2024/4/30

地域や公共を体験で学ぶ、小学生が自分たちでつくった公園愛護会

円蔵第一公園(茅ヶ崎市)

さまざまな公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、小学2年生が自分たちで公園愛護会をつくって、公園をより安全で楽しいみんなの遊び場にしている、こちらの皆さんです。

浜之郷小学校2年3組の皆さん

茅ヶ崎市の浜之郷(はまのごう)小学校。茅ヶ崎市の西のエリア、新湘南バイパス茅ヶ崎JCTや小出川にほど近い地区にあり、1998年開校と市内では3番目に新しい学校で、月例授業研究会が行われているのも特徴です。

この2年3組の皆さんが活動しているのは、学校から歩いて10分ほどの住宅地にある円蔵第一公園(えんぞうだいいちこうえん)です。40年以上使われているちょっと懐かしい雰囲気の公園だったのが、最近遊具のリニューアルが行われピカピカに生まれ変わりました。幼稚園バスの送迎場所にもなっており、小さな親子連れをはじめ幼児や小学生にも人気の遊び場のようです。

2年3組の皆さんは「郷小こどもおとなみんなの(遊んで学べる)公園愛護会」を結成し、毎週円蔵第一公園での愛護会活動に取り組まれています。生活科の授業として、地域のことを学びながら自分たちにできることを考え、実践されているそう。3月の最後の公園活動の時間にお伺いし、活動を見学させていただきました。

(竹ボウキや熊手などの道具を持って、いざ出発!こなれた感じで一輪車を押す姿も頼もしい)

公園の折れた枝は持ち帰ってもいいの?から始まった公園活動

2年3組の皆さんが公園愛護会を結成したきっかけは何だったのでしょうか?

身近な地域のことを知るための学びとして、地域の公園や緑地に着目し、学区内の公園や緑地・神社などを見て回ったり、植物の観察をしてきたそうです。そんな中、円蔵第一公園に公園調べに出かけた際、折れた木の枝がいっぱい落ちているところに遭遇。

「魔法の杖みたい!これ持って帰ってもいいのかな?」

そんな疑問から、みんなで会話をし、市役所公園緑地課に問い合わせをしてみたという皆さん。勝手に持って帰ることはできないけれど、公園のために使うなら良いということがわかり、公園での活用法を考えていきました。

あわせて、円蔵第一公園に定期的に通い、落ち葉やゴミ、花や草木、公園の使われ方、午前・午後・夜など時間帯での公園利用者の違いなどを観察。授業の中でも「公園愛護会」という制度や取り組みの存在を学び、「よし、わたしたちが愛護会をつくろう!」ということに。2年3組の挑戦が始まりました。

(公園愛護会のかわいい紹介看板が出迎えてくれる円蔵第一公園)

「自分にできること」を楽しく行うみんなの愛護活動

「自転車がバラバラに停められているから、整理して停めるようにするのはどうだろう」
「お酒やタバコのゴミがたくさん落ちているよ」
「大きな石がゴロゴロ転がっていて、危ないね」

それぞれが見つけた問題を発端に、そこから様々なプロジェクトが生まれていきました。

・おそうじプロジェクト
・ごみひろいプロジェクト
・草をふやして虫をふやすプロジェクト
・花だんをつくるプロジェクト
・あぶない枝を切ってその枝でつくったものをプレゼントプロジェクト
・ごみアートプロジェクト など

グループで協力しあったり、工夫を重ねてそれぞれの思いを実現していく皆さん。遊具のリニューアル工事で公園が使えなくなった期間も、インタビューや調査を継続。プロジェクトはどんどん増えたり、発展したりしているようです。自由なアイデアと行動力が本当にすごいです!

(落ち葉や草を集めて土づくりもしました!)
(プランター花だんの底には落ち葉や草からつくった土が入っている:白い柵も公園の木の枝でDIY)
(手づくりのごみ箱を設置してみようという挑戦:風で飛ばされないようヒモで結んで固定中)

ゴミや石をアートに、捨てずに楽しく

円蔵第一公園は、かつては大量のタバコの吸い殻や、ビールの空き缶、割れた酒ビンが落ちていたりと、とてもゴミの多い公園だったそうです。でも近隣にほかに公園はなく、近所の子どもたちにとっては唯一の遊び場。

この日の公園には、小さな親子連れもたくさん遊びにきていました。お母さんたちにお話をお聞きすると、2年3組の子どもたちが毎週愛護会活動をすることで、ゴミの量が減って助かっているという声がありました。

「ありがたいですね。でも子どもたちに頼っていていいのかな?と複雑な気持ちです」と話して下さった方も。ゴミが減り、ちょうど遊具も新しくなったタイミングで、公園全体が明るくなって、遊びにくる人も増えたようです。

2年3組の皆さんは、拾ったゴミを「ごみアートプロジェクト」のメンバーに渡していました。ごみアートプロジェクトのメンバーは、拾ったゴミを学校に持ち帰って、きれいに洗い、アート作品にアップサイクルしています。

この日は、公園で拾った空き缶やペットボトル、アイスクリームの容器などで作った「キコリさま」が公園に登場しました。金色のスプレーでキラキラになったボディにかわいい顔がついています。風で飛んで行かないように、木の板にしっかり固定したキコリさまとそのほかの作品たち。上から草もかぶせて風対策は入念です。

(公園で拾ったゴミから生まれた「キコリさま」が公園に登場!)

こちらは「石プロジェクト」のメンバーの作品です。公園に大きな石がゴロゴロ落ちているのを見て、小さい子がつまづいたり、投げたりしたら危ないと気づいた子どもたち。石を拾って、水で洗って、学校に持ち帰り、きれいに色を塗って楽しいアート作品にアップサイクルしました。

拾った石はアイスの箱に入れて持ち運ぶと便利など、活動の中の小さな工夫も光ります。はじめは大きな石がゴロゴロ落ちていた公園も、石プロジェクトのメンバーの活躍により大きな石がなくなったそう。今ではちょっと掘って石を集めるほどの熱心さです。

(大きな石を見つけて集めます。小さな子が石を拾う楽しさも残しておいてあげたいという優しさも)
(石のアートを展示!公園の隅まで楽しめる工夫と、こちらもボンドでしっかり固定するこだわり)

ゴミや石を、拾ってただ捨てるのではなく、アイデアをプラスすることで、楽しいものに変えてしまおうという皆さんの発想力が輝いています。

公園で拾った木の枝を使って、かわいい作品やおもちゃをつくって、公園で遊ぶ小さな子たちにプレゼントするサンタさんも登場していました。

(木の枝と毛糸でつくったふわふわのペンダントは、公園に遊びに来た小さな子へのプレゼント)

「暮らし」と「地域」と「公共」を体験で学ぶ

このような素敵な公園愛護会活動をする浜之郷小学校2年3組のクラス担任の中村俊太先生にお話をお聞きしたところ、このように話してくださいました。

活動が終わりに近づいた日、「円蔵第一公園どうだった?どうなってほしい?」と問いかけました。振りかえれば、円蔵第一公園に初めて授業で行った日。子どもたちは他の何にも目もくれず、遊具で夢中に遊びました。ブランコの順番で喧嘩をしました。「次はボールを持ってきていいですか。」と聞いてきました。その時から、たった数か月の活動を経て、子どもたちの目には公園の環境の全てが見えているだけでなく、そこを利用する人々の顔や声や「暮らし」が映っているのです。「こんなことまで感じているのか。こんなことまで言葉にできるのか。」と子どもたちの姿から学ばされました。

その場所に生きる人々の「暮らし」を「地域」と呼ぶならば、公園は地域を学ぶのにピッタリな題材でした。子どもたちにとって、学校を始めとする公共の場は、はじめから使い方が決まっていて、その手続きを忠実に再現しなければいけない場所であることが多いです。公園も当然その通りで、「遊び場としての公園」しか見えないのだと思います。でも、この活動を通して、公園にまつわる様々な人が、様々な使い方をしていることがライブで分かりました。

毎週酒瓶を割って捨てる人と、0~2歳の小さな子どもが、同じ場所で暮らしている。そういう事実を目の当たりにして、そこで揺らぐ「正しさ」をつかんだり、つかめなかったりしながら、クラゲのように漂う「生活科」の時間を過ごしてきたのだと思います。

子どもたちは、コロナ禍で「個性は許される範囲で」「安全(ルール)が最優先」という「教え」をしっかり学んできました。そうやって正しい規律の中で生きてきたのに、「地域」という場所は「正しさ」がはっきりしない、ルールで規定しきれない、多様な他者が暮らしている場所なのだと肌で感じたことと思います。

私の祖父が、地元の田んぼをつぶした土地に家を移したことがありました。新しい区画は「こがね町」と名付けられました。神社も公民館もないその地区に、祖父は仲間とともに公園をつくり、とても綺麗なトイレを整備し、遊具を配置し、うんとこしょと登れる山を築きました。夏には新しく祭りを催し、舞台を立てるための鉄骨を埋めました。お年寄りが多くなったら、ゲートボール場を整備し、そこを使って小学生たちはサッカーやラジオ体操をしました。新しい区画には、文化や風習がありません。それはつまり、「公共」がないということだと思います。祖父は、「公共」をつくったのだと誇りに思っています。

茅ケ崎市は、世帯数が市政誕生からずっと増え続けている街です。地域の視点で見れば、常に新しい人が流入して、新しくなり続けている街といえます。その街にあるおよそ200の公園もまた、誰かがつくり、整備し続けてきたのです。その公園が、今世代交代の時期に直面しています。市内のどこの公園でも、「次の担い手」を求める方がいて、ひっそりと誰にも知られることなく、枯葉を掃き、自前の有料ごみ袋でごみを拾っています。

次年度は、新しい学年の他の子どもたちが愛護会の活動が出来ないかと検討し始めました。「学校×生活科×公園愛護会」この授業が市内でひろがり、その授業で一緒に汗を流した子どもたちが将来手を取り合い、「公共をつくる人」になってくれたらいいな、と考えています。

(中村俊太先生:教室には公園愛護会に関する皆さんの取り組みがまとめられ日々進化しています)

公園は学びの機会で溢れている

7歳・8歳の小学2年生が、地域の公園にそれぞれ真剣向き合い、自分にできることを考えて実践する姿に頼もしさを感じました。自由な発想や「こんなことやってみたい!」というエネルギーと弾ける笑顔に、たくさんの元気をもらいました。

また、授業では公園愛護会活動について、私たちみんなの公園愛護会のホームページを参考にしてくださっていたとのことで、取材にお伺いした時に「ホームページの人がきてくれた!」と歓迎してもらえたことも嬉しい出来事でした。

2年3組の円蔵第一公園での公園愛護活動は、3月末で終了とのことですが、自分たちのアイデアと行動で社会を良くしていくという経験と自信は、子どもたちの心の中にこれからもしっかりと残っていくことでしょう。

身近な公園を育てる活動が、公園や地域にとって良いことはもちろん、子どもたちの学びや成長の機会としても大きな可能性があることを教えていただきました。

(最後の公園活動日、もっとやりたかった〜!という声も)
(自分たちだけで難しいことは先生が優しく声をかけながらサポートしていました)
(学校への帰り道、高速道路の向こうには真っ白な富士山が)
(校舎や教室のデザインも先進的でユニークな雰囲気の茅ヶ崎市立浜之郷小学校)

【基本情報】

団体名郷小こどもおとなみんなの遊んで学べる公園愛護会
公園名円蔵第一公園(茅ヶ崎市)
面積857 m2
基本的な活動日毎週
いつもの活動参加人数24人のクラスメイト+先生
会員数25名
活動内容ゴミ拾い、除草、落ち葉かき、花壇の管理、施設の破損連絡、利用者へのマナー喚起
設立時期2023年
主な参加者子ども、職員
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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