地域の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回はいつもの公園を飛び出して、まちの中へ!
ご紹介するのは、市が所有する道路の緑地帯(植樹帯)を、民間企業が資金を出して整備し、行政・大学・地域住民が一体となって花壇活動を行っている先進的な事例、「東光のまちにわ」の皆さんです。12月に開催され、多くの笑顔で賑わった「オータムフェス」のイベントにおじゃましました。
40年来の「なんとかしたい」という想いを形に
福岡空港から都心部へと続く幹線道路、空港通り。多くの車が行き交う交差点の傍らに、直径約5メートルもの鮮やかな「花時計」が時を刻んでいます。ここは株式会社正興電機製作所(以下、正興電機)が整備した「東光のまちにわ」です。
「実はこの土地、もともとは弊社の所有地だったんです」 そう語るのは、正興電機の有吉大助さん。
かつて都市高速の建設予定地として福岡市に売却されたものの、計画変更によって長年、未利用のまま放置されていた場所でした。雑木林のように荒れ、ゴミの投棄も絶えなかったといいます。
「会社としては40年以上前から、会社の敷地に隣接するこの場所をなんとかしたいという気持ちがありました。100周年という節目を迎え、市民の方へ恩返しができないかと福岡市に相談したところ、出会ったのが『一人一花運動』だったんです」
こうして、正興電機は放置されたこの場所を、ボランティア花壇として再生させることを決意しました。

空間に寄り添う「デザイン」の工夫と、楽しさを設計する「運営」
ここは道路区域内の緑地(植樹帯)であるため、通常の公園のように人が滞留するための施設(ベンチ等)を自由に設置することはできません。 しかし、花時計や花壇を設計し、「まちにわプロジェクト福岡」の事務局も務めるランドスケープむらは、この制約の中で知恵を絞りました。
「単なる花を植える花壇ではなく、そのものの形状や高さを工夫することで、人々が自然とこの場所に親しめるようなデザインを施しました」
緑地としてのルールを守りながらも、訪れる人々を拒まない。そんな「優しさ」が花壇のフォルム(形状)に表れ、街の風景に溶け込む、親しみが持てる空間を実現しています。

また、継続的な活動にするための「ソフト面の設計」にも余念がありません。
「地域や社員の方に参加いただくイベントでは、前半に植え付けなどの作業を行いますが、後半にはリースづくりなど『楽しみの時間』を必ず設けるようにしています」と事務局の齊藤さん。
取材したオータムフェスでも、参加費無料でランチが振る舞われ、作業の後には好きなキッチンカーを選びランチチケットと引き換えにカレーなどのランチがいただけます。 「ボランティア=奉仕作業」だけで終わらせず、「楽しみ」とセットにすること。これが、多くの人を継続的に巻き込む秘訣のようです。






育まれる温かなコミュニティ
こうした工夫は、確実に地域に届いています。 イベントに参加していた地域住民の方に話を伺うと、「花時計が完成した当初から参加しています。町内の案内で知って申し込んだのがきっかけですが、休みの日にこうやってみんなで集まれるのが楽しいんですよね」と笑顔で話してくれました。
また、正興電機の各事業所からも社員やその家族が多く参加しており、普段は接点の少ない「企業の社員」と「地域住民」が、花を通じて自然に交流する場にもなっており、温かなコミュニティが育まれています。
有吉さんもその変化を実感している一人です。「近隣の方から『正興電機がここにあるのは知っていたけれど、何をしている会社かまでは知らなかった。やっと繋がりました』と言っていただいたのが印象的でした 。今では街を歩いていると『まちにわのおじちゃん!』と声をかけられることもあるんですよ」と目を細めます。
「東光のまちにわ」のイベントには地域の小学生など多くの子どもたちも参加します。正興電機として地域の中に知っている子どもも増え、地域の安全という意味でもまちにわの活動が機能しているようです。

持続可能な仕組みづくり
「東光のまちにわ」を、一箇所の物語で終わらせない。有吉さんたちの次なる挑戦も始まっています。
「まちにわプロジェクト」の最大の特徴は、企業(産)、行政(官)、大学(学)、地域(民)が連携するその運営体制にあります。 現在は正興電機が主導する形態をとっていますが、2025年には「一般社団法人まちにわ」を設立。特定の企業のCSR活動にとどまらず、社会的なインフラとして活動を広げていく準備を進めています。
現在の活動体制
団体代表:正興電機グループボランティア
花とみどりの専門家:卜部 仁美 先生(&green/西日本短期大学非常勤講師)
西川 真水 先生(西日本短期大学 教授)
德永 哲 先生(九州大学非常勤講師)
西日本短期大学 緑地環境学科 学生ボランティア
地域ボランティア:東光校区市民ボランティア
東光校区生徒ボランティア
緑のコーディネーター
運営協力:(株)ランドスケープむら
後援:福岡市 一人一花推進部
運営における最大の課題は、やはり「資金」と「人材」です。 現在の運営資金は、年間で約350~400万円ほど。その多くを正興電機が拠出していますが、将来的には活動の自立性を高める必要があります。
また、専門性の高い花壇管理をどう市民へ引き継ぐかもテーマの一つ。現在はランドスケープの専門家や大学教員がサポートしていますが、有吉さんはその先を見据えています。
「いずれは、福岡市植物園の『ねづくプロジェクト』で育成された市民ガーデナーたちが、プロとして活躍できる場になればと考えています」
ボランティアに依存しすぎず、かといって一企業のお金だけに頼らない。スキルを持った市民が、地域の緑を支える循環を作る。それが「まちにわ」が目指す未来の運営モデルです。

既存の活動との「調和」を目指して
活動を広げていく上で、大切にしていることもあります。それは、地域で長年活動を続けてきた「まちづくり協議会」など、既存組織との関係性です。
「地域にはすでに、緑化や環境美化に長年取り組んでこられた先輩団体がいらっしゃいます。そうした歴史ある活動に敬意を払いながら、新参者である『まちにわ』がどのように共に地域を良くしていけるか。丁寧にすり合わせをしていきたいと思っています」と有吉さんは語ります。
実際、個人のレベルでは活動に賛同していただいても、「組織」同士の連携となると、合意形成にはどうしても時間と丁寧な対話が必要になります。
既存の団体とどう共存し、相乗効果を生み出すか。 「企業だけで進めるのではなく、行政が『まちにわ』と既存団体を繋ぐ『架け橋』となってくれることで、よりスムーズな地域連携が生まれると期待しています」と有吉さんは言います。
広げたい「まちにわ」の輪
現在、「東光のまちにわ」のイベントは、毎回100名近くの方が参加するほどの盛況ぶりです。 しかし、ここは交通量の多い道路沿いの植樹帯。有吉さんは「キャパシティの問題もあり、実はこれ以上参加者を増やすことが難しく、大々的なPR活動などは控えている」と明かします。 安全管理やスペースの限界から、ここ一箇所だけでは参加したい人を受け入れきれないのが現状です。

「だからこそ、『東光のまちにわ』は正興電機が見て、ほかの『まちにわ』は他の企業や団体の皆さんが見る。そんな場所がどんどん増えていけば面白いなと思っているんです」
「東光のまちにわ」をモデルケースとして、福岡市内の他の企業やエリアにも、この「まちにわ」の輪を広げていきたいと有吉さんは語ります。 実際に福岡市内にとどまらず、国内各地の企業が「東光のまちにわ」の視察に来ています。正興電機の社内でも、古賀事業所(福岡県古賀市)において「園芸部」が有志で組織され、「古賀のまちにわ」として花壇活動をしているそうです。
一企業から始まった「点」の活動が、ノウハウと仕組みづくりによって「面」へと広がり、やがて福岡の街全体の景色を変えていく、まちづくりという大きなプロジェクトに育ちつつあります。
「空港から都心へ向かう道に、美しい花がある。それだけで福岡はいい街だなと思ってもらえるはずです」と有吉さんは言います。
企業の「恩返し」から始まった「東光のまちにわ」。今日もゆっくりと、地域と共に新しい時を刻み続けています。

【基本情報】
| 団体名 | まちにわプロジェクト福岡(パンフレット) |
| 連携 | (運営協力)株式会社ランドスケープむら |
| 活動場所 | 東光のまちにわ (福岡市博多区) |
| 面積 | 約 600 m2 |
| 基本的な活動日 | 年3回の花時計および花壇の花の植替えに加え、専門家による季節ごとのワークショップやイベント(植え替えやイベントの日時は「まちにわプロジェクト福岡」のウェブサイトに掲載) |
| いつもの活動参加人数 | イベントやワークショップの時は100名前後参加 |
| 活動内容 | 年3回の花時計および花壇の花の植替えに加え、専門家による季節ごとのワークショップやイベント |
| 設立時期 | 2022年 |
| 主な参加者 | 正興電機グループ社員や家族の皆さん、地域にお住まいの皆さん |
| 活動に参加したい場合は | 各植え替えやイベントに参加ご希望の場合は、各イベントごとにウェブサイトよりお申し込みください。 |