2023/7/3

自然の森を守り優しい循環をつくる

三井の森公園(杉並区)

各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、都会の中にぽっかりと残った里山のような自然を守る活動を続けている、こちらの皆さんです。

そのままの自然が残る森、三井の森公園

公園ボランティア実態調査アンケートでこんなコメントをいただいていました。

三井の森公園を教材とした「自然観察会」、落ち葉を利用した「腐葉土つくり」 をしています。また、都会にはめずらしい植物(キンラン 等)の保護も行っています。

近隣の学校と一緒に行う自然観察学習、樹林地の維持保全、めずらしい植物の保護、そして落ち葉の活用にも力を入れているようです。梅雨の晴れ間の6月の活動日にお話をお伺いしました。

(大きな木が生い茂る静かな三井の森公園)

東京都杉並区にある三井の森公園(みついのもりこうえん)。京王井の頭線の浜田山駅から歩いて10分弱の閑静な住宅地にある公園です。まるで森の中に入ったように大きな木が生い茂る広い園内は、自由に探索できるエリアと、保全エリアに分かれています。数多くの緑と、たくさんの大きな木に静かに見守られているような雰囲気です。

この地にはかつて「三井グラウンド」と呼ばれる大きな運動施設がありました。陸上トラックや緑地広場、野球場、テニスコートなどを備えた三井グラウンドは、1933年頃から三井グループの福利厚生施設として長年使われたのち、2005年に閉鎖。その後グラウンドは大規模マンションとして開発され、隣接するこの自然林は2010年から「三井の森公園」として杉並区が管理しています。

「地域に親しまれながら、ほとんど人の手が入らず残っためずらしい森です。(中略)園内では、今では都市部ではあまり見られなくなった野生のランや草木類、トンボ類、甲虫類を見ることができます。」と杉並区のホームページでも紹介される三井の森公園は、散歩に訪れるご近所の方や、落ち葉遊びを楽しむ幼児や親子連れに人気のようです。

こちらの公園でボランティア活動をしているのは、「すぎなみ公園育て組」として活動する「三井の森公園クラブ」の皆さんです。また、月2回の活動のうち1回は、公園ボランテイアの入門活動として、先日杉並区の取り組みとしてお聞きした「みどりのボランティア杉並(通称:みボ杉)」の皆さんも参加する定例活動日になっているそうです。

三井の森公園クラブ代表の中村雅美さんをはじめ皆さんにお話をお聞きしました。

(三井の森公園クラブの皆さんとみボ杉の皆さん、杉並区の職員さんも一緒に作業!)
(メンバーを気づかい優しい笑顔がステキな中村さん)

落ち葉を堆肥化して循環管理

三井の森公園では、広い園内で落ち葉も毎年大量に出ることから、落ち葉を利用した腐葉土づくりをしながら、森を中心とした地域での循環管理をしているそうです。

三井の森公園の大きな木は、クヌギやコナラなどのどんぐりの広葉樹が多く、落ち葉堆肥に向いているそう。ブロックでできた落ち葉溜めで落ち葉を発酵させて腐葉土にするのですが、毎年大量の落ち葉が出るので、1年サイクルで回すため、米ヌカを入れて発酵を促進しているとのこと。毎年11月頃が入れ替えの時期。出来上がった堆肥を袋詰めして、落ち葉溜めを空にしたら、新しい落ち葉の投入開始。5-6月頃に切り返し作業をして、11月頃また完成というサイクルだそうです。

落ち葉は、子どもたちにも大人気で、落ち葉プールをつくったりして遊びの材料としても有効活用されています。1年中落ち葉のあるこの森は、子どもたちはもちろん保育園や幼稚園の先生たちにも好評のようです。

この日の活動のひとつは、落ち葉堆肥の切り返しです。あらかじめ出しておいた落ち葉堆肥に、米ヌカを混ぜて、落ち葉溜めに戻し入れて、上から踏み踏みします。米ヌカをばら撒く役割、プラスチックの”み”(=プラみ)を使って落ち葉溜めに戻す役割、ふかふかの落ち葉を長靴で踏み踏みする役割と作業を分担しながら、落ち葉堆肥の切り返し作業は手際よく進んでいきました。

大量にあった落ち葉の山はあっという間に落ち葉溜めに戻されていき、落ち葉溜めはまた満タンになりました。ここで作られた腐葉土は、公園内で使われるほか、杉並区内の学校の花壇や清掃工場の花壇で活用されているそうです。木の落ち葉がその地域の土を豊かにするために活用されるという良い循環ができています。

(シートを開けると切り返し作業用に出しておいた落ち葉が登場!)
(落ち葉堆肥は発酵していてホカホカ!米ヌカをまぶし、プラみを使って運びます)
(落ち葉溜めに戻したら、ふかふかの落ち葉を踏み踏み、長靴チームが大活躍です)

地域の学校とともに

自然に近い三井の森公園は、近隣の学校の自然学習の場にもなっているようです。春と秋には高井戸東小学校の3年生が総合的な学習の時間として自然観察会を行っているほか、公園の隣の高井戸中学校の2年生や近くの杉並総合高等学校でも三井の森公園を題材に自然や持続可能な循環を学ぶ授業が毎年行われているとのこと。

高井戸中学校は「アンネのバラ」を40年以上育て続けていることでも有名な学校で、アンネのバラ委員会の生徒さんたちも、ここ三井の森公園で堆肥づくりに参加し、できた堆肥をバラのお世話に使っているそうです。生徒さんたちは、堆肥の切り返しや袋詰め作業の時にはとても頼りになることを中村さんが教えてくださいました。

(高井戸中学校の門で美しく咲く「アンネのバラ」:春と秋には一般公開もされている)

都会にはめずらしい植物を保護

三井の森公園には、都会にはめずらしいキンランなどの植物が生えているそうです。キンランは黄色い花を咲かせる地生ランの一種で、絶滅危惧II類(VU)に登録されている希少な植物です。菌類と共生する特殊な植物のため、単純に移植しても定着せず、樹木環境や土壌環境など一定の条件が整った雑木林でしか見られないそうです。

三井の森公園クラブの皆さんは、そのような植物を保護しています。保護対象の植物を見つけると、その生育環境を守るため、周囲の下草を刈る「坪刈り」を行い、大事に見守っていることを教えてくださったのは、この日もキンランの周りの坪刈りをしていらっしゃったメンバーの柳田さんと田中さんです。

園内には大きなクヌギやコナラの木がありますが、世代交代も考えながら、実生の小さな苗木を保護しながら育てていらっしゃいました。90年近く続く三井の森を未来に繋げる活動です。


保全エリアに入るのは、基本的には管理をする三井の森公園クラブのメンバーや杉並区の職員などに限られますが、間違えて刈ってしまわないように印もつけているそうです。

また、最近では公園の入口近くの大きな木の根本に、これもまたとてもめずらしい小さな銀色の竜のような「ギンリョウソウ」が出たとのことで、とても神秘的な様子だったことも話してくださいました。

(今年も5月頃に花を咲かせたキンラン、坪刈りをして保護しています)

自然に近い森を丁寧に整備

公園内には、様々な植物が育っています。ロープ柵内は、出来るだけ自然を残しながら、公園の周辺部には、公園に来た人達の目を楽しませるようにアジサイやユリなどを植えています。そのほか、キンラン、ギンラン、オオハナワラビなどを守るために、まわりのアズマネザサを刈る林床整備も行っています。

「ここは自然の森に近いところが良いでしょう。整備していないように、整備しているんです。」とのこと。一見自然のままで、人の手が入っていないように見える森も、実はしっかりと人の手で守られているからこそ、今の状態があるということでした。

公園として地域の人々が手入れするようになったことで、薄暗くて怖い場所から、明るく気持ち良い森に変わったことを教えてくださいました。

(下草刈りのポイントや笹と竹の違いについてのお話も)
(アズマネザサは根元に近いところから鎌で刈っていきます)

区役所職員や区民ボランティアとも一緒に活動

この日のもうひとつの作業は、保全エリア内のロープ柵の木杭の入れ替えです。大規模な作業になるため、杉並区役所みどり公園課職員の西谷さんと三枝さんも参加。木材の杭はどうしても経年劣化で朽ちてしまうので、今回は朽ちない素材の杭を用意し、入れ替えとロープの張り替え作業を行いました。

まずは、古い木杭を抜く作業から。ぐらぐら揺らして抜いていくと、土に埋まっていた部分はかなり朽ちていました。抜いた杭からロープを固定していた金具を外し、ロープを巻き取っていきます。

続いて、抜いたそばから新しい杭の登場です。元の穴を基準にしながらも、前後を見ながら位置を調整。穴掘り機で深めに穴をあけたところに、新しい杭を木槌を使って打ちつけていきます。こちらは力自慢の皆さんが大活躍。60本の杭が、あっという間に次々と新しいものに入れ替わっていきました。

最後の仕上げはロープ張りです。新しい杭にはロープを通す穴があいていて、はじめに端から端まで杭の穴にロープを通したあと、ひとつひとつを固定していきました。

このような本格的な作業も、三井の森公園クラブの皆さん、みボ杉の皆さん、区の職員さん、皆さんで力を合わせて着々と行われていきました。真剣な眼差しの中にも、和やかな雰囲気で、作業はどんどん進みます。

(古い杭のロープを固定している金具を外す作業は、チカラとコツが必要)
(位置を決めたら、最初にザクっと深く穴をあけ、そこに新しい杭をさします)
(高さを揃えてしっかり打ちつけ:「あと5回!」と声をかけあい息がピッタリ)
(役目を終えた木杭たち、おつかれさまでした)

作業も本格的!森が好きな皆さん

作業のあとは、テーブルとベンチのエリアに移動して恒例のお茶会の時間です。テーブルを囲んでコーヒーとお菓子でリラックス。お手製のテーブルクロスもおしゃれです。

退職後の活動としてご夫婦で三井の森を守る活動に携わっている田中さんご夫妻、三井の森のほか神田川のゴミ拾いや俳句連盟・囲碁クラブなど幅広い活動をされている元国家公務員の松浦さん、お仕事を続けながら地域活動の時間を増やしているという方、みボ杉に参加して地域のいろいろな場所で緑の活動をされているという方、杉並区の交流自治体の青梅市にある勝沼城跡の森林保全ボランティアに参加される方、いろいろな方がいらっしゃいましたが、皆さんとても熱心で、緑や森が好きという情熱が溢れているようでした。

近くの公園や緑地で複数の緑の保全活動に関わる人も多いようで、「あの公園なら◯◯さんでしょ、よく知ってるよ」など、会話からも温かい地域のつながりが感じられる時間でした。

都市の中で今も生き続ける貴重な自然の森は、優しく包まれているように穏やかでとても気持ち良い場所でした。それはこの森を大切に思い行動する皆さんの地道な努力で守られていることを強く感じました。

【基本情報】

団体名三井の森公園クラブ
公園名三井の森公園 (東京都杉並区)
面積17,350 m2
基本的な活動日毎月2回 第1木曜・第3火曜 13:00-15:00(雨天時などは変更あり)
いつもの活動参加人数10-20名くらい
会の会員数20名
活動内容ゴミ拾い、除草、落ち葉かき、低木の管理、花壇の管理、雑草や落ち葉の堆肥化、施設の破損連絡、利用者へのマナー喚起、公園再整備に関する活動、地域の学校などと連携した環境学習活動
設立時期2015年
参加者イメージアクティブシニア、子育て世代、緑の好きな近隣住民
活動に参加したい場合は活動日に公園に来てください。活動日の天候の確認などは中村さん携帯(090-2470-3981)まで。
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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