あちこちの公園ボランティアを紹介するコーナー「となりの公園愛護会」。お話を伺って、その知恵やアイデア・情熱をシェアしています。第11回は、地域の親子や保育園と一緒に、自然遊びが体験できる森をつくっているという、こんな団体です。
公園で自然遊びや収穫体験?
アンケートで、こんなコメントを頂いていました。
NPOと行政の協働で、植栽地に地域住民が育てたどんぐりの苗木を植えました。春の芽吹き、秋の紅葉やどんぐり拾いなど四季を通じて自然とふれあえる公園となり、訪れる人に大変喜んでいただいています。又、花も咲き、実もなり、収穫もできるアグリガーデンを親子対象、保育園対象に企画しています。特に最近では園庭のない保育園が増え、体験の森で「自然遊び」を楽しんでいます。
都市再開発で整備された公園の維持管理を行うのは、地元のNPOが中心となって立ち上げた管理運営協議会(川崎市の公園ボランティア制度のひとつ)。地域の親子向けのイベントを企画したり、保育園との協働プロジェクトも行うなど、とても積極的な活動の数々が、ウェブサイトからも伝わってきます。少し大きめの公園でのアクティブな活動、これは公園ボランティアのひとつの発展形かも!?ということで、お話を伺ってきました。
川崎市幸区にある新川崎ふれあい公園。JR貨物や横須賀線の線路に沿って細長く広がる公園です。JR新鶴見操車場跡地の再開発の一環でできたこの公園は、フェンスを挟んだ線路のすぐ横。園内には、機関車をモチーフにした遊具もあり、JR貨物の新鶴見機関区も近く「桃太郎」や「金太郎」「ブルーサンダー」などの貨物をはじめ、様々な電車を間近で見られることから、鉄道ファンの間ではちょっと有名な公園です。
こちらの公園ボランティアをしているのは、NPO幸まちづくり研究会を主体とした公園管理運営協議会の皆さん。代表の千葉さんにお話を伺いました。
基本的な活動は、植栽を中心とした公園管理。公園の奥の方にある植栽管理エリアで、自然遊び体験ができるような森やアグリガーデン(体験農園)で野菜など育てています。毎月第2土曜と第4日曜が地域の親子と、そして毎週火曜日は保育園と一緒に活動されています。
みんなでつくろう体験の森づくり
もともとこの新川崎ふれあい公園ができる前に、JR新鶴見操車場跡地内の未利用地の暫定利用で、ドングリの苗木を育てたり、街中で農園遊び体験のできるアグリガーデン活動を行っていた千葉さんたち。都会の中での農体験や森づくり、そして地域の繋がりづくりを大切に活動されてきたそうです。
新川崎ふれあい公園ができた時、川崎市との協働で市民が育てたドングリの苗木100本を植樹したことをスタートに、メンバーの皆さんで、植栽地の土づくりや環境改善を10年かけてコツコツ行ってきたとのこと。
その結果、今では公園内に、苗木から育てたというどんぐりの木や、さまざまな種類の実のなる木、ハーブや野菜も。子どもたちが植物の育つ様子を見たり、匂いや手触りを知って、季節の移り変わりを感じる体験ができる場所になりました。
地域のもともとの植生環境を大事に、在来植物を中心に育てていること、葉・土・石・水・肥料・生き物も含めて循環を大切にしていること、ドングリの苗木をポットで毎年100本ずつ育てていること、育てた苗を山北町に植樹し水源の森を守る活動も行っていること、いろいろなお話を聞かせてくださいました。
保育園との協働活動
お伺いした日は、保育園との活動日。近隣の保育園の園児たちが遊びに来ていました。到着すると、挨拶をして、いざ自然遊びへ。森の通路を探検したり、ダンゴムシやミミズを捕まえたり、土を掘ってバケツに入れケーキをつくったり、いろいろな形の葉っぱを探して集めたり、花を見つけたり。子どもたちは、思い思いの過ごし方で楽しそうに遊んでいます。
保育園との活動は、6年前から。体験の森の土作りなど環境整備を行っている間も、毎日のように散歩に来ていた保育園の子どもたち。近隣には園庭のない保育園が多く、土や自然に触れたり遊ぶ体験ができる場所が少ないので、保育園の子どもたち向けにこの植栽地を解放する日を作ったそうです。自然遊びのほか、連携する園とはさつまいも畑などのアグリガーデンづくりの活動も行っているとのこと。
子どもたちの好奇心を大切にする自然遊び
自然遊びで大切にしていることは、子どもたちの好奇心を大事に、自然への理解を深めることだと教えてくださいました。それぞれ、自分の興味の向くままに、動いたり、見つけたりすること。好きなものにどっぷり浸ったり、じっくり観察した先に、発見や気づきがあるのでしょう。子どもたちが、より深く自然の世界に入っていくための入口のようなヒントや遊びを、大人がそっと用意しているような印象です。
トマトの葉っぱや、ハーブなどの葉っぱを手でこすってみては、それぞれの香りを確かめたり。子どもたちが「ちばさん、ちばさ〜ん」と人懐っこく呼んでいる様子に、ここでの時間の充実度が伝わってきます。小学生になっても、この場所が好きでまた遊びに来る子も多いのだとか。子どもはよく覚えているんですね。
「面白い葉っぱを見つけたらここに並べてみようか」と千葉さんが広げた白い紙に、子どもたちがどんどん葉っぱや花を持ち寄って並べます。時間によって載っているものが変わっていくのも大人にとってもまた面白い時間でした。
地域の人が一緒に活動する「森サポーター」も
活動は地域にも開かれています。地域の親子向けに、体験の森やアグリガーデンでのイベントを週末の活動日に企画し、ホームページやメールマガジンで告知。メルマガ会員が110人以上ということからも人気の片鱗が窺えますが、コロナ禍で公園や自然遊びのニーズが高まっているようで、最近ではすぐに予約が埋まってしまうそうです。
そして、地域の人がより深く関わるための方法として、「森サポーター」が生まれました。ただのお客さんではなく、一緒にこの場所を維持管理していく仲間としての「森サポーター」。より多くの家族に気軽に参加してもらえるよう、ネーミングも工夫したそうです。
森サポーターは登録制で、森の手入れや、アグリガーデンで野菜やハーブの植え付け、堆肥づくりやカカシづくりなどを行っているそうです。活動を通して、自然遊びや外遊びを満喫されている家族も多いんだとか。都会で農体験ができる場は貴重ですね。
再開発で公園ができ、森が育っていくのと同時に、人々の関わりも増えてきた様子。そして、お母さんだけでなく、お父さんの参加が増えたことや、週末に限らず平日の来園者が増えていることも、コロナ禍での在宅ワークや生活スタイルの変化の影響、そして自然や土に触れたいという多くの人の思いが伝わってくるようです。
平日もよく訪れるようになったという森サポーターの小さなお子さんが「今日は何お手伝いしますか」と声をかけてくれるようになったそうです。草取りをしたり、抜き取った草を干草堆肥場へ運んだりと、とても助かっているという話をしてくださいました。
地域のみんなで育てる公園
「子どもたちの生き生きとした顔が見られるのは、やっぱり嬉しいんですよね。」と千葉さん。コロナ禍で、大人も自然や土に触れることへのニーズがあることがわかり、この場所でみんなが楽しんで活動してくれるのが喜びだと話してくださいました。
この新川崎地区には、JR貨物新鶴見機関区や中小企業10社ほどがあり、ドングリのポット苗作りや森づくりのイベントを川崎市の後援や企業の協賛を得て開催したり、体験の森の土壌改良などの作業はJR貨物で働く人たちの協力も大きいそうです。会社の敷地内でポット苗育てをした企業や、公園のごみ拾いを毎月2回協力している企業などもあるとのこと。
「私たちはこの場所を、新鶴見操車場の歴史を活かした地域コミュニティの場として活用し、市民・行政・地域で働く人・企業等との協働によって維持管理及び運営を行うことを大切に活動しています。多くの人たちとの連携・協力によって地域の環境改善が進められてきたことに感謝しています。」という千葉さんの言葉から、地域の住民や行政だけでなく、企業やそこで働く人など、いろいろな人の力があって、この公園が育ってきたことがよくわかります。
10年かけてこの場所がこのような多様な植生の森に育ってきて、これまで見られなかった虫や鳥が遊びに来ることが増えたそうです。体験の森は、人だけでなく、あらゆる生きものにとっての憩いの場所になっているのですね。都会の中での自然遊びや農体験。暮らしの中で自然や土に触れること。その土地に昔からある植生を守っていくこと。人と人、人と自然を繋げていくこと。またひとつ公園の新たな可能性を感じました。
「藍染体験をやりたくて、藍の苗を育てているんです」と話してくれた千葉さん。そのほかにも園内に少し休める場所を作る準備が進んでいたり、この森からまた新しい取り組みが始まっていくようですね。これからの進化も楽しみです。
【基本情報】
団体名 | 新川崎ふれあい公園管理運営協議会 |
公園名 | 新川崎ふれあい公園 (川崎市幸区) |
面積 | 3,999m2 |
基本的な活動日 | 毎月第2土曜、第4日曜、毎週火曜(植栽エリアは活動日のみオープン) |
いつもの活動参加人数 | 20人くらい |
会の会員数 | 53人(NPO、市民ボランティア、森サポーター家族、保育園など) |
活動内容 | ゴミ拾い, 除草, 低木の管理, 花壇の管理, 植物の水やり, 利用者へのマナー喚起, 新メンバーの募集や勧誘, 子ども向けイベント |
設立時期 | 2012年(平成24) |
参加者イメージ | 子ども / 子育て世代 / その他大人 / 保育園 |