2022/9/14

みんなの思いを実現する地域のはらっぱ

南長崎はらっぱ公園(豊島区)

各地の公園ボランティア活動を紹介するコーナー「となりの公園愛護会」。今回は、障がいのある人もない人も、みんなで一緒に楽しい公園を育てている、こちらの皆さんです。

南長崎はらっぱ公園を育てる会の皆さん

公園ボランティア実態調査アンケートでこんなコメントをいただいていました。

3町会が参加する「町づくりの会」が母体で発足しました。毎週実施している清掃ボランティア活動に障がい者施設から20〜30名が参加しています。ポニープログラムやビオトープ内のザリガニ駆除をしています。

かつての区営プールと公園を住民が積極的に参加して再整備した公園で、近隣の障がい者施設の皆さんと一緒にビオトープのザリガニ駆除が毎週行われているというお話をお聞きし、活動にお伺いしてきました。

(名前の通りはらっぱが広がる南長崎はらっぱ公園)

東京都豊島区にある南長崎はらっぱ公園(みなみながさきはらっぱこうえん)。マンガの聖地トキワ荘にほど近いエリアにあり、豊島区と新宿区・中野区・練馬区の4区の区境にも近いため、区を越えてさまざまな人が利用する、人気の公園です。

こちらの公園でボランティア活動をしているのは、南長崎はらっぱ公園を育てる会の皆さんです。育てる会会長の廣田博さん、社会福祉法人地球郷理事長の松本伸子さんにお話をお聞きしました。

(豊島区パトロールのオレンジ色の帽子が眩しい廣田さんと、明るくみんなに声をかける松本さん)

積極的な住民参加で生まれ変わった「はらっぱ公園」

街中にぽっかりと存在する広いはらっぱ。ここはかつて区営プールだった場所で、観客席つきの50mの競技用屋外プールがあったそうです。東京オリンピックの記念に作られ、長年親しまれたのち、新しくできた近くのスポーツ公園の屋内プールに役割をバトンタッチして、閉鎖。

使用休止のままになっていたプールを、地域住民の積極的な働きかけで、隣接する公園と一体的に再整備して新しく生まれ変わったのが、この南長崎はらっぱ公園とのこと。

再整備にあたり、周辺の3つの町会が合同で防災まちづくりの会を発足。話し合いやワークショップを重ね、防災機能を備えた、広いはらっぱのある公園になったそうです。井戸やかまどベンチ、災害時用トイレもあり、一時避難場所として活用可能、たくさんの種類の植物が植えられ、自然の生きものが育つビオトープも住民たちの手で整備されました。

(災害時には炊き出しに使える かまどベンチと、みんなで植樹して10年で立派に育った桜)

広いはらっぱは、みんなに大人気。小さな子が走り回ったり、小学生はもちろん中高生も思う存分体を動かすことができます。ゆっくりしたり、おしゃべりをしたり、シートを敷いてピクニックをしたり、大人も子どもも楽しめます。広いのでいくつもの保育園や幼稚園が入れ替わり立ち替わり遊びに来るそうです。

公園内をぐるりと1周できる園路では、歩行訓練やリハビリの場所としても利用され、自転車の練習をする親子もいるんだとか。

話し合いで一部の芝生や子どもエリアを除いてペットの立ち入りもOKとしたことで、犬の散歩コースとしても親しまれているそうです。新宿区や中野区はペットNGの公園が多いことも相まって、近隣の犬好きの間でも人気の公園とのこと。

そんな風に老若男女みんなが、思い思いに過ごしているはらっぱ公園。伺った日も、ベンチで憩う大人たちや、トンボを追いかけて走り回る子など、次々といろいろな人が訪れていました。

「はらっぱ公園という名前にしたのが良かったかなと思いますよ。はらっぱ行こうよ!という子どもたちの声が聞こえてくるのは、うれしいですね。」と話してくださった廣田さん。プールの跡地だったせいか、なかなか芝生が育たず苦労をしたり、クローバーを植えたり、草刈りをしながら、日々守り育てられてきたはらっぱ公園、地域に愛されている様子が伝わってきます。

(オープン当時は区内で4番目に広い公園だったそう。子どもゾーンには遊具も充実。マンガっぽい土管も!)

障がい者施設との協働

お伺いした日は、毎週の定期清掃活動の日。この地域の社会福祉法人地球郷(通称:ゆきわりそう)の施設から、障がい者の皆さんが参加して、ビオトープのザリガニ駆除や、公園内の草取りを行っていました。

もともと公園再整備の前から、プールの壁の落書き消しや商店街のゴミ拾いなど、地域の清掃ボランティアを行っていたという、ゆきわりそうの皆さん。

公園再整備の時も共に話し合いに参加し、リニューアルオープン後は公園ボランティアとして毎週清掃活動に参加されているそうです。この地で35年間活動を続けながら、地域の防災やまちづくりに一緒に取り組んでこられたことを、松本さんが教えてくださいました。

公園内にも、障がい者に配慮されたポイントがいくつもありました。ひとつは、車いすのまま花に触れられる工夫がされた花壇で、一部がテーブルのように宙に浮いている「レイズドベッド」と呼ばれるものです。

(車いすのまま花に触れられる花壇、しゃがむ作業が難しい高齢者などにも、みんなに優しい)

毎週水曜日の午前中は、ゆきわりそうグループの就労継続支援B型の施設から、それぞれが公園に出向き、みんなで作業をしているそう。回数を重ねるうちに、どんどん作業ができるようになったり、関わりが増えたり、公園への愛着も増しているようです。

たとえば自閉症の人は、小さなゴミを探して拾ったり、壁の落書きをきれいに消すといった、多くの人がすぐに飽きて嫌になってしまうような作業も、その作業自体にのめり込んで楽しく行うことができることをお聞きしました。

なかなかできないことを、継続してやっている人々のおかげで、公園や街の環境が美しく保たれるのは素晴らしいことです。そして、障がいがあってもなくても、社会と繋がり、人々の役に立てると実感できる場所があることは大切なことだと改めて感じます。

「障がいを持った人が、街で当たり前に挨拶できるようになったらと思います。昔は障がいがあると本人も家族も生きづらかったものですから。毎週の清掃活動を通して、みんな力がついたなあと思います。」と話してくださった松本さん。公園でのボランティア活動が、障がいを持った皆さんの、社会とのひとつの接点や居場所として機能していることを教えていただきました。

(できたばかりの公園に地域の人と一緒にクローバーを植える公園ゆきわりそうの皆さん。後ろの木々もまだ小さい:ゆきわりそう提供)

ザリガニ駆除は毎年200匹、実はこのビオトープも手づくり

ハスの花が美しく咲いたビオトープ。この小さな池は、公園ができた時に地域の住民がみんなで手づくりしたものです。予算は少ないけれど、良い公園にしたいという住民の思いで、みんなで土を固め、石を入れ、水を入れ、植物を植えて、徐々に生き物が訪れ始め豊かになっていったそうです。

(ビオトープを作るため、一つ一つ石を運び入れる皆さん:2011年 ゆきわりそう提供)

いつの間にか増えたアメリカザリガニの駆除を始めて4年目。3月から11月まで毎週駆除を続けて、毎年200匹を超える数のザリガニを捕獲しているとのこと(ザリガニの生命力恐るべし!)。

ザリガニ駆除は、釣りざおの先にスルメをつけて、良い匂いで引き寄せたところを網ですくうという、地道なもの。この日も15匹くらいのザリガニがバケツの中に次々と捕獲されていきました。コツコツ地道なザリガニ駆除作業ですが、ゆきわりそうメンバーの中には、ザリガニ釣り名人もいるんだとか!

(ハスの花が美しいビオトープ、いろいろな生き物が訪れるオアシスのよう)
(ザリガニが増えて困ってます看板:理由や影響などが詳しく説明されていて共感度が高い)

ザリガニ駆除の他にも、草取りをしている人たちもいました。前日に廣田さんが刈っておいた草を集めて袋に入れる作業です。牧場からお下がりでもらったという草刈機が大活躍、多くの人の手で公園が守られています。

効果あり、犬のフン対策

犬の散歩でよく利用されるはらっぱ公園、やはり落としものも多くあった模様。廣田さんの工夫は、ここでも光ります。

放置されたフンを発見すると、片付けずに「注意:犬のフンあり」と立て札をつけておいたそう。片付けてしまうと、誰かが片付けてくれるんだと、また同じことが繰り返される。だから敢えてそのまま+立て札で注意を呼びかける作戦にした廣田さん。

再び公園に散歩に訪れた飼い主が始末をしたり、別の飼い主が愛犬家の愛で一緒に始末をしたりすることもあったようです。この作戦が功を奏して、フンの放置はだんだん減っていき、最近では看板を立てることもなくなったということでした。

ポニーの来る公園、地域のイベントも

南長崎はらっぱ公園は、地元では「ポニーの来る公園」としても有名です。毎月2回ほど、群馬にあるポニーパーク カドルからポニーを呼んで、エサやり体験をしたり、馬とふれあえるイベントが行われています。

このポニープログラムを手配しているのも、ゆきわりそうの松本さんたちで、ポニーや保険の手配、受付などの準備をされています。コロナ禍で見送っていた騎乗体験も、そろそろ再開できる頃かなと話してくださいました。

(近くの保育園児で大賑わいのポニーふれあいプログラム:ゆきわりそう提供)

そのほかにも、イベントが盛りだくさんのはらっぱ公園。

夏の終わりには、こちらも恒例になっている「手持ち花火大会」が行われているそう。8月最終土曜日の夜、みんなで手持ち花火をやろうというイベントで、育てる会と周辺の町会が協力して安全を見守ります。都会のマンション暮らしでは、花火もなかなかできませんが、この日ばかりは、花火をする人が集まって公園がいっぱいに。とても賑やかなお祭りのようになるそうです。

また、公園の近くの企業が仕事体験イベントを行ったり、出張プレーパークではらっぱに巨大段ボール基地が出現したり、公園の周囲に植樹した「いのちの森」の観察会が行われたり、地元町会の防災訓練に、昭和の遊びイベント、キャンプスキルを学ぶプログラム、天体観測会やお月見会など、さまざまなイベントが行われてきた、はらっぱ公園。

はらっぱ公園の魅力にひかれて、人が集まり、いろいろなイベントが生まれていくようです。「やりたい人に、やれる場所を提供する」というスタンスで、いろいろな団体とのコラボレーションが実現しているとのことでした。

ほぼ毎日のように公園を見守っているという廣田さん。やりがいをお聞きすると、「体力維持とボケ防止かな。子どもたちがくるのが嬉しいですよ、高齢者も良いけれど、いろんな年代の人がそれぞれ楽しめるのは良いですよね。」と笑顔で答えてくださいました。

(平らで歩きやすい園路、はらっぱの奥には子どもゾーンやトイレもある)
(花のグループが手入れをする花壇、手づくりのネームプレートも良い感じ)
(マンガの聖地ならでは!山内ジョージさんの絵文字モニュメントが楽しい)

【基本情報】

団体名南長崎はらっぱ公園を育てる会
公園名南長崎はらっぱ公園 (東京都豊島区)
面積5,734  m2
基本的な活動日毎週水曜午前10:00-11:00
いつもの活動参加人数20-35人(近隣の障がい者施設から参加)
会の会員数10人
活動内容ゴミ拾い、除草、落ち葉かき、低木の管理、花壇の管理、施設の破損連絡、利用者へのマナー喚起、新メンバーの募集や勧誘、地域のイベント、子ども向けイベント、他団体と連携したイベント、池の管理
設立時期2010年
参加者イメージアクティブシニア、障がい者、職員
活動に参加したい場合は公園内の掲示板をチェックしてみてください
取材・執筆
取材・執筆
椛田 里佳 代表理事

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

子どもの頃から公園好き。母になってからは、子どもたちの声であふれていた近所の公園に、仲間同士で公園愛護会をつくりました。もっと楽しく明るく居心地の良いみんなの公園になるよう、ゆるやかに実験中。大手上場企業を経験した後、上海暮らしや、社会人向けスクール「自由大学」の学長を経て、子どもたちと家族中心の暮らしにシフト。夫を難病で亡くし、公園に関わる仕事に。京都大学農学部卒、名古屋市生まれ。

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