各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回ご紹介するのは、荒れて藪のようになっていた森を再生させ、家族で一緒に楽しめる保全活動を20年来続けている「野川はあも(南野川特別緑地保全地区管理運営協議会)」のみなさんです。代表の伊藤菊代さん(上の写真左端)をはじめ、皆さんにお話をお聞きしました。伊藤さんは有馬ふるさと公園の森カフェにも参加されています。
住宅街にひっそりと存在する雑木林
野川はあもの活動場所は、神奈川県川崎市にある「南野川ふれあいの森」(みなみのがわふれあいのもり)。最寄りのバス停を降りて、大通りから1つ角を曲がると急な坂道が現れます。住宅と畑の間を登っていくと、屋根の向こうに森が見えてきました。南野川ふれあいの森は、約9000平方メールの傾斜地にあります。頂上には、小さな広場と展望台があり、野川はあもでつくったてんとう虫の掲示板が出迎えてくれます。
広場に入ると、住宅街の空気から一変、森のひんやりとした空気に包まれます。まだ紅葉前の樹々の上には青空が広がり、温かい日差しが差し込んでいました。
ふれあいの森は、かつての地域の姿が残る場所
1998年に川崎市から特別緑地保全地区の指定を受けた南野川ふれあいの森に、“野川はあも”が誕生したのは、2004年。市が開催したイベント「野川・南野川ふれあいの森を体験しよう」がきっかけでした。ほぼ手つかずの荒れた状態の森やその周辺を参加者で歩き、これからこの地域をどのようにしていきたいか、考えたそうです。イベント後、参加者有志で自発的に始まったのが“野川はあも”の活動です。
代表の伊藤菊代さんは、生まれも育ちもこの近くの地域。造園業を営む家庭に生まれ、ご自身も樹木医の資格を持ち、植物に関わる仕事をされてきました。そんな伊藤さんの原点は、たくさん広がっていた森が、宅地開発によりどんどん茶色に変わっていく光景。まだ幼稚園に通っていた伊藤さんにとって衝撃的な体験でした。
勉強会をきっかけに、ふれあいの森を訪れた際に「懐かしい風景がよみがえった」と伊藤さん。記憶に残っている森に近い雰囲気を感じたそうです。以来20年、“野川はあも”の活動は続いてきました。
「野川はあも」というかわいい響きの名前は、「野川の・もりで・あそび・はぐくむ」と「森と人とのハーモニー(調和)、町と森とのハーモニー(調和)」を意味しているそう。取り組みへの思いやこれまでの活動はホームページでも詳しく紹介されています。
初めてでも安全・安心。自然と輪に入れる仕掛け。
“野川はあも”の活動は、月2回。活動内容はFacebookで事前に告知をしています。司会の方から「はじめるよー!」と声がかかると、バラバラに遊んでいた子どもたちが広場に集まります。みんなが集まると今日の流れの説明がありました。司会は役員で当番制で行っているそうです。続いて、「森のおやくそく」と書かれた布の前に移動し、大人も子どももみんなで読みあげます。
会のはじまりを一つずつ丁寧に、みんなと一緒にやる。当たり前のようですが、初めて参加した私でも、少しずつ輪に馴染んでいく感じがして、とても安心感が持てました。誰でもウェルカムな雰囲気が伝わってきます。
体操が終わると、早速作業。…ではなく、お楽しみの「はあもビンゴ」からスタート。団体のコンセプトは「森をあそび、はぐくむ」。あそびが最初なのです。
「はあもビンゴ」は、自然あそびの一種。ビンゴの表に書かれたものを森の中から探す遊びで、もう10年ぐらい続けているそうです。
紙が配られ、集合時間が告げられると、みんな自由に森の中へ。観察会のようにみんなで森を歩いて説明を受けるより、自分で探した方が記憶に残りやすいようです。伊藤さんは、「自分で森を歩きながら、季節を感じてほしい」と話されていました。
野川はあもには、植物や虫のポケット図鑑が用意されていて、それを持ちながらビンゴを楽しむ参加者の姿も。「これは何という花だろう?」と話していると、図鑑を持っているメンバーがさっと出してくれたり、植物に詳しいメンバーが教えてくれたりしていました。
途中、スズメバチが樹液を吸っているのを発見。数匹集まっています。今年は暖かいので、11月になってもまだスズメバチがいるようです。安全のために、そっとその場を離れました。
再び集合時間になると、伊藤さんによる答え合わせがスタート。今回はいつもより簡単だったようで、ほぼ全員がすべてのマスに〇をつけていました。「白い花」「赤い実」「むらさきの斑点のある花」など一つ一つ丁寧に解説。植物の名前だけでなく、それぞれの特徴や前月のビンゴとの関連なども話され、大人たちは熱心に聞いていました。
ドングリで森をより豊かに。毎年行う植え付け作業
さて、はあもビンゴの後は今日のメイン、どんぐりの植え付けです。ビンゴの答え合わせの間、遊びまわっていた子どもたちがいつの間にかまた戻ってきました。では、ここからは写真で作業を見ていきましょう。
ドングリの植え付けで印象的だったのが、サッとみんなが自分の持ち場に分かれて作業が始まったこと。特に役割分担は決めていないそうですが、さすがのチームワーク。子どもたちも率先して好きな作業に参加していました。
一方、ドングリの植え付けをやっている間に、男性チームは木の剪定。市と保全計画を立て、それに基づいて整備を行っているそうです。今回は見晴らし台の前を中心に作業されていました。
ドングリの植え付けの後は、お昼ごはん。各自持ってきたおにぎりやお弁当をほおばります。午後も活動は続きますが、午前の活動で帰る方も。自由に参加できるのがいいですね。
秋の自然遊びの主役と言えば…ドングリ!
午後からはドングリ遊びの道具作り。近年、新しい参加者が減っていることから、今年は市と共催で、自然遊びを行うイベントを年に4回開催するそうです。今回はその準備。竹とドングリで作った弓矢に、ドングリコロコロゲーム。どちらも楽しそうです!
ドングリコロコロゲームのレールには竹を使います。竹を適当な長さに切り、ナタで半分に割ります。さらにトンカチで節を取り除いたら、レールの完成。レールが完成したら、みんなで実験!好きな竹を持って並びます。
途中ドングリが飛び出してしまったり、節にひっかかったり、きれいに転がらないのがこのゲームの面白さ!単純なゲームながら、これは大人も子どもも楽しめること間違いなしです。
ドングリコロコロゲームで遊んだら、今日の活動はおしまい。最後にみんなで集まって、「森で見つけたこと」を発表します。こうして発表しておくのも、記憶に残る良い仕組みですね。
20年継続できたのは、子どもと一緒だったから
楽しく過ごしているうちにアッという間の1日でした。そして意外と作業量が少ない、というのが実感です。伊藤さんに聞いてみると、活動を始めた頃は子どもが小さいメンバーも多く、ストイックに作業だけに取り組むことが難しかったそう。そのため、自然と子どもも一緒に参加できる今の活動スタイルになったそうです。そのスタイルが大人にとっても無理をしないことに繋がり、20年続く活動になったのではないか、と話されていました。
9000㎡という広い森。最初は大変だったのでは?という質問には、「最初に竹から始めたのがよかった。」とのこと。竹は初心者でも切りやすい上、1本切ると思った以上に森に太陽の光が差し込むそうです。達成感を感じやすかった上に、軽いので子どもでも運んだり切ったりしやすいことも、活動が軌道に乗っていった要因の1つ、と話されていました。
身近な場所で自然に触れ合える豊かさ
参加者にも話を聞いてみました。小学生の親子は、半年ぐらい前から活動に参加しているとのこと。お子さんが虫好きだったことから参加するようになったそうです。親子で自然に触れ合える良い時間だと話されていました。
設立時からのメンバーからは「街よりも少し早くやってくる季節を感じるのが楽しみ。」との声。森にいると、かすかな季節の変化も感じることができるんですね。
また、森に来ると自然の力を感じるというお話も。弱った木は台風で倒れたり、自然淘汰されます。そしてそこにキノコが生えたり、日差しが入ることで新しい芽が出たり、いのちが循環する姿が見れるのも森の魅力。ほかの参加者からも、森で「生と死」を感じるようになったというお話も。そういえば、子どもたちがお腹の大きなカマキリや、小さなクワガタの死骸を見つけていました。
坂のすぐ下はバスも通る大通りで、周囲は静かな住宅街。でもそこから一歩入ったところに豊かな自然がある。週末に遠くの山まで出かけなくても、小さな子どもでも散歩できる森がすぐ近くにあること。その豊かさを知ってほしいと、最後に代表の伊藤さんは話されていました。
【基本情報】
団体名 | 野川はあも(南野川特別緑地保全地区管理運営協議会) |
活動場所 | 南野川ふれあいの森(川崎市宮前区) |
面積 | 9,627 m2 |
基本的な活動日 | 第1日曜10:00~15:00ごろ、第4土曜9:30~12:00 |
いつもの参加人数 | 15名前後(天候や時期による) |
会員数 | 約40名 |
活動内容 | ・南野川ふれあいの森の手入れ(ごみ拾い、下草刈り、落ち葉かき、倒木の処理、植樹、林の更新のための伐採、看板の作成・設置) ・ふれあいの森の生き物の観察、調査、記録 ・会報の発行 |
設立時期 | 2004年 |
主な参加者 | 地域の有志、近隣に住む家族 |
活動に参加したい場合は | 直接、南野川ふれあいの森へ。各回の内容はFacebookにてお知らせしています。服装や持ち物はHPに掲載しています。 |