連載コラム
2024/6/19

未来を土から考える

リビングソイル研究所

公園ボランティアに関わるさまざまな人がその活動や思いを綴る「みんなの公園愛護活動 連載コラム」。今回から新しい仲間が増えました。兵庫県姫路市を中心に活動されている、植物を育む土の専門家、リビングソイル研究所の西山雄太さんです。


みんなの公園愛護会のWEBサイトをご覧の皆様、はじめまして。リビングソイル研究所の西山です。兵庫県姫路市で「未来を土から考える」というコンセプトで、植物を育む土の専門家として土を扱う事業をしています。

今回、みんなの公園愛護会のウェブサイトで連載することとなったのですが、その背景には、2020年から兵庫県姫路市の公園部と協働して公園の緑管理のあり方を見直していく取り組みを始めたことがあります。取り組みの3年目にみんなの公園愛護会の椛田さんが姫路に取材に来ていただいた際に、その取り組みを紹介していただきました。記事は下記のリンクからご覧ください↓

公園の管理を担う公園愛護会の方々は、公園の自然(土や樹木、花壇など)の扱いに頭を悩まされていることが多いでしょう。私たちが取り組んでいる姫路市でも同じで、まだ解決には至っていません。しかし、土や樹木の扱い方を知って長期的な視点で公園の自然管理を行えば、公園の緑の質は高まり、管理の手間を減らし、少人数での管理も可能になるはずです。

最初の数回をかけて、なぜ公園の取り組みに関わり始めたのか、試行錯誤しながら続けている公園での取り組みにつながる私の背景を書いておこうと思います。

農業から土。土から庭。庭から公共空間へ

2009年頃から農業に関心を持ちましたが、もともと実家が農家だったわけではなく、農業に何かしら関わりたいという思いから現在のキャリアが始まりました。

自分で農業をしたいわけではなかったので、何をするか考えながら様々な農業の現場を回っていました。その一つがオーストラリアのニューサウスウェールズ州に農業の現場を見に行ったときに、そこで行われている農業や地域での取り組みを見て、日本の農業や地域での取り組みにおいて「土を良くしていくこと」がほとんど行われていないことに気づきました。土の扱い方を変えていくことはこれからの社会や日本にとって必要なことだと課題を見つけて、その課題を解決するためにリビングソイル研究所としての仕事をスタートしました。

最初に着手したのは、地域で出る有機物(草・落ち葉・剪定枝、生ゴミやコーヒーかすなど)を簡易にコストをかけずに土に返す取り組み、コンポスト(堆肥)でした。自然管理をしていく上で資源循環をコストをかけずにできる限り近くで行うことは必要不可欠ですが、この当たり前のことがほとんど行われていません。

最初は公園などでゴミ袋に詰められた落ち葉を回収するところから始めました。次に道路管理で出る刈草を調達できるようになりました。

(取り組み当初 ゴミ袋に詰められた草や落ち葉などを集めることから始めました)

刈草は年間300~400トンです。それだけの刈り草が毎年ゴミとして焼却処分されていました。

2024年現在は刈草堆肥は作っていませんが、数年間続けて作り続けたものが現在も良質な堆肥として残っており、土壌改良や植栽、樹勢回復などの際に活用しています。

(自社での堆肥化の取り組み)

堆肥化の取り組み自体は事業としてやっていくことは難しく自社製造は現在は規模を縮小していますが、分散させて小さい規模で様々な場所で取り組むことで継続した活動となっている例を作れています。

コストも手間もかけない堆肥化

2012年から国土交通省姫路河川国道事務所と協働で行った一級河川揖保川(いぼがわ)の刈草堆肥化。

この取組みは2024年現在も規模を拡大しながら継続していますが、それまで焼却処分場に持ち込んで有料処分していたものが堆肥化することで、約60%(年350万円以上/2015年)のコストを削減しながら堆肥を作ることができます。その堆肥は年1回、配布イベントを行って配布しています。

管理を低コストで行いながら環境改善効果の高い良質な堆肥を地域で使う。そのような取り組みとして現在も続いています。

(国土交通省と協働で行っている揖保川の刈草堆肥化)

姫路市の公園でも同じように資源循環型の管理を進めています。公園内に鉄製のコンポスターを設置し、管理で出る草や落ち葉などをそこへ入れてもらっています。市によるゴミの回収の頻度も手間も減り、管理者も袋詰めの手間が減らせ、自然環境改善効果の高い堆肥ができます。

(公園コンポスター:姫路市公園部による設置)

いずれの取り組みも単体で事業化できるような大きな効果はありませんが、かさばる有機物を土に返す形にすることはどこでも可能です。

オーストラリアで行われていたことで、今後取り組むべきだと今でも思うことは、ゴミの分別です。現地ではゴミ処分の分類に一般、リサイクル、緑の廃棄物の3分類がありました。公共の場での取り組みだけではなく、一般の方々にもゴミを分け、緑の廃棄物(家庭で出る落ち葉、刈草、芝のカスなど)を地域内で循環させるような形をつくることまでできれば理想的です。

土は変化するものという認識が薄いのですが、扱い方が悪いと劣化していきます。有機物が土に返すことは、機能を維持、向上させていくためには必須です。その取組の一つが堆肥化で、私にとっては原点となる活動です。

次回も、人と土の関わり方、土の扱い方の基本について、私の取り組みと一緒にお伝えできればと思います。

取材・執筆
取材・執筆
西山 雄太

食とからだの関係に対する興味がきっかけで、 農業や森林再生に関心を広げる。その後オー ストラリア長期滞在で、亜熱帯雨林の再生に挑む知人の活動に触れ、自生種など風土に適した植栽の取り組みを知る。 帰国後、農業の現場から公園、家庭にいたるまで、「土」に対する基礎知識が培われないままに、管理されていることへの解決策を提示する、「土」の専門家として、足元から未来を考えていこうと起業。リビングソイル研究所 https://livingsoil.jp/

食とからだの関係に対する興味がきっかけで、 農業や森林再生に関心を広げる。その後オー ストラリア長期滞在で、亜熱帯雨林の再生に挑む知人の活動に触れ、自生種など風土に適した植栽の取り組みを知る。 帰国後、農業の現場から公園、家庭にいたるまで、「土」に対する基礎知識が培われないままに、管理されていることへの解決策を提示する、「土」の専門家として、足元から未来を考えていこうと起業。リビングソイル研究所 https://livingsoil.jp/

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