2024/2/15

保育園がやっている公園愛護会!

古小烏公園(福岡市)

各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、保育園が運営する公園愛護会。公園をひらかれた楽しい地域の庭にするために、様々な工夫をしながら、たくさんの大人や子どもが関わっています。

まちにひらく保育園を始めるために、まずは公園愛護会活動をスタート

福岡市中央区にある古小烏公園(ふるこがらすこうえん)。地下鉄七隈線の薬院大通駅から歩いて6分、福岡市動植物園にもほど近く、博多駅へもバスで約20分という便利な街中にある、小さな公園です。お店の多い大通りから細い道を少し入っていくと、パッと明るく楽しい雰囲気のカラフルな公園が現れます。となりには保育園があり、子どもたちの元気な声が聞こえます。

(パッと明るく楽しい雰囲気のカラフルな古小烏公園)

こちらの公園でボランティア活動をされているのは、公園に隣接する「いふくまち保育園」と、歩いて1分のところにある系列園「ごしょがだに保育園」のみなさんです。「いふくまち保育園」と「ごしょがだに保育園」の園長で、古小烏公園愛護会会長の酒井咲帆さんとみなさんにお話をお聞きしました。

(園長で愛護会会長の酒井咲帆さん:子どもたちから「さきほさん」と呼ばれ慕われています)

酒井さんが古小烏公園愛護会を立ち上げたのは、「この場所に保育園を作りたい」という思いがきっかけだったというから驚きです。

福岡市中央区で写真屋「ALBUS(株式会社アルバス)」を立ち上げて、写真撮影や現像の仕事をしていた酒井さんは、ご自身の出産と子育てを機に、まちにひらかれた保育園を自分で作ろうと動き出したそうです。物件探しをする中で見つけたのが、この古小烏公園といふくまち保育園の建物でした。

古小烏公園は1977年に整備された小さな公園です。かつては子どもたちがよく遊んでいた時代もあったようですが、最近はあまり使われておらず、木や草が鬱蒼と茂り暗い雰囲気だったと当時を振り返ります。

「この公園と隣の建物が一体となって、そこで子どもたちが思いっきり遊んでいる風景が見えたんです」と話してくださった酒井さん。まちに気に入ってもらうには、毎日公園のお手入れをすればいいと考え、区役所に相談にいくと、公園愛護会を作ることをすすめられ、2017年公園愛護会活動をスタートすることに。

2018年には、企業主導型保育事業の保育所として、いふくまち保育園を開園。公園と一緒に地域にひらかれた保育園の運営がスタートしました。

(整備前の公園:奥まで見通せないほど植物が生い茂っている(古小烏公園愛護会提供))

毎日見守れるから、保育園と公園愛護会は相性が良い

公園活動は、まずは鬱蒼と茂った草や低木の刈り込みをして、子どもたちが遊べるようにするところから。保育園づくりと一緒に、公園のお手入れも、いろいろな人の力を集めてやってきたというお話をしてくださいました。公園での活動をとても大切にされていて、保育園のWEBサイトに古小烏公園のページもあるほどです。

公園内には実のなる木も多く、これまで市民やかつての公園愛護会の人々が多種多様な植物を育ててきた歴史を感じたそう。遊具やパーゴラの剥がれたペンキをかわいい色で塗り直したり、公園のロゴマークを作ったり、デザイナーやアーティスト、イラストレーター、建築家など、様々な大人の力が生かされています。

(公園名でもあるカラスと木々の葉っぱがモチーフになった公園のロゴマークは公園内のあちこちに)
(ペンキの塗り替えの様子:この時はまだ地面がコンクリート(古小烏公園愛護会提供))

2019年には、第30回緑の環境プラン大賞ポケットガーデン部門コミュニティ大賞に選ばれ、コンクリートを剥がして芝生の緑を増やしたり、小さな畑や果樹園を作るといった公園の環境整備プロジェクトも行われました。

(コンクリートを剥がし芝生にチェンジした時の様子(古小烏公園愛護会提供))

保育園では、職員が毎朝7:30-8:00公園とその周辺の清掃を行っています。月曜から土曜は毎日、午前と午後の遊びの時間には、様々な年齢の子どもたちが次々に遊びに訪れ、大人たちが見守っています。

保育園、とくに園庭のない保育園と公園愛護会はとても相性が良いことを酒井さんは教えてくださいました。

保育園では、毎日近くの公園などに散歩に出かけています。毎日行くからこそ、公園の様子を見守ることができ、変化や危険などへの気づきも細やかに対応できるとのこと。花壇をつくったり、畑をつくったり、誰でも使えるイスやおもちゃを置いたりして、公園が豊かな地域の庭に育っているようです。保育園から直接公園に出られる小さな出入口も、区役所の許可を得て作られています。

(園内には動かせるイスがたくさんあって、休憩にも遊びにも大活躍)

7:30-18:30(延長の場合は19:30)の保育園が開いている時間は、公園の様子を見守ることができるので、保育園が地域の子育てをサポートする一つの拠点になれるというお話もしてくださいました。

公園を利用する親子に、保育園のトイレを気軽に使ってくださいねと声をかけたり、その日に採れた実や野菜を一番にお裾分けしたりといったお話からも、地域にひらくことをとても大切にされていることがよく伝わってきます。独占したり、閉じてしまわずに、ひらいて、みんなで分かち合うことで、子どもたちはもちろん、大人たちにとっても豊かに育ちあう場が作られているようです。

公園内のイスには「じゆうにつかってね」と書かれた公園のロゴシールが貼られています。以前は保育園の名前のシールを貼っていたそうですが、遠慮して使わない人が多いということがわかり、誰にでも自由につかってもらいたいという思いでシールのデザインを変更したとのこと。公園を地域にひらくための工夫は、小さな試行錯誤の繰り返しで常にバージョンアップしています。

(じゆうにつかってね free to useのシールが可愛らしい。公園ロゴもまちの人と考えた。)

地域の人たちと保育園が繋がり交流する場所

地域の人たちも、古小烏公園での活動に参加されています。毎月第1月曜日には、地域の人々によるラジオ体操が行われ、毎回40-50人集まるとのこと。節分や餅つきなど、季節のお楽しみイベントが行われたり、3月には卒園する子どもたちのために「ラジオ体操の卒園式」を開いてくれるなど、公園を舞台に子どもたちと一緒に楽しい時間を過ごすのが恒例になっているそう。

ラジオ体操に参加していたご近所さんが、シニアボランティアとして保育園をサポートしたり、職員になったり、将棋を教えにきてくれたりといった、その後の発展も。公園から歩いて1分のところに、2園目となるごしょがだに保育園をひらくことができたのも、地域の人々との公園での活動と交流がきっかけです。

夏には大きなプールを出して水遊び。近所の子たちも一緒に楽しんでもらったり、遊びに来ていた保護者に公園の門番(子どもが公園の外に出ていってしまわないように入口で見守る役)を頼んだり。クリスマスの時期には公園の木に手編みの靴下がひとつずつぶら下げられていったり、節分には鬼が来たり。地域の人たちみんなで一緒に楽しい時間を過ごしているようです。

(節分に公園に来た鬼(古小烏公園愛護会提供))

古小烏公園愛護会の発行する「みんなの古小烏こうえんだより」も、地域の人たちとのつながりを作る大切なツールのひとつです。公園での出来事や、イベントのお知らせなどの情報が、毎回たくさんの写真と一緒に楽しいおたよりになっています。手書きの温かみも魅力です。みんなの古小烏こうえんだよりは、公園の掲示板のほか、いふくまち/ごしょがだに保育園の前にある掲示板、町内の回覧板、ラジオ体操での配布、保育園の保護者への配布など、様々な方法でたくさんの人に届けられています。すべての公園だよりは、保育園のホームページでも見ることができます。

毎月第3土曜日は、「土の日」として、地域の人や保育園の保護者も一緒に、花壇のお手入れや草木の剪定などをしています。子どもたちも、いつも遊んでいる公園を家族と一緒にお手入れしたり、いつも通り遊んだりと楽しく過ごし、平日は忙しい保護者たちも一緒に遊び、保護者同士や職員とゆっくりおしゃべりを楽しむ有意義な時間になっているようです。

(公園の入口にあるおたより掲示板:掲示板も手づくり)

小屋、畑、バザー、DIYで楽しくつくっていく

古小烏公園では、環境整備もいろいろな人の協力のもと、自分たちのできる範囲で行っています。

すべり台の近くの砂場の枠は、ケガをしないように、隣町のコーヒー屋さんにもらったコーヒーの麻袋を置いて保護しています。大きな木の切り株は、ステージのようなデッキに変身。花壇で元気に咲いている黄色のパンジーは、廃棄予定だった花苗を業者さんが置いていってくれたもの。届いたその日に、子どもたちとみんなで花壇に植えたそうです。花壇の土が出ていってしまわないよう花壇の枠を高くするという環境整備も、愛護会のDIYです。

(子どもたちが登ったり飛び降りても危なくない高さで作られたデッキ:ベンチや荷物おきとしても活躍する。この日はこの上が子どもたちの消防署になっていた)

花壇の他にも、小さな畑や果物の木もあります。畑は地域の人からも「都会で野菜が育つ様子が見られてうれしい」といった声もあり好評のよう。収穫できたものは、地域の人たちにも少しずつ配ってお裾分けしたり、ときにジャムなどに加工してバザーで販売したり、自分たちだけのものにならないように配慮されています。

また、公園内には保育園の用務員さんと保護者の方がDIYでつくったという素敵な小屋もあります。用具入れとして許可を得て設置。日々のメンテナンスは用務員さんが行っています。子どもたちにとってとても楽しい空間になっているようで、この日はアイスクリーム屋さんになっていました。

(アイスクリーム屋さんになっていた素敵な小屋)

これだけ大規模なDIYをするには、資金も必要です。公園愛護会の報償金の年間28,000円で足りない分は、バザーを行ってお金を集めているとのこと。ロゴマーク入りの公園グッズや、子どもたちや卒園生の手づくりのお店、おさがり市、その他にもアクセサリーや革製品のお店、ごはん屋さん、音楽ライブ、ワークショップなど盛りだくさん。本気のバザーが毎年行われているんだとか。

(バザーの様子(古小烏公園愛護会提供))

ここまでできるのは、区役所との信頼関係があってのこと。とくにはじめの3年間は区役所の担当職員が味方になっていろいろと背中を押してもらえたと振り返ります。毎月、公園だよりを送ったり、写真を送ったりして、公園の様子を報告共有しながら、関係性を築いてきたそうです。

子どもたちの日常にも学びの機会

子どもたちの日常に公園愛護活動があることは、学びや経験にも繋がっているようです。

「たとえば、小屋づくりの過程ひとつとっても、隣のマンションの工事ででた廃材をもらってきたこと、小屋が少しずつできていく様子を一緒に見て経験することで、プロセスを知ることができるし、バザーをすることでたくさんの人が興味を持って集まって仲良くなったり、お金になって数字に表れるという体験になるんですよね。管理運営をすることが身近にあれば、将来自分が何かしようと思ったとき役に立つと思います。」と酒井さん。

公園の桜の木が年老いて伐採されることになったときにも、どうにかしたいと子どもたちとみんなで話し合い、いろいろな大人たちが動き出したというお話もしてくださいました。栄養をあげたりしたものの、やはり復活は難しく、いよいよ伐採の日、みんなが見守る中、近所のお寺のご住職がご祈祷をしてくれたこと。伐採作業員の人は、また新たに成長していく可能性のある「ひこばえ」をひとつ残しておいてくれたこと。そして、伐採された桜の木は、建築デザイナーによって大阪万博の休憩所の材料として使われることになったこと。そのための木材の乾燥は、土の日の活動に参加した人が請け負ってくれたこと。1本の桜の木から、たくさんの人がつながり、物語が生まれていきます。繋ぐ人や、繋がってくださる方、さらにアイデアがあれば、いかようにも楽しめるのが、公園のいいところだと話してくださった酒井さん。

(桜の木を切るお祓いの様子:多くの人に見守られる中で行われた(古小烏公園愛護会提供))

続けるために大切にされているのは、やれる人が、やれるタイミングで関わること。誰でも入れるようにひらいておくこと。自分も愛護会のメンバーだと名乗ればOKのゆるさ、知ってると思えるマークや、特別感があるようなグッズやバッジなどメリハリのあるデザイン。仲間はどんどん増えているようです。

保育関係からも、まちづくりの専門家からも注目され、福岡市内はもちろん遠くからも視察や研究・取材に様々な人が訪れるいふくまち/ごしょがだに保育園。保育園と公園を拠点としたまちにひらく取り組みが注目されています。保育の話をしていても最後は公園の話になるんですよ、と笑顔で話してくださいました。

(古小烏公園に隣接するいふくまち保育園)
(保育園の中も案内してくださいました:元気で人懐っこい子どもたちはおやつの時間)
(古小烏公園Tシャツは保育園でも販売されていました)

【基本情報】

団体名古小烏公園愛護会
公園名古小烏公園 (福岡市中央区)
面積476 m2
基本的な活動日毎日(日曜日を除く)7:30-8:00・毎月第3土曜日10:00-11:00
いつもの活動参加人数20-30人くらい
会の会員数およそ250人
活動内容ゴミ拾い、除草、落ち葉かき、低木の管理、花壇の管理、植物の水やり、施設の破損連絡と修理、利用者へのマナー喚起、愛護会活動のPR、新メンバーの募集や勧誘、地域のイベント、子ども向けイベント、他団体と連携したイベント、遊びの見守り、高齢者など地域の声がけ、公園再整備に関する活動
設立時期2017年
主な参加者職員、保護者、子ども、地域の人
活動に参加したい場合は毎月第3土曜日「土の日」の10:00に公園に来てください
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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