な支援もきちんとできるようになりました。」と話してくださった髙橋さん。
東村山市では、2022年7月から市内の公園全169施設を一括で指定管理に出す仕組みになりました。市民協働による公園づくりの項目も指定管理業務の中に入っているため、指定管理者であるアメニス東村山市立公園グループも、フェンスの貸し出しなど一緒にサポートをされているとのこと。地元の人たちに加えて、市役所や民間企業の力が合わさることで、出来ることも増えそうですね。
今回も、稲荷公園でのボール遊びの試みを通して、市内の全ての公園でボール遊び一律禁止ではなく、どうしたらできるか?を個別に考えていくための材料にしようと考えていることを教えてくださいました。
たとえば、他の公園でボール遊びに関する要望が出た場合「稲荷公園ではこうやりましたよ。鉄ピンとロールフェンスならありますからお貸ししますよ。」と会話をしていけるようになるなど、具体的で前向きな対応が可能になるといいます。
「やっているうちに、公園ごとの良い方法が見えてきて、これならOKというパターンを1つでも増やしていけるといいですね。」と話してくださった髙橋さんは、普段から大岱稲荷の三世代交流にプライベートでも遊びにいかれるそう。それぞれの立場からできることをやっていこうという姿勢と、同じ市民の目線でのほどよい距離感での関わり合い、市の職員と大岱稲荷プロジェクトの皆さんの信頼関係の厚さが伝わってきました。
思いやりもつことが「禁止」をなくす第一歩
ボール遊びを終えて、最後にみんなで「やってみてどうだった?」の気づきや感想を話し合う時間がとられました。子どもたちからも、大人からもいろいろな意見が出てきます。
・今日はケガもなく、みんなで安全にできてよかった
・転がるボールや低いボールには、フェンスが有効だった
・高いボールやバウンドしたボールは、フェンスの外に出てしまうこともあった
・外野の幅を広げたらどうだろう?フェンスをもう少しだけ高くしたらどうだろう?
・ボールの種類も、大きさ・重さ・やわらかさで、投げやすさや飛びやすさが全然違う
など
今回のボール遊びを1つの実験として、市役所とも引き続き相談しながら、今後を考えていくとのこと。
「思いやりなんですよね。みんなが使えるように思いやれば、禁止ルールはいらなくなると思います。」と話してくださった鈴木さん。
ボール遊びがしたくても、他の利用者が怖い思いをしてしまったり周囲に迷惑をかけてしまうのなら、禁止にするしかないのかもしれませんが、小さい子がいたら配慮したり、時間や場所を譲り合ったり決めたりすれば、柔軟にやっていけるんじゃないかとのこと。
大岱稲荷プロジェクトでは、音を出すときは毎回、近隣の150軒ほどのお宅にお知らせのポスティングをしているそうです。年1回の音楽イベント「おいなりサンデー」の前には、1軒ずつ訪問して「よかったら遊びに来てください」と挨拶をしながら近隣との良い関係作りに励んでいるとのこと。近隣との関係づくりはコツコツと地道な努力の積み重ねですが、とても大切にしていらっしゃいます。
だからこそ人々に愛されながら10年以上続いているのでしょうか。大岱稲荷三世代交流は、周辺の地域からも注目を集めていて、この日も隣の清瀬市などから何人も視察に来ている方がいらっしゃいました。
神社のお囃子会の方、地元自治会の方、歌や踊りが好きな方やアーティスト、近所の子どもたち、稲荷公園が好きないろいろな方がメンバーにいて、それぞれの得意分野を持ち寄って楽しむ大岱稲荷三世代交流。皆さんの活動のこれからに、そしてボール遊びから始まる公園の柔軟な運用やルールづくりのこれからに、私たちも引き続き注目していきたいと思います。
【基本情報】