2023/6/23

公園設計者、愛護会と巡る25年後の答え合わせ

甘沼パノラマ公園(茅ヶ崎市)

各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。様々な活動をする皆さんにお話を伺って、その知恵やアイデア・情熱をシェアしています。今回は、以前インタビューさせてもらった愛護会のその後のエピソードをご紹介します。

前回の記事はこちら▼

茅ヶ崎市にある甘沼パノラマ公園。JR茅ヶ崎駅からバスで10分、小高い丘のてっぺんにあるパノラマ公園は、その名の通り見晴らしが抜群。茅ヶ崎市の中でも最も標高の高い地域にあるそうで、市内の街並みの向こうに相模湾や江ノ島が、晴れた日には伊豆大島まで見渡せるため、隣のマンションの住民に限らず地域の子どもから大人まで老若男女いろいろな人が散歩で訪れる公園です。

今回ご縁がつながり、約25年前にこの甘沼パノラマ公園を設計したランドスケープデザイナーと、日々公園を守っている公園愛護会の皆さんが対面される場にご一緒することができました。私も1年ぶりの甘沼パノラマ公園です。

(早朝の雨も上がり、緑の美しさが映える5月の終わりの甘沼パノラマ公園)

図面で描いた公園の未来を、設計者と歩く

甘沼パノラマ公園が開設されたのは1999年。隣のマンションの開発公園として、今からおよそ25年前に設計されました。設計を担当したのは、現在関東学院大学の准教授でランドスケープデザイナーの中津秀之さんです。これまでに多くの大規模マンションのランドスケープ設計を担当されてきたそうで、当時甘沼パノラマ公園には会社員として関わられたとのこと。

子どもたちが自由な発想で遊べるよう、遊び方の限定されるような遊具はできるだけ採用せず、斜面や樹木、壁や飛び石などを多く取り入れた設計にされたそうです。場所の特性を生かして、もともとの植生をなるべく残しながら、展望台や斜面のすべり台をつくったとのこと。

公園ができあがって、24年…。あの時図面で描いた公園は、その後の年月を経てどのようになっているのか?公園のはじめをつくった設計者中津さんと、公園のその後を守り育てている公園愛護会の服部惠美子さん、村松章生さんが一緒に公園を歩きました。

「桜の木がとても大きくなっていますね!」

「この桜は、毎年よく咲いて住民を楽しませてくれていますよ」

敷地の輪郭に沿って植えられた桜の木々は、とても元気によく伸びていました。毎年春にはマンションの住民はもちろん地域の人々のお花見スポットになっているそうです。展望台や、丘の下の方まで、歩いて楽しめるようになっています。

(桜の木を眺めるお三方、マンションのベランダから桜を楽しんでいる人も多いそう)

すると、中津さんが盛り上がった桜の木の根っこを発見しました。

ご自身が設計して配置したソメイヨシノの木の根っこが、こちらもご自身で配置したコンクリート平板を持ち上げているという予想もしなかった事態が発覚!驚きとともに、24年という年月の流れを一緒に感じる瞬間でした。

(自然と年月の力は、人間の想像をはるかに超えてすごいですね)

桜を見上げるための長いウッドデッキのようなベンチ

お次は、公園の中心で一番の存在感を放っている長いデッキベンチです。

通常、ベンチは座面の奥行きが45cm弱のものが多いですが、このベンチは座面の奥行きが70cmにしてあるそうで、奥行きも幅もゆったりしています。その理由について、中津さんはこう話します。

「これだけ奥行きがあると、うしろに手をついて上をみることができるでしょう。こうやって座って桜を見上げて楽しめるようになっているんですよ。」

実際にやってみるといい感じです。

(手をうしろについて座ってみると、桜を見上げるのにピッタリ!)

一般的な奥行きの座面のベンチだと、どうしてもうつむいたり、下を向いて座ってしまう人が多いそうですが、上を見上げて座ってほしかったこと。背もたれをつけることで座る方向を限定してしまわずに、どちらからでも、そしてどこにでも座ることができるようにしたこと。あかちゃんのおむつ替えにも十分なサイズだったり、いろいろな使い方ができるよう設計したことを教えてくださいました。

座面の高さも、幼児でも座りやすいように、少し低めにしているとのこと。例えば2歳くらいの孫とおじいちゃんやおばあちゃんが一緒に座って過ごすのにちょうど良い高さになっているそうです。いろいろな景色を思い描きながら設計されたベンチ、そのこだわりを聞けば聞くほど、公園を見る解像度が高まっていくようです。

そしてこのデッキベンチ、村松さんのお話では、なんと公園ができた当初から壊れることも、朽ちてしまうこともなく、24年間使われ続けているとのこと。子どもたちが電車の線路に見立てて上を走ったり、お祭りの時にはたくさんの人がここに座り、語らったりしてきたベンチ。前回見学させていただいた愛護会活動でも、使う道具をベンチの上に並べていました。このデッキベンチは、ずっとパノラマ公園の主役のようです。

かつてお祭りのために、公園の中の寸法を測って図にしたという村松さんの公園マップにも、ベンチの寸法がしっかり書かれています。

(フェンスにつけた公園マップを紹介する村松さん)
(村松さん手づくりの公園マップ)

設計意図を知ることで公園はもっと楽しめる

設計のこだわりは、ほかにも随所にありました。お次は、公園とマンションの敷地をゆるやかに区切っている低めの塀について。一般的にコンクリートの厚みは12cmで作られることが多いこの手の塀ですが、ここでは子どもたちがまたいで座ったり遊んだりできるように、25cmの厚さにしているそうです。

よじ登って、またいで、乗り越えたり、座ったり、飛び降りたり、上を歩いたり、いろいろな遊び方ができる遊具としての機能を持たせているとのこと。子どもが上を走ったりして遊ぶ時も、落ちる可能性を自分で考えながら動くので、子どもたちがリスク感覚を自ら育むことにもつながるそうです。

(公園の入口から奥まで続く塀、ミントグリーンの色も24年前と同じなんだそう!)

塀の裏側も草地になっているので、乗り越えたり、隠れたりして遊ぶこともできます。昔は塀に沿って低木が植えられていたそうですが、今は公園愛護会の花壇になっています。

この細長い花壇は、日当たりが良い部分、陰になりやすい部分、それぞれにあった植物が育てられています。土が流れ出ていかないよう、茶色の波板で土留めをしているのは、愛護会会長服部さんのアイデアです。

「空間を生かしながら、使っている人のアイデアで公園が良くなっているのはうれしいですね。」と中津さん。

「壁の厚さやベンチのことも、子どもたちが遊ぶために、このようにしてくれていたんだということが知れて嬉しかったですね。公園のことがいろいろよくわかりました。」と村松さん。

(花壇の土留めの波板、いい仕事してます!桜の木の落ち葉のおかげで越冬したというベゴニアも元気)

コツコツ続けながら進化し続ける公園愛護会活動

甘沼パノラマ公園愛護会には最近新メンバーが増えたそうです。この日は予定がありお会いできませんでしたが、土を入れたり、いろいろな力仕事もしてくれる男性で、頼りになる存在とのこと。

今年の花壇は、5月中旬に植え替え完了。いろいろな色のバーベナや、メカルドニア、カリブラコアなどの多年草を入れたことがポイントだそうです。そのほかにも、お馴染みのペチュニアやマリーゴールド、メンバーが持ってきたキキョウやナデシコ、サツキ、ホオズキ、球根から育てたアネモネ、スイセン、そしてアサガオやヒマワリ、こぼれ種から芽を出した小さな緑がたくさんあり、多様な顔ぶれです。

「いつも花の名前を聞かれるから、こうやって書いておくの」と服部さん。花のそばには手書きのネームプレートをつけて、公園を訪れる人にも花の名前がわかるようにしているところからも優しさが伝わります。

(こちらはメカルドニア、花を植えたら一緒にネームプレートもつけておくそう)

草地の雑草は、根っこから抜いてしまうよりも、10cmほど残して刈ると、そのうちに長い草も出てこなくなって管理しやすいことを、この日中津さんから聞いて、早速今度その方法を試してみようと作戦を立てる村松さん。

そのほかにも、竹の管理について聞いたり、地面の砂のことや傾斜のこと、公園がより良くなるにはどうしたらいいか?などの意見交換がされていました。

設計者の視点で考える公園愛護会活動の意義

ランドスケープデザイナーでもあり、ご自身でも公園愛護会活動をされている中津さんは、公園愛護会活動の意義や可能性について、このように話してくださいました。

「公園愛護会は、一般的に公園内の清掃や花の手入れなどの活動をしていますが、自宅周辺の都市環境を良好に保ちつつ、将来のあり方に思いを馳せる住民の集団である可能性が高いです。愛護会がより自立し自由に活動できる団体になることで、公園の魅力が深まり、日常的な住民の屋外リビングルームとして公園が賑わうようになった例もあります。地域に愛される公園を育てるためには、行政のより一層の支援や、ルールの緩和、自治体と住民の連携も重要です。公園愛護会は、住民主体で、多世代交流を活性化し、次世代の地域愛着を強化する地域拠点となる公園づくりのカギを握る存在として大きな可能性を感じています。」

地域の人々に愛され育ててもらって、公園設計者冥利に尽きる

「25年前に産み落としたまま行方知れずだった自分の息子に再会した気分です。それも地域の方々に愛され育ててもらって。こんなにきれいに使ってもらっているなんて感動で、公園設計者冥利に尽きますね。」とこの日の出会いを振り返って話してくださった中津さん。

自分の仕事が20年以上経ってこうなるのかと実際に見ることができたのは、とても貴重な経験になったとのこと。

村松さんも「この公園が少しワイルドであるところが私はとても気に入っているのです。遊びに来る子どもたちもそのようです。ただし、自分が子どもだったときのことを忘れている大人がいることには注意しなければいけません。一日でも長くこの公園を守っていきたいと思っています。」とおっしゃっていました。

今年は久しぶりにお祭りが行われるかもという話も出て、その様子もまた見にきたいですねなど、お話は尽きませんでした。

今回、公園をつくった人と、守り育てている人との出会いの場にご一緒できて、私自身もとても学びが多く、知的好奇心が刺激されるとても充実した時間でした。設計意図を知ることで、公園を見る目が変わって、面白くなったり、お手入れがしやすくなったりするのはとても有意義なことだと感じます。また、公園を長い間守り続ける愛護会のような地域の人の存在が、これからの公園づくりに生かされていくことへの可能性も感じた時間でした。

(20年以上ずっと公園を見守っている入口のネームプレート)
(桜の木に沿って配置された照明で、夜桜がライトアップされてきれいなんだそう)
(通路のコンクリートにはいろいろな葉っぱの模様が!何種類見つかるかな?)

【基本情報】

団体名甘沼パノラマ公園愛護会
公園名甘沼パノラマ公園 (茅ヶ崎市)
面積1,672 m2
基本的な活動日毎週火曜、花植えは春と秋の年2回
いつもの活動参加人数5人
会の会員数5人
活動内容ゴミ拾い、除草、落ち葉かき、低木の管理、花壇の管理、植物の水やり、施設の破損連絡
設立時期2017年
参加者イメージマンションの有志メンバー、お花好き
活動に参加したい場合はマンション内の掲示板でもお知らせしています。よろしかったら公園に遊びに来てください。
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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