2026/10/16

万博跡地をみんなで開拓、里山づくり実験フィールド

愛・地球博記念公園(愛知県)

各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、愛知万博の跡地をみんなでつくる里山にし、日本の原風景を体現し、先人の知恵を継承する、こちらのみなさんです。

モリコロパークの県民公園づくり空間「あいちサトラボ」

愛知県長久手市にある愛・地球博記念公園(あいちきゅうはくきねんこうえん)。2005年自然の叡知をテーマに行われた「愛・地球博」の会場跡地で、モリコロパークという愛称でも親しまれています。2022年11月からは、公園内にジブリパークもオープンし、子どもから大人までさまざまな世代・国籍の人たちが訪れ楽しんでいる県立の広域公園です。

この広い公園内にある「あいちサトラボ」というエリアが今回の舞台。ここは、2007年から行われた県民協働のワークショップで発案された、県民協働による里山づくりの実験フィールドです。農の営み、先人の知恵、自然の循環をキーワードにした里山づくり活動の場であり、交流の場にもなっています。

(あいちサトラボの入口)
(ゼロから開拓して作り上げた里山づくりの実験フィールド、あいちサトラボ。里池から田んぼ、その奥に畑、右手の斜面に果樹園が広がる)
(あいちサトラボのエリアマップ:あいちサトラボパンフレットより)

まるで火星の開拓!?石ころだらけの荒野から始まった15年

ここで活動をされているのは、あいちサトラボ里山開拓団のみなさんです。8月の活動日にお伺いし、メンバーのみなさんにお話をお聞きしました。

(あいちサトラボのリーダーのみなさん:畑の前で)

あいちサトラボ里山開拓団がここでの活動をスタートしたのは2011年。県民公園づくり空間として、4年に渡る議論を経て里山づくり実験の構想が固まり、造成工事が行われる最中、石ころやパビリオンの残骸を掘り起こし、土を耕して、堆肥を入れて土づくりをするところから始まったといいます。何もない荒野から里山をつくっていく道のりは、まさに開拓団。「まるで火星を開拓しているようだ!」という団員さんもいたと当時を振り返ります。

田んぼ、畑、果樹、花壇、森のグループに分かれ、それぞれの活動が行われています。2013年には拠点となるラボハウスも完成。活動開始から15年を迎えた現在、立ち上げからのメンバーも数多く残っていますが、新しく若いメンバーも仲間入りしています。

共同作業日は毎週土曜日。この日も、朝礼で各グループの作業内容の共有やイベントの連絡などが行われ、それぞれの作業が始まりました。

(あいちサトラボの活動拠点となっているラボハウス、だれでも入ってひと休みできる)

伝統の米づくりを実践、田んぼグループ

サトラボには4枚の田んぼがあり、そのうちの2枚でもち米を、残りの2枚でうるち米を育てています。青々とした田んぼが広がる風景は、里山の原点。田んぼにはイナゴをはじめ、さまざまな生き物の姿も見られます。

田植えと稲刈りは一大イベントです。会員のみなさんのほか、一般の参加者を募って大勢で行います。田植えは、今年も5月の終わりに2週にかけて行われました(田植えの様子はサトラボのブログにレポートされています)。9月に予定されている稲刈りに向けた準備も進められていることを、田んぼグループの会員さんが教えてくださいました。

(ジブリパークもののけの里に隣接して広がっている、あいちサトラボの田んぼ!)

野菜づくりをする畑グループ

常時30種類以上の野菜が育てられているサトラボの畑。畝ごとに作付計画があり、担当者が決まっています。この日は、トマトやパプリカ、ナス、オクラなどの夏野菜の収穫が行われ、ゴボウ、カボチャなどが元気に育っていたほか、ワタの花も見せてくださいました。

サトラボの農のエリアは、完全無農薬。マリーゴールドなど、野菜の近くに植えることで病害虫を防いだり、互いに助け合って生育する相性のよい「コンパニオンプランツ」を活用するなど、先人の知恵を実体験しながら、さまざまな工夫をしています。

(サトラボの畑)
(畝ごとにつけられた担当作物プレートもかわいい)
(パプリカを収穫中。コンパニオンプランツのマリーゴールドも元気です)
(こちらはオクラを収穫中!)

果樹園のお手入れをする果樹グループ

南向きの斜面には、果樹園が広がっています。梅、桃、柿、栗、イチジク、キウイ、グミ、ブルーベリー、ヤマモモなど、多種多様な果樹がありますが、これもすべて会員さんが植えたもの。「1本ずつみんなで植えましたよ。およそ30種類、100本、2日間でね」というダイナミックな開拓エピソードを話してくださいました。

中でもお気に入りは、ブドウだそう。剪定や消毒などとても手間がかかるため、毎年果樹グループの労力の半分はブドウとのこと。その分愛おしさが増すのですね。

一つ一つの房に袋をかけ、大事に成長を見守ってきましたが、なんと、まもなく収穫というタイミングになって野生動物の食害に遭ってしまうという残念なハプニングも。ナイアガラは100房全滅してしまったそうですが、残るマスカットベリーA 100房を守るため、囲いの隙間対策や補強に一層の工夫が凝らされました。

(紙とネットで丁寧に袋がけされたブドウ、無事に収穫できますように!)
(ブドウの棚に野生動物が入ってこないよう隙間対策に力が入ります)
(こちらはキウイ!)

ラボを華やかに彩る花壇グループ

サトラボの入口には美しい花壇があり、訪れる人々のフォトスポットにもなっています。多年草や宿根草を活用しながら、いつもいろいろな花が咲くガーデンのような景色がつくられています。

毎日の水やりや草取り・株分け・切り戻しなどのお世話はもちろん、人が褒めてくれた花からタネを採って、その色を翌年また増やすといった細やかな工夫や、「カマキリの卵を取っておいてプランターに入れておくと、アブラムシを退治してくれるのよ」という裏技も教えてくださいました。

育てたハーブをハーブティーにしたり、花をドライにしてアレンジメントやリースづくりの材料にするといった「使う楽しみ」も。

(色とりどりの花が美しい入口の花壇)
(水やりや、花がらつみなど、毎日のこまめなお手入れがこの景色をつくっています)

炭焼きに椎茸栽培も!森グループ

森のエリアのお手入れや原木椎茸栽培、炭焼き、竹林の維持管理、竹細工などを担っているのが、森グループです。この日は活動がありませんでしたが、冬に、もののけの里エリアにある炭焼き窯で行われる炭焼きの様子は、ジブリパークの来園者にも好評だそうです。

(森のエリアにある椎茸畑。園内のコナラを切り出して、穴をあけて、菌打ちをして、1年半ほどで椎茸が出てくる)

親子参加プログラムや収穫祭、里山体験の入口も充実

あいちサトラボは、里山開拓団の自主的な活動と、県や公園管理事務所との協働で運営されていますが、より多くの人たちがさまざまな形で里山づくりを体験する入口も用意されています。体験プログラムは、イベントグループが企画・運営しています。

1年を通して親子で里山づくり体験ができるプログラムが「里山たいけん隊」。小学生以上の親子が対象で、5月の田植えから、稲刈り、脱穀、椎茸の菌打ち、花炭づくりなど、全10回のさまざまな里山体験ができる人気のプログラムです。たいけん隊からそのまま里山開拓団の会員になったご家族も。

さらに手軽に参加できる一般イベントも充実しています。5月の田植え・9月の稲刈りは毎年約50名の公募が行われ、11月の「収穫祭」は年間で最も多くの人が訪れる大イベント。恒例の餅つきや芋煮、サツマイモやキウイの収穫体験、クラフト体験ブースなど、収穫祭の1日には1600名近い人が集い、共に農作物の収穫を祝い、自然の恵みに感謝するそうです。

また、お伺いした8月には、ラボハウス内にて15周年記念の写真展が開催されていて、石ころだらけの「火星時代」の貴重な記録写真や、里山開拓団の日々の活動の様子をだれでも自由に鑑賞することができました。

(里山開拓団15周年企画の写真展。まだ土の枠しかない「火星を開拓」時代の様子も垣間見れます)

高校生も大活躍、家族や親子三世代で参加するメンバーも

里山開拓団には、さまざまな年代の会員さんたちがいます。ご夫婦や親子で一緒に、また娘さんとお孫さんの親子三代で活動に参加されている方もいらっしゃいます。

生き物好きの高校生も大活躍。小学生の時に家族で「たいけん隊」に参加したことをきっかけに、里山開拓団に入会し、今では「たいけん隊」の生き物イベントを担当するなど、生き物博士として頼りになる存在になっているそう。写真展には、彼がサトラボで見つけた生き物たちの写真コーナーも。

この日も、チョウセンカマキリを見ながらカマキリの種類について詳しく教えてくれたり、田んぼに現れると豊作になるという言い伝えのある「ホウネンエビ」など、サトラボでこれまで見られたさまざまな生き物についてのお話を聞かせてくださいました。

(生き物がたくさんいるサトラボは楽しいです!と話す生き物博士)

若い人たちも楽しめる、チャレンジできる環境づくり

その名前の通り、実験や研究の場となっているサトラボ。自分たちで計画して実行する栽培や育成のチャレンジもそうですが、収穫した野菜を使った料理教室や、クラフト、お楽しみイベントなども、会員のみなさんのアイデアが光ります。

この日も、収穫した赤紫蘇を使った手作りのシソジュースや、摘果した柿を使ったゼリー、シークワーサー水などが、実験として会員のみなさんに振る舞われていました。

「ラボですから」「初めてですが、ちょっと挑戦してみました」と明るく話すみなさん。Instagramでもサトラボでの活動の様子を発信中。

畑がやってみたくて今年から会員になったという方も「詳しい方に教えてもらえるし、楽しいです!」と話してくださいました。お料理上手の方も多いそうで、それぞれの得意を生かして実験をしながら、会員同士の学びの場にもなっているようです。

「ここは失敗してもいい、チャレンジできる場所。失敗ありきで、チャレンジを推奨しています」と話してくださった会長さん。若い人たちにどうやって参加してもらうか?をいつも考え、楽しくやれば若い人たちもこれを見て入ってくるだろうと、「とにかく楽しくやること」を大切にされていると教えてくださいました。

(赤紫蘇の葉をつみながら、シソジュースの作り方を伝授中。いい香りに包まれています)

里山の風景を守り、公園の魅力をともに高めるパートナー

里山開拓団のみなさんの15年の活動で、サトラボには美しい里山の風景が広がっています。サトラボの景観づくりや体験イベントに加えて、公園のイベントや都市緑化フェアなどでも体験プログラムを提供協力するなど、魅力的なコンテンツを作り公園の魅力を伝えるパートナーとして、公園管理事務所の職員さんたちからも厚い信頼が寄せられています。

2023年からは、サトラボの隣にジブリパークもののけの里エリアができ、美しい里山の景観を分かち合う形で心地よく共存しています。

何もない荒野から、15年かけて豊かな里山の景色をつくってきた「あいちサトラボ里山開拓団」のみなさん。「みんなで楽しく挑戦しよう」という前向きで温かな空気があるからこそ、世代を超えて人が集まり、こんなにも豊かな景色と人々の繋がりが育っているのだと感じました。

(作業のあとは、ラボハウスの縁側でお茶タイム。この時間も楽しみです)
(会員さんのベストに描かれているのは、里山開拓団のマスコットキャラクターの”サトコ”)

【基本情報】

団体名あいちサトラボ里山開拓団
公園名愛・地球博記念公園(愛知県)
面積約 4.2 ha (あいちサトラボ)
基本的な活動日毎週土曜日が共同活動日
会の会員数72 名
活動内容田んぼづくり、畑づくり、果樹のお手入れ、森のお手入れ、花壇の管理、竹林のお手入れ、堆肥づくり、落ち葉かき、炭焼き、体験プログラムの企画運営、地域のイベント、子ども向けイベント、公園と連携したイベントなど
設立時期2011年
主な参加者万博からボランティアをされていた人、里山づくりに興味がある人、畑や田んぼをやってみたい人、長久手市内に加え名古屋市など県内各所から参加
活動に興味のある方は共同作業日にラボハウスにお越しください!
・毎月のスケジュールは里山開拓団ブログをチェック!
・Instagramでも活動の様子が見られます
・愛・地球博記念公園のサイト内「イベント情報」にも、花がらつみボランティア募集や一般参加イベントの情報が見られます

入会の申し込みは、愛・地球博記念公園ホームページをご覧ください
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフトしたのち、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフトしたのち、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

取材・執筆
みんなの公園愛護会の書籍紹介 学芸出版社

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

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