2026/9/24

民設民営の公園が挑む、地域と育てる公園づくり

ちはや公園(福岡市)

地域の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回ご紹介するのは、再開発が進む地域で、まちの方々と共に作り上げていく公園を目指して活動されている皆さんです。

ちはや公園は、「公園」という愛称で親しまれていますが、Park-PFIのように行政の所有する土地で展開する事業とは異なり、土地の所有、整備、運営にいたるまで、すべて自前で行う「民設民営」の空間です。

8月に開催されたうちわ作りワークショップと、ちはや夏まつりの日に取材に伺いました。

ボウリング場の思い出と、企業が描いた「まちの原体験」

JR千早駅より徒歩7~8分ほどの場所に位置するちはや公園。ここには、かつて高橋株式会社が50年以上にわたり運営をしてきたボウリング場やアイススケート場、ゴルフ練習場といったスポーツ・レジャー施設がありました。この地域に昔から住んでいる方々にとっては「子どもの頃、よくあのボウリング場に連れて行ってもらった」という思い出の地でもあります。

そんな半世紀にわたり地域の人々の健康と憩いの場であった施設も、時代の変化とまちの発展に沿った建て替えを行う中で、敷地の中心を駐車場にするという選択肢もありましたが、「千早には緑が少ない」という地域の皆さんの声も反映し、同社が選んだのは、まちに開かれた心地よい場所として「公園」を整備することでした。 

公園がある千早地区では、まちの発展が進みファミリー層が増加する一方で、新旧住民の関係性の希薄化が地域課題となっていました。食やレジャーを手がけてきた高橋株式会社が、商業施設でありながら公共性を併せ持つ「公園」をつくった背景には、「子どもたちが安心して過ごせる場所、みんなの心に残る原体験をつくりたい。この場所を使って地域の人がやりたいことを叶えられるような場所にしていきたい」という会社としての強い想いがありました。

こうして2022年4月、複合商業施設ガーデンズ千早に併設したかたちで、「暮らしたのしむ、まちのオープンリビング」をコンセプトにした「ちはや公園」が誕生しました。 

(イベントがない時には、公園の中心にベンチやテーブルなどが置かれ、公園を自由に駆け回る子どもたちの姿がありました)
(公園内には「ちはや公園の楽しみ方」の看板が設置されています。公園のルールはHPにも掲載されています)
(ちはや公園を中心とした福岡市の東エリアマップもありました)

「まちの公園」としての公共性と、持続可能な資金循環の仕組み

「ルールに縛られた公園ではなく、地域の皆さんが自由に楽しめる公共性の高い場所にしたいと考えました 」そう語るのは、ちはや公園の公園長を務める甲斐弘二さんです。

(ちはや公園 公園長 甲斐弘二さん(画像提供:高橋株式会社))

開園と同時に発足したのが、まちのみなさんとともにまちをよくする、楽しくなる活動を推進し、ガーデンズ千早を中心とした千早エリアの発展に寄与していくことを目指した「ちはやをよくする会」です。

「公園の中に警備員を常駐させて監視するような管理ではなく、まちに開かれた自由な空間を目指しています」と甲斐さん。

そのためには、地域で公共的な活動をされている方々やインフラ・交通を担う方々と手を取り合い、知恵を絞ることが不可欠でした。

民間企業が運営しつつ、公的な公園と同じように開かれた場にするため、ちはやをよくする会には九州産業大学の教授、JR千早駅長、まちづくり専門家など、公共的な活動に携わる多様なメンバーが名を連ねています。

〈ちはやをよくする会〉 ※敬称略
◆委員会
【会長】山下永子(九州産業大学 教授)
【副会長】村上肇(ちはやふるかしい21 会長)
【監事】高宮由美子(なみきスクエア事業プロデューサー)

◆アドバイザー
【公民連携】濵野昌志(NEXCO西日本)
【地域連携】甲斐威宏(JR九州 千早駅長)、鍬原智武(香椎宮)
【まちづくり】おきなまさひと(visionAreal)
【公共】飯石藍(公共R不動産)

◆事務局
高橋株式会社

また、各地の例と同様にちはや公園でも大きな課題となったのが「活動資金の持続性」です。

そこで、ちはや公園では企業予算の持ち出しに頼る構造から脱却を目指し、「資金の循環モデル」を取り入れました。

公園内でマルシェやイベントを開催する際の「公園利用料(出店料)」や、NEXCO西日本と連携して誘致した自治体プロモーションのイベント収益などを積み立て、それを地域の夏祭りや季節イベントの開催費用として還元しているのです。

(ちはや公園が考える地域還元・循環のしくみ(画像提供:高橋株式会社))

過去には、大分県佐伯市がちはや公園で観光プロモーションイベントを実施した際、現地で使えるクーポン券を配布したところ、9割以上の利用率(約200名が実際に佐伯市へ足を運んだ計算)を記録。単なる公園のイベントスペースの貸し出しにとどまらず、高い熱量を持った地域の方が訪れる「関係人口の交流拠点」としても公園が機能することで、持続可能な収益と還元を生み出しています。

こうした先進的な公園運営のノウハウは、他の自治体からも注目を集めています。

清掃半分、コーヒー半分。「日常の関わりしろ」をつくる

公園では、月1回公園周辺で清掃活動を行う「ちはやクリーンアクション」や季節ごとに花壇の整備をする「ちはやフラワーアクション」など、地域住民が公園での活動に気軽に関われる「余白」を用意してきました。

「公園での様々な活動を通して、地域の方々の関係値はいいものになっていっていると感じている」と甲斐さん。

クリーンアクションは、東京・池袋などで展開される「CCC(Cleanup & Coffee Club)」を参考にスタートしたもの。まちを綺麗にしながら、ゆるやかに「ご近所さんづくり」も楽しめるよう、清掃後にコーヒーを飲みながら雑談を楽しむスタイルです。ベビーカーを押す子育て世代から高齢の方までが気兼ねなく交流し、ご近所さんづくりの貴重な場となっています。

クリーンアクションの日は町内会でも地域のごみ拾いを行っているそうで、まちの情報を得たり知らないことを知れる、公園での活動に参加している方と町内会の方とのコミュニケーションの機会にもなっているようです。

(毎月開催されている、ちはやクリーンアクションの様子(画像提供:高橋株式会社))
(ちはやクリーンアクションでのコーヒータイムの風景(画像提供:高橋株式会社))

また「東区は緑や都市インフラが綺麗に整ってきている一方で、街路樹や街の中に『お花』が少ないという印象があります。また、新しく建設されたマンションに引っ越してきた方は、これまで戸建てで楽しんでいたガーデニングや土いじりができなくなったとおっしゃる方もいます」と甲斐さん。

そこで公園では、福岡市役所が推進する「一人一花運動(本活動について取材した記事はこちら)」と連携し、市民参加型の花壇整備を実施。地域のお花屋さんを講師に招き、「マンションのベランダでも育てやすい植物の選び方」などを気軽に相談できる環境を整えました。

さらには、地元の飲食店や個人事業主が挑戦できる場として小規模なマルシェを企画するなど、 公園設立当初より、住民の暮らしに寄り添う「関わりしろ」を広げてきました。

(年に4回ほど開催されているフラワーアクションの様子(画像提供:高橋株式会社))

あえて「お膳立て」をしない。「主体性」を引き出すキャストの挑戦

開園から4年が経過し、クリーンアクションや各種イベントが定着する中で、甲斐さんたちは次のステップへと踏み出しました。それが、「ボランティアキャスト」の公募です。

「これまでは、ちはやをよくする会のメンバーでイベント等の企画や公園の運営について考えてきましたが、私たちは地域の方が主体となってつくり上げる公園にしていきたいと思い、『キャスト(共創パートナー)』として関わっていただける方を募集することにしたんです」と甲斐さん。

こうして集まったのは、ポスターを偶然見かけて応募した方、家族に「地域と繋がりを持った方がいい」と背中を押された方、大学生、幼稚園の先生など、多様な背景を持つ7名の地域住民でした。

6月に行われた最初の説明会。公園長の甲斐さんが心に決めていたのは、「あえてお膳立てをしすぎないこと」でした。

(ボランティア説明で共有された「ちはや公園ボランティアキャスト3つのマインド」(画像提供:高橋株式会社))
(ボランティアキャスト説明会の様子(画像提供:高橋株式会社))
(説明会後のワークショップ様子(画像提供:高橋株式会社))

説明会と合わせて行った「ちはや夏まつりでやってみたいこと」をテーマにしたワークショップでは、キャストから「お祭り当日だけでなく、事前の企画を通して地域の方々と一緒に夏まつりを楽しみに待てるような仕掛けがあると良いのでは」という意見が出たそうです。

この提案を受け、お祭り本番を前にした8月11日、「うちわ作りワークショップ」の開催が決まりました。当日は4時間の開催枠で、子どもたちを中心に約30名もの方々が参加しました。

(好きなシールを貼ったり、お絵描きしたり、思い思いのうちわ作りの時間を楽しんでいたようです(画像提供:高橋株式会社))

当日ワークショップの手伝いに来られていたキャストの方にお話を伺うと、こう語ってくれました。

「普段はガーデンズ千早のスーパーを利用するついでに通り過ぎる公園でした。でも、このワークショップで子どもたちが夢中で自身のうちわを制作している姿を見て、『自分もこのまちの活動に関わっているんだ』という実感がすごく湧いてきたんです」

こうした「まちの一員」「自分事」となる経験の積み重ねが、確実にまちの未来や居心地に繋がっているのだと思います。

手作りのうちわと、溢れる笑顔

いよいよ迎えた夏まつり当日。会場は、手づくりの温もりと笑顔に包まれていました。

受付を担当していたキャストの方にお話を伺うと、

「普段から地域の子どもたちと接する機会があるので、個人として地域の活動にずっと関わりたいと思っていました。今回キャストとして参加できて、ようやく地域と繋がることができて嬉しいです!」と、活き活きとした表情で語ってくれました。

(受付で来場者を出迎えるボランティアキャストの皆さん。来場者の皆さんへ積極的にコミュニケーションをとっている様子がうかがえました)

会場を見渡すと、8月11日のワークショップで自作した世界にひとつだけの「手作りうちわ」を大事そうに手に持って遊びに来ている親子の姿がありました。

「このうちわ作りワークショップの日に、初めてお祭りのことを知って、今日のお祭りも楽しみにしていました」

(お祭り来場者に見せていただいた、ワークショップで制作された手作りのうちわ)

事務局がお膳立てをするのではなく、キャスト自身が地域とコミュニケーションをとり、お祭りを動かしていく。甲斐さんが思い描いていた「地域が主体となる公園」の風景が、そこに広がっていました。

(夕暮れ時からはじまった盆踊り。東区音頭で地域の皆さんも一緒に踊っていました)
(お祭り当日、ボランティアキャストの説明会への参加をきっかけにガーデンズ千早館内で夏祭りイベントを開催した『VIVISTOP HAKATA』。団体として、公園のイベントと連動した企画は今回が初めての試みだったそうです)

まちに関わり続けるうえで大切にしていること

「私たちがやっていることが、本当に正解なのかは分かりません。定住率が上がったか、住民の幸福度(ウェルビーイング)がどう変化したか。そうした数値を測るのは容易ではありません。でも、この公園が『まちの愛着度』を高める拠点になりつつある手応えを感じます」と、甲斐さん。

ちはや公園でのノウハウや「民有地の公営化」の取り組みは今、福岡市内の他のエリアや、全国の自治体からも高い関心を集めています。

しかし、どれほど事業規模が広がろうとも、ちはや公園の根本にある大切にしていることが変わることはありません。

「焚き火ができるイベントの日もあれば、みんなで映画を見るナイトシアターの日もある。その時々の状況に合わせて公園のルールを変えながら、住民のみなさんが『やりたいこと』を叶えられる場所であり続けたいんです」と甲斐さんはいいます。

ちはや公園のウェブサイトの冒頭にはこう記載されています。

「ちはや公園はまちの皆さんと一緒に作り上げていく公園です。皆さんの意見やアクションで変化していく、そんな関わりの場所や活動を作りたい。」

(ちはや公園HP

まさにその言葉の通り、新たに地域のボランティアキャストも加わり、これからも地域の方々が「自分たちの手」で温かい思い出を紡いでいける、そんな場所に育っていくのだと思います。


【基本情報】

団体名ちはやをよくする会
活動場所ちはや公園 (福岡市東区)
面積4,145 m2
基本的な活動日・ちはやクリーンアクション(清掃活動/毎月第2土曜日開催)
・ちはやフラワーアクション(季節の花壇整備/年に4回ほど開催)
・マルシェやお祭りなどのイベント(イベントの日時は「ちはや公園」のInstagram、ガーデンズ千早のウェブサイトにも掲載)
いつもの活動参加人数イベントによりさまざま(クリーンアクションは20組ほど、フラワーアクションは10組ほど)
活動内容毎月の清掃活動や季節の花壇整備に加え、季節ごとのワークショップやイベント
設立時期2022年
主な参加者高橋株式会社のみなさん、地域にお住まいの皆さん
活動に参加したい場合は各イベントに参加ご希望の場合は、各イベントごとにウェブサイトよりお申し込みください。
※地域ボランティアキャストとして参加したい場合には、募集ページよりお申込みください。

取材・執筆
取材・執筆
栗原 香小梨

子どもの頃からTHEインドア派だったのですが、自身の子どもが生まれたことをきっかけに公園に遊びに行くようになりました。"子どもの遊び場"というだけではなく、よく会う知り合いができたり、そこから会話が生まれたり、公園を中心に広がるコミュニティに関心あり。現在は、子ども関連のNPOで活動をしながら、地域の仕事、文化を引き継ぐ方々をテーマにライター活動もしています。

子どもの頃からTHEインドア派だったのですが、自身の子どもが生まれたことをきっかけに公園に遊びに行くようになりました。"子どもの遊び場"というだけではなく、よく会う知り合いができたり、そこから会話が生まれたり、公園を中心に広がるコミュニティに関心あり。現在は、子ども関連のNPOで活動をしながら、地域の仕事、文化を引き継ぐ方々をテーマにライター活動もしています。

取材・執筆
みんなの公園愛護会の書籍紹介 学芸出版社

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

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