公園ボランティアに関わるさまざまな人がその活動や思いを綴る「みんなの公園愛護活動 連載コラム」。兵庫県姫路市を中心に活動される植物を育む土の専門家、リビングソイル研究所の西山雄太さんの第3回です。
リビングソイル研究所の西山雄太です。2016年姫路市公園部主催のパークマネジメント勉強会、そこで一度話をする機会をいただいたことが、公園に関わる最初のきっかけでした。
当時は公園管理について思うことが多くありましたが、どうアプローチすれば良いかわからず何もできていませんでした。初めての機会をいただいたので、今の仕事を始めた当初から気になっていた公園から出る落ち葉や草などの有機物を循環型管理に変えることについて話をしました。
その時は勉強会で一度話をしただけで公園の実務がなにか進展したわけではありませんでしたが、当時の担当課長である澤田さんが説明した内容に関心を持ってくださり、自宅の庭で試したいと仕事として依頼をいただきました。
2018年から始めた澤田さんの庭にはシラカシやシマトネリコなどの高木に加え、20本程度のベニカナメモチ(レッドロビン)の生け垣があり、公園と言えるほどの樹木量。 当初は「本当にできるのか」と疑念を抱かれていたそうです。
広さはそれほどありませんが、公園の緑管理を省力化する実例として体験してもらうための最適な場となりました。そんなことをしていると、2017年に別部署に移動になった澤田さんが2020年に公園部の部長となって戻ってきました。
それから公園部から声がかかり、公園の諸問題解決を一緒に並走していくこととなりました。
澤田さんからの感想は文末のおまけコラムに掲載しています。
2020年最初のミーティングで知った現状と課題
2020年、姫路市の公園部で最初のミーティングを行い、担当者から現状の課題について伺いました。以下にその内容を箇条書きでまとめます。
- 大小合わせて950か所以上の公園。
- 年に最低3~4回の手入れを市から公園愛護会に依頼。
- 公園愛護会にはお茶代や草刈り機の燃料費として年間10,000円から50,000円の予算
- 公園愛護会の組織率は高いが、高齢化により管理が難しくなり、市への管理依頼が増加。
- きちんと管理されている公園もあれば、放置されているような公園もある。
- 公園部内には現業職員が22名。
- 22名で950以上の公園を3年に1度剪定・伐採(遊具は定期点検)。
- 年間1,000件以上のクレーム対応。
- 外注する予算はそれほどない。
公園管理における最大の課題
当時も今も、公園管理における最大の課題は公園の緑管理です。公園愛護会から姫路市に要望が届き、その要望を受けて剪定・伐採を行うという流れでした。要望が出せるのは3年に1度だけ。そのため多くの場合は「3年に1度しか手入れできないので、木を最大限小さくしてほしい」というもので、それに応じて強剪定(ぶつ切り)が行われていました。

強剪定の日常化と姫路市民の求めるものの乖離
短期的には樹木の枝葉を減らし、落ち葉や高木問題を解消するように見えますが、樹木管理の観点からはリスクが高く、その後の生育をコントロールできなくなるため、長期的には問題を先送りするだけとなります。適切な位置で切られていないため、幹や太い枝の腐朽の発生は防げず、樹木にとって健全に生育できない状態が続くこととなります。
また兵庫県立大学と姫路市公園部で市民向けのアンケートを取ると公園への改善要望として最も声が多かったものが、「木陰のある心地よく過ごせる公園」(27%)でした。それに続くのは「桜や紅葉、落ち葉などの季節感を感じる公園 」(23%)と乳幼児を育てる保護者の50%は季節感を感じる場所で気持ち良い木陰がある公園がほしいという声があることが改めて分かりました。
(2022年姫路市の乳幼児の保護者 N=1,014 3,000名への郵送方式)
強剪定は管理する地元の愛護会からの要望。ユーザーである市民が求めるものと全く違ったものとなっていくことになります。このあたりのギャップを埋めることが求められていると改めて思います。
樹木管理の解消に向けて初年度の取り組み:高木の管理
これまでの姫路市の公園は(おそらく日本国内の大半の公園も)地域(愛護会)の要望で樹木を管理してきました。要望を伝える方は専門知識があるわけではないので多くの場合、樹木を小さくすることを求められて、それを受けた市は要望に答えて強剪定をしてきました。
本来植物を管理していく上では、要望を踏まえて長期的視点を交えて管理する方向性を決めなければいけないでしょう。
公園に植えられる高木は50年以上は生育する植物です。3年に1度の強剪定を続けると50年で16回。生育する期間の間同じことをし続ける必要が出てきます。

剪定講座を実施した公園にはアラカシが植えられていたのでアラカシを題材にして説明と実演をしました。剪定方法としては基本的な剪定の考え方と切る位置。それとは別にアラカシを10年、30年と長期的に考えたときの剪定の方法についての実演をしました。
このときはあくまで実演を見てもらっただけ、このときの実演を踏まえて取り組みがされるかどうかはまだわかりませんでした。
低木管理についての提案
剪定講座を実施した公園には、アラカシの高木の外周にヒラドツツジの生け垣が配置されていました。市では3年に1度、トリマーで刈り込む管理を行っていましたが、これでは低木が壁のように育ち、内部に実生樹が育つ問題が発生します。


初年度は時間がかかるものの、枝を抜きながら剪定する方法を提案しました。この方法は初年度は手間がかかりますが、3年後、6年後と管理の手間が減り、高さや密度の調整が容易になります。


ゴミを減らす取り組み 有機物の循環型管理について
リビングソイル研究所では、自社事業で出る有機物を全量土に還す取り組みを行っているため、公園でも同様の循環型管理が可能だと考え提案しました。
姫路市からは取り組みを実施してほしい公園部の職員の方々とゴミを扱う環境局の職員の方にも来てもらい、取り組みについて問題がないかを確認しました。
落ち葉や刈草の堆肥化や枝葉の粉砕によるウッドチップ化とその活用について。枝葉の炭化の取り組みを見学してもらい、この提案は2021年以降、実際に多くが取り組まれ始めました。

2020年の取り組みについての結論
技術的な解決は高木についてはまだ可能性がありそうだが、低木も含めて全体を実施していくのは不可能だという声が現業職員の方々からあがってきました。
自分自身が管理に関わって全体を認識できないため、初年度は手探りで技術的な解決を検討しました。しかし、それ以前に外周に植えられている低木は本当に必要なのかという話や、そもそもの樹木の配置や樹種選定に関する課題などが浮上し、技術的に解消できても「それを解消する意味があるのか?」という根本的な疑問が生じました。
公園での樹木管理については明確な方針があるわけではなく、地元の要望に応える形で進められている現状が分かりました。この現状を変えるためには、要望への対応方法を技術的に改善することが必要だと考えましたが、振り返ってみると、正直うまく行ったとは言えません。
手探りの中始まった2020年1年目の取り組みを踏まえて何をしていくか。
次回のコラムは2021年での取り組みについてまとめていきます。
おまけコラム:当時の公園部長 澤田勝也さんより
【はじまり】
公園を造ったことがない公園愛護会活動も知らなかった私が、2016年4月門外漢の公園整備課長となった。自分自身の疑問と矛盾(人口減少に向かう社会で、なぜ住民一人当たり10m2を目標に公園を増やし続けるのか)も解きたくて、大阪府立大学(現大阪公立大学)武田重昭先生とNPOスローソサエティ協会米谷さんの協力を得て、公園部内で職場内研修「パークマネジメント勉強会」を始めた。その研修で、禁止事項(〇〇してはいけない)看板だらけの「がんじがらめの公園」、人口減少と高齢化による「公園愛護会活動の衰退」という社会的な問題を知ることになった。
【西山君との出会い】
同年12月の研修、米谷さんが始めた岩端地区パークマネジメント準備会(現『城の西パークマネジメント』)の活動で西山君と出会った。「姫路市の公園行政(ビジョンや樹木管理マニュアル)への批判」など耳の痛い話を聞かされ、第一印象はあまり良くなかったような気がする。(自信過剰で攻撃的な若者というイメージでした(笑))翌年2017年4月、私は区画整理課長へ人事異動となった。
【庭の樹木での実験】
築10年を過ぎた澤田家の庭は、毎年春先に造園業者に頼んで剪定していましたが、樹木が年々巨大化し夏頃には家が隠れるジャングルのような庭でした。そこで、西山君の緑に対する「熱意と理論」に興味を持っていた私は、試しに我が家の剪定を、土の専門家と知りながら、造園業者ではない西山君にお願いしてみた。2018年6月、西山君による剪定の日。なんと、一人軽トラックで現れた。これまでは、造園業者の親方が剪定の指示をだし、庭師3人が延二日かけて、剪定バサミでチョキチョキしていたのだが、その日は西山君がのこぎりで伐採し施主の私が伐採樹木や剪定枝葉を軽トラックに積み込んだ、1年目の伐採量は凄かった。
剪定作業中には、国交省河川国道事務所と取り組んだ「堤防雑草の腐葉土づくり」や、オーストラリアやハワイの「樹木管理の考え方」などを教えてもらった。澤田家の剪定作業は年々楽に感じるようになり(剪定材量の軽減)、夏場でもジャングルにはならず、美しい自然な樹形に育っていった。徐々に、私のなかで、西山君が若造から信頼できる人物へと変わっていった。それ以降、澤田家の剪定は西山君にお願いしている。
【公園レジリエンス】
2020年4月公園部長となった。そこには、公園整備課の若手職員と武田さんが3年がかりでつくった「姫路市パークマネジメントプラン(2020年(令和2年)6月」があった。4年前からスタートした職場研修のバトンがしっかりと引き継がれていたことに感謝した。公園部長となった私のミッションは、みんなで作り上げた姫路市パークマネジメントプランの実践「公園レジリエンス」をスタートさせることであった。「公園レジリエンス」では、日々の苦情対応でモチベーションが低下する職員の意識改革から始め、課題解決の取り組みを実践し継続しながら、公園の再生を考えた。「逆境や困難な状況に負けない人間力ある職員を育成すること」と「地域と力を合わせ公園の取り巻く困難な状況を改善し、持続性のある公園の管理・運営を実現すること」という強い思いで挑んだ。
最初の実践は、市民からの苦情が一番多い「樹木剪定」。苦情対応で強剪定が繰り返され、木陰のない公園が増えていくことを阻止するためにどうすれば良いのか。その時最初に思い浮かんだのが西山君の顔でした。我が家の剪定で彼の考え方と理論に確信を持った私は、公園レジリエンスで樹木管理の講師として西山君を起用することにした。
【公園への思い】
最近読んだ本「パークナイズ・公園化する都市」では、都市は今「公園化」したがっていると書かれていた。確かに道路や河川では、公共空間活用が進みどんどん公園化(パークナイズ)されて久しい。でも私には、「規制が少ないはずの公園の実態は・・・」と不安も感じる。人口減少社会では増加していく空き家・空地によるまちのスポンジ化が進み、より一層都市は公園化していくかもしれない。だからこそ、公園の持続可能な管理運営の仕組みづくりが重要であり、公園が地域の社会的包摂の場に再生されることを願っています。澤田勝也さん(2023年3月退職、現在は手柄山温室植物園園長)