2024/8/19

山手らしい、環境と美しさを守るバラ育て

元町百段公園(横浜市)

さまざまな公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、農薬や化学肥料を一切使わずにバラを育てることで、地球環境を守りながら公園に賑わいを取り戻し、人々のつながりを作っている、こちらの皆さんです。バラのお手入れと、バラ育ての勉強会をするという8月の活動日にお伺いしました。

洋館の立ち並ぶ横浜山手エリアにある元町百段公園

横浜市中区にある元町百段公園(もとまちひゃくだんこうえん)。みなとみらい線 元町・中華街駅もしくはJR根岸線 石川町駅から歩いて約10分、外国人居留地の面影が残り、異国情緒あふれる街並みの山手地区の住宅地にある公園です。

山の上にあるこの場所には、かつて浅間神社があり、元町からまっすぐで急な石段が101段あったそうで、公園の入口にはその歴史を記すタイル写真や案内碑も。横浜開港から大正期にかけて浅間山の見晴台と呼ばれ、港を一望できるたいへん見晴らしの良い場所として多くの人に親しまれていたようです。関東大震災で崩れた「百段」を偲んで、その後公園として整備されたのが、この元町百段公園とのこと。

(元町百段公園の入口には、かつての百段の写真や歴史が記されています)

こちらでボランティア活動をされているのは「なか区民クラブ」の皆さんです。なか区民クラブは、教育・交通・環境をテーマに市民活動を行う団体で、観光案内ガイドや地域の美化活動などを続けてこられました。元町百段公園愛護会として百段公園での活動を行っているほか、「山手百段公園バラ会」としてInstagramでの発信もされています。

なか区民クラブ代表の岡田實さん、クラブ顧問でバラの専門家でもある石川彌之助さん、元町百段公園愛護会長の竹内勲さん、なか区民クラブ広報担当の金田智久さんをはじめ、皆さんにお話をお聞きしました。

(左から、愛護会長の竹内さん、なか区民クラブ代表の岡田さん、顧問の石川さん、広報の金田さん)

山手らしくバラを植えて公園を再生

1987年に開園した元町百段公園、ボール遊びをする子どもたちで賑わった時期もあったそうですが、少子高齢化によって遊ぶ子どもは減り、熱心にゲートボールをしていた元町地域の人たちも、やがて坂や階段を上ってくるのが大変になり、だんだんと草ボーボーの公園に。そこで立ち上がったのが、なか区民クラブの皆さんでした。

バラを植えることで、公園を華やかにし人々の憩いの場所に再生しようと考え、動き出します。花の中でもバラを選んだ理由をお聞きすると「山手に似合うのはバラだろう」と誇らしげにおっしゃる岡田さん。バラは横浜市の花でもあるそうです。山手地区の複数の洋館でバラのお世話をする「横浜ばら会」で当時会長だった石川さん(現在は同副会長)のところに相談に行き、「公園に植えるバラは、無農薬で安全に育てよう!」という方針で、無農薬・無化学肥料にこだわったバラ栽培の計画がスタートしました。

公園にバラを植えたいと中土木事務所に相談し、活動するために公園愛護会も結成。トゲがあるバラを公園内に植えるにあたっては、エリアを決めてロープを張るなど、安全対策もしっかり話し合いました。大きな整備は行政が担当してくれましたが、関東大震災の際にガレキ置き場になっていたという公園の土は、質が悪く、土づくりにも苦労されたそう。

世界中に3万種類ほどあるバラの中から、ここではとくに病気や虫に強い品種を選んで植えているそう。2016年に10株、翌年に25株、さらに次の年に25株、あわせて60株、その後ツル性の品種を5株、すべて違う品種の65種類のバラを植えていらっしゃいます。

(8月の暑さにも負けず美しく咲いているバラもありました)
(定例活動は毎月第一日曜の午前中に行われています)

無農薬・無化学肥料にこだわるバラ栽培

なんといっても、元町百段公園のバラ育てのこだわりは、無農薬・無化学肥料での栽培です。横浜市内の公共施設や公園で多く栽培されているバラは、農薬や化学肥料が使用されているそうですが、健康への不安や生物多様性への配慮、広域環境への影響を考えると、無農薬・無化学肥料での栽培を市民自身の手で推進していくべきと考えていらっしゃる皆さん。

公園内のすべてのバラを無農薬・無化学肥料で栽培するために、さまざまな工夫をされています。また、春と秋だけでなく、クリスマスまで年4回花が咲くお手入れを計画的にすることで、より多くの人に楽しんでもらえる工夫もされていました。

元町百段公園でのバラ栽培の工夫の例
・病害虫に強い品種の選定
・日照・水はけ・風通しに配慮したお手入れの年間計画
・コンパニオンプランツの植栽
・排水性、保水性に優れた土壌改良
・剪定ゴミの堆肥化
・害虫を捕食するシジュウカラ誘致のための巣箱設置

お伺いした日に行われていたのは、水道水による洗浄です。幹の根本から葉の先までホースの水をジャーーッ!!とかけていました。ポイントは4月から10月の晴天の日の午前中に行い、日当たりと風通しで短時間で乾燥させること。これにより、黒点病やうどん粉病を防除し、バラゾウムシやカイガラムシなどの害虫を除去されています。

「日照と通風さえしっかりしていれば農薬は必要ないんです」と話してくださった石川さん。ご自宅でも100本以上のバラを無農薬無化学肥料で育てていらっしゃるとのこと。農薬は散布したあと一定時間立ち入りを制限するなどの配慮が必要ですが、農薬を一切使わない百段公園では、子どもたちがいつでも安心・安全に遊ぶことができるのもメリットだと教えてくださいました。

(バラを病害虫から守るための水道水洗浄は、ジャーっと勢いよく!)
(コンパニオンプランツや下草刈りのお手入れもします)
(刈った草は公園内の堆肥ボックスに入れて堆肥にします)
(虫を捕食してくれるというシジュウカラを呼び込むために設置したという巣箱)

バラを楽しむイベントや、栽培方法を学ぶ企画も

なか区民クラブでは、百段公園でのお手入れ作業と合わせて、バラの無農薬・無化学肥料栽培の勉強会も毎月行っています。その会場が、横浜市認定歴史的建造物である山手234番館というのも、山手らしさを感じずにはいられません。

(かつては外国人向けの共同住宅だったという山手234番館、市民への貸出スペースもある)

定例会議のあと、勉強会では石川さんからバラ栽培に関する基礎知識や、毎月の作業内容や作業計画などのお話がありました。1年を通したバラの生長メカニズム、年4回クリスマスまで花を咲かせるための剪定の時期や位置、さまざまな害虫に対する対処法など、石川さん手書きの資料をもとにお話は進んでいきました。

クリスマスに花を咲かせるためには、樹勢や生育を見ながら、7月の二番花が咲いたあとから剪定時期の計画をして、三番花そしてクリスマスの四番花を咲かせる準備が必要だそうです。山手の西洋館が一斉に世界のクリスマス装飾を行う12月に合わせて、百段公園でもバラを咲かせる相談が行われていました。

(山手234番館の2階で行われるバラ育ての勉強会)

百段公園では、生物多様性配慮型緑化のテーマのもと、無農薬バラ栽培を提言し20年に渡り実践してきた東京都市大学環境学部田中章研究室と共同での実証研究も2018年から行ってきたそうです。2020年には横浜環境活動賞を、2023年には公園愛護会表彰も受賞されました。そして、2027年に横浜で行われるGREEN×EXPOへの展示参加の申請もされています。

この百段公園での取り組みをノウハウとして確立し、仲間を増やしていきたいという思いから、山手エリアバラ鑑賞ツアーや、無農薬バラを使ったフラワーアレンジメントづくり、生物多様性保全や横浜山手の歴史に関するレクチャーなど、市民が楽しめるイベントも開催しています。

バラの育て方を知りたい、公園でボランティアのお手伝いをしたい、と口コミでメンバーも増えてきたそうです。もっと仲間を増やしていきたいと情報発信にも力を入れています。今回取材のきっかけにもなったInstagramでの発信は、広報の金田さんがご夫婦で担当されています。

「無農薬・無化学肥料でのバラ栽培が市民の手でできる!とここで実証すること」が活動の目的の一つでもあることを力強く語ってくださった岡田さんと皆さん。

公園愛護会としてバラの無農薬・無化学肥料栽培のノウハウを確立し、地域を巻き込み環境を守る活動とともに、春はもちろん、秋やクリスマスの時期も美しく咲くバラが楽しみです。

(無農薬・無化学肥料でのバラ栽培を市民の手で実証しています)
(公園内には古代ローマ風の円柱があります)
(百段公園から見える現代の元町中華街方面の景色)

【基本情報】

団体名なか区民クラブ(山手百段公園バラ会)
公園名元町百段公園(横浜市)
面積750 m2
基本的な活動日毎月第1日曜 10:00-12:00
いつもの参加人数14名ほど
活動内容ゴミ拾い、除草、落ち葉かき、低木の管理、花壇の管理、植物の水やり、施設の破損連絡、愛護会活動のPR、地域のイベント、公園再整備に関する活動
設立時期2016年
主な参加者地域の有志、花好きのご近所さん など
活動に参加したい場合はInstagramをご覧ください、DMやメールで連絡されるとスムーズです
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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