2024/6/21

公園に地域の交流施設を整備、田植えイベントも

谷矢部池公園(横浜市)

各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、公園愛護会やNPO・町会・学校・PTAなどが協力しながら公園に地域の交流施設を整備し、公園を日々守っているこちらの皆さんです。公園にある棚田で田植えイベントが行われるということで、気持ちの良い6月の日曜日にお伺いしてきました。

市民の手で守られてきた谷矢部池公園

横浜市戸塚区にある谷矢部池公園(やとやべいけこうえん)。横浜市営地下鉄ブルーライン踊場駅から歩いて5分ほどの住宅地にある、かつて農業用に使われていたため池「谷矢部池」を中心とした近隣公園です。谷戸の地形を生かした高低差のある広い公園内には、谷矢部池に流れ込む湧水やせせらぎ、湿地、多目的グラウンド、遊具広場、トイレ、竹林もある広い樹林地があります。

湧水や湿地、池、竹林や樹林といった豊かな自然が残る谷矢部池公園には、カエルやトンボをはじめ、様々な生き物が棲んでいます。また、カワセミなど年間60種類以上の野鳥が見られるそうで、観察に訪れる人も多いようです。

(カワセミがお出迎えしてくれた谷矢部池:かつて池の水を抜くテレビ番組で巨大なアリゲーターガーが捕獲されたこともあるんだとか!)

「まち普請」助成金でみんなが集える拠点を整備

池や樹林地のほか、公園の中に地域の人が集う施設「ぷらっと谷矢部」があることも、谷矢部池公園の大きな特徴です。この施設を管理するNPO法人ぷらっとの理事長であり、谷矢部公園愛護会の会長でもある浦島路子さんと、両団体の会計担当 小林清美さんにお話をお聞きしました。

もともと、何百年も前から人々が農業をしながら暮らしを営んできた谷戸で農業用のため池だったという谷矢部池。1990年頃に池の埋め立て計画が持ち上がった際、近くの矢部小学校の校長とPTAが中心となって、池の埋め立て反対と公園化を陳情し、池周辺とグラウンド部分が公園として整備されました。その後、隣接する樹林地のエリアも公園化され、現在の広さに。

しかし、過去には池や樹林地などの手入れが行き届かなくなり、放置状態にあったこともあるといいます。

周辺の6つの町内会や矢部小学校・PTA、公園を利用するスポーツ団体などのメンバーで構成される公園愛護会や、森ボランティア活動をする「わかぎの会」をはじめ、地域の人々の活躍により池や樹林地の自然が守られてきました。「竹灯籠の夕べ」や「生き物の観察会」などのイベントも、地域の人たちの手によって続けられています。

なかでも「竹灯籠の夕べ」は2011年から毎年続く地元でも人気のイベントです。公園愛護会、近隣の小学校2校・中学校2校にPTA、定時制高校、複数の自治会、公園の多目的広場を利用するスポーツ団体など、多くの人で実行委員会を結成し、1年かけて準備をして行う秋の大イベント。昼の部はステージやゲーム、夕暮れの頃には子どもたちが作った竹の灯籠にあかりを灯し、自然の中で秋の夜長の幻想的な景色を楽しんでいるそうです。

(切り出した竹を乾燥・カットし、子どもたちが絵を描いて仕上げた竹灯籠)

公園の利用促進や竹灯籠イベントに向けた会議を重ねる中、雨風がしのげて、みんなで集まることのできる場所を公園内につくろうと、公園愛護会が中心となって、2016年横浜市の施設整備支援事業「ヨコハマ市民まち普請」に応募。

ヨコハマ市民まち普請とは、市民の「 地域の問題を解決したい」「 地域の魅力をもっと高めたい」という思いを実現するための施設整備に対して支援・助成を行う事業で、子育て支援、防犯・防災、多世代交流、環境保全・・・ 分野を問わずに応募できるというもの。

多くの人の協力と頑張りで、1次コンテスト、2次コンテストを見事通過。500万円の助成金を受け、2017年「ぷらっと谷矢部」が建設・整備されました。(提案内容の詳細などは横浜市のWEBサイトに掲載されています)

(ぷらっと谷矢部の前で浦島路子さん(左)、小林清美さん(右)と:矢部小PTA時代からの仲間だというお二人は信頼関係も厚い)

毎月楽しいイベントを企画運営

この施設の管理・運営のために、NPO法人ぷらっとが設立されました。「ぷらっと谷矢部」は、公園内で地域の多世代が交流できる拠点として、平日の午後に週2回開放されています。開放日には、公園の中で気軽に立ち寄れる場所として、おもちゃを借りたり、工作をしたり、宿題をしたりと賑わっているそうです。大人たちにも会議はもちろん気軽に立ち寄れる場としてひらかれています。

また、季節のイベントや自然を使った工作、生き物観察、あそびの日、発明クラブ、食育イベント、カフェや夕涼み会など、子どもも大人も楽しめる様々なイベントが行われています。

イベントはNPO法人ぷらっとが企画運営を行っています。地域の人たちが先生となって行われる様々なイベントは、多世代交流や、人々の活躍の場、経験を共有する場、居場所づくりにも繋がっているようです。案内は、隔月で発行される「ぷらっとだより」で配布されるほか、ホームページFacebookXなどのSNSでも広くお知らせしています。

(ぷらっとだより:開所日カレンダーやイベントのお知らせが盛りだくさん、隔月で発行されている)

『ぷらっと』という名前には、いつでもぷらっと来れる場所であることはもちろん、地域のプラットフォーム=情報発信基地になりたいという想いもこめられているそう。

「私たちは、ここで『ふるさとづくり』をしているんです。多世代で交流しながら、子どもたちにとってもここに来れば誰かいて安心できる、そんな地域の居場所になれば。」と話してくださった浦島さん。

地域で人と繋がりあうこと、家族や友達以外の人と話したり、困った時に助けてと言えること、誰かを頼って「できた!」を経験して、強くなることの大切さを語ってくださいました。

地域の多世代が交流する田植えイベント

さて、お伺いしたのは「ぷらっと田んぼ部!〜親子で体験〜」の田植えイベントです。谷矢部池公園では、樹林の再整備の際につくられた棚田で、もち米を育てています。

2週間前にみんなで踏みつけて空気を入れる「しろかき」をして柔らかくなった田んぼに、苗を植えていきます。事前に申し込みをした約15組の親子、ボーイスカウト(小学校3〜5年生のメンバー=カブスカウト)のメンバーたちが集まりました。参加費の300円には保険料も含まれています。

ボーイスカウトのみなさんは、実はしろかきイベントの前にも、田んぼの草刈りと田おこしのお手伝いをされていたとのこと。大人たちだけでなく、子どもたちも準備の段階から大活躍です。

(環境保全と援農をする市内のNPOから分けてもらっているもち米の苗:じょうぶで育てやすいそう)

ごあいさつのあと、まずは、ぷらっとのイベント担当伊藤純子さんから、苗の植え方や注意事項の説明がありました。

ここの田んぼは泥田で、普通の田んぼより深いので動きにくいそう。つくってある畔(あぜ)を壊さないように、植えたばかりの苗を踏んでしまわないように、最後にきちんと出られるように、植える順序や向き・歩き方などにも注意が必要です。

(苗の植え方や注意事項を説明する伊藤純子さん)

田んぼには靴下で入ります。みなさん古くなった靴下を履いて、いざ、田んぼへ!

ドキドキしながら、おそるおそる足を入れる子どもたち。大人もあとに続きます。年齢などを考慮して4つのグループに分けられ、それぞれ田んぼが割り当てられました。苗は2本ずつ根元から分けて、50センチくらいあけて奥から順番に植えていきます。

(田植えが初めての人も、やったことある人も、ベテランさんも、多くのご近所さんが参加)
(入るよー!ズボッ!ズボッ!真っ白な靴下が気持ち良いくらい一瞬で泥に染まりました)

「ぬるっとしてて冷たい!」「わ〜結構深いぞ!」

「ウォーターベッドだこれ!」

「ヤゴいた!」

あちこちで楽しい叫び声や笑い声が聞こえてきました。苗を渡したり、一緒に植えたり、みんなの連携プレーであっという間に4枚の棚田に苗が植えられていきました。

(奥の深い方から順番に植えていきます。大人の膝くらいの深さがあるところも!)
(田んぼの中を移動するだけでも大変!いきものがたくさんいて楽しい!)
(苗を渡してもらって、真ん中の方も植えました。さあ最後はどこから出るのかな?)

去年はしろかきを体験し今年は田植えにも参加したという保育園児の男の子は、どろんこになりながらも大活躍。「はじめは泥が深くて歩きづらかったけど、歩けるようになった!」と誇らしげに話してくれました。

ヤゴを9匹も捕まえた虫好きの兄弟は、初めての田んぼでメダカも見つけたそうです。「夜のいきもの観察会も楽しみ!」と来月のイベントに参加することも教えてくれました。

去年から参加しているというご家族は、お父さんが福島の農家出身。自分たちのごはんができる過程を知っておいてほしいと、1年を通して田んぼ体験をされているそう。「同じくらいの子どもたちと一緒に体験できるのはいいですね」とおっしゃっていました。

お父さんと参加していた小学3年生の男の子は、今年で3年目。しろかき、田植え、稲刈り、脱穀と年間を通して体験してきました。去年は余った苗を分けてもらって家でもお米を育てたそうで、生活の中の年中行事になっていることを話してくれました。

(足を洗って最後に記念撮影。みなさんいい笑顔!)

田んぼはこのあと、秋に稲刈り・脱穀と続きます。それまでの間は、雑草をとって稲に栄養が行くようにしたり、生えてくる藻をすくったり、苗を切ってしまうザリガニを駆除したりといったお世話をするそうです。

ぷらっとでは、公園の自然や立地・地形を生かしたイベントをたくさん企画・運営されています。地域みんなで子どもたちの成長を見守っていこうという雰囲気は公園ができた時から続いているようで、PTAのOBやOGの活躍もあり、様々な世代の人が関わっています。

先生になってくれる地域の人がいて、得意なことを生かして子どもたちのために何ができるか?一緒にいろいろ考えて企画してくれるとのこと。谷矢部池公園での世代を超えた地域交流はこれからもどんどん広がっていきそうです。

(田植えイベントのぷらっとスタッフのみなさん、ありがとうございました!)
(遊具広場:このあと大勢の子どもたちで大賑わいになっていました)
(樹林地の入口:奥には湧水や井戸もある)
(多目的グラウンド:週末や夕方は少年野球チームやサッカークラブの練習も行われています)

【基本情報】

団体名谷矢部池公園愛護会、NPO法人ぷらっと
公園名谷矢部池公園(横浜市)
面積22,631 m2
基本的な活動日ホームページに予定表あり
活動内容ゴミ拾い、除草、落ち葉かき、低木の管理、施設の破損連絡、利用者へのマナー喚起、地域のイベント、子ども向けイベント、他団体と連携したイベント、遊びの見守り、生物調査、田んぼ、樹林の保全
設立時期1994年(NPOぷらっとは2017年)
主な参加者地域の有志のみなさん、子ども、子育て世代、アクティブシニア
活動に参加したい場合はホームページFacebookをご覧ください!
ぷらっとのFacebookでは各種イベントのお知らせのほか、公園で見られる野鳥の写真なども見られます
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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