2025/11/28

「自分たちの公園」と思える仕組みづくり実践中!

船岡山公園(京都市)

各地の公園ボランティア活動を紹介する「となりの公園愛護会」。今回は、京都市の「Park-UP事業」を活用した、毎月第3日曜日に開催する「OPEN PARK」と日々の公園での取り組みから、街中にコモンズをつくる皆さんを取材しました。

コモンズとは、みんなの共有財産である公園(公共空間)をみんなで自治する仕組みや、場所、コミュニティ、資源という意味で使われています。

応仁の乱の陣地にもなった史跡公園、船岡山公園

京都市北区にある船岡山公園(ふなおかやまこうえん)。織田信長をまつる建勲神社がある史跡公園です。山と一体になった公園で、上に登ると京都市を一望することができます。京都市の街中にありながら、自然を感じられる素敵な公園です。

一方で、史跡公園であることや応仁の乱の陣地となった歴史があるためか、地域からは少し近づきにくいイメージのある公園でした。近隣の小学校では「子どもだけで行ってはダメ」という約束がありました。しかしその約束も、4年前から始まった社会実験の積み重ねも影響してか、今年の7月からは「子どもだけで行っても良い」場所へと変わりました。

(北には北大路、西には千本通、大徳寺も近く、街中にある大きな公園です。自然がたくさんで癒されますね)
(左にあるすべり台は、京都の公園の中でもかなり古いものだそう)
(船岡山公園の全体図)

公園が持つ課題の発見

船岡山公園で仲間たちと一緒に一般社団法人FUNAOKAYAMA COMMONSHIPを立ち上げて活動しているSTUDIO MONAKAの代表 岡山泰士さん、スタッフの三上咲良さん、奥山幸歩さん、大塚崚太郎さんにお話をお聞きしました。

(白いTシャツを着ている方:STUDIO MONAKA代表の岡山さん、左から順番に奥山さん、大塚さん、三上さん)

MONAKAは4年前、船岡山公園にある旧公園管理事務所に拠点を構えました。移転前の事務所が団地の1階にあったため、街と接点を持つ機会があったそうです。建築家として公共空間をデザインすることに関心を持っていた時、京都市に遊休施設となっていた船岡山公園の旧管理事務所を活用して、公園をひらきたいという動きがあり、旧公園管理事務所を移転先に選んだことをお話してくれました。

移転してから、「新しい公共空間の在り方とは何か」という答えを探るため、まずは3年間、公共空間や地域のことをリサーチをしようと思い、毎月第3日曜日に公園をひらく「OPEN PARK」イベントをスタートしました。公園をひらく中で見えてきたのは、公共空間の自治を取り戻す、再構築することの必要性だったといいます。

「公共の自治を取り戻し、再構築する」とは?

岡山さんが紹介してくれたのは、徳島大学の田口太郎先生による「自治の空白」に関するお話でした。人口減少によって行政サービスや財政に余裕がなくなるにつれて、公園の維持管理が難しくなり、これまで支えてきた愛護会や地域住民の活動も次第に小さくなっていくことが予測されています。これまで当たり前に自治されてきたものが、空白化していくことを問題視しているとのことでした。

(出典:田口太郎,「関係人口」をいかに地域づくりに活かすのか,総務省,2022年1月21日(参照2025年10月2日))

「誰のものか分からない、誰も面倒を見ていない公園がどんどん増えていくんかなと思っていて。公園の自治を行政サービスじゃなくって、市民が主体的に運営する場所に切り替えていく必要があるんじゃないかな。」と話してくださった岡山さん。

みんなの共有財産であったはずの公園が、サービス化されて、地域に住む人にとって、どんどん他人事になってしまっている現状に、人々の公園に対する愛着や居場所、気持ちや思いが失せていってるんじゃないかなと危機感を持たれています。そんな中で「自分たちの所有感を取り戻したいな、そのための仕組み作りって何があるかなあ」と考えていることをお話してくれました。

一般社団法人FUNAOKAYAMA COMMONSHIPの誕生

MONAKAが主体となって4年前から取り組んでいる船岡山公園での社会実験も、京都市のPark-UP事業として取り組むことに。(Park-UP事業についての記事はこちら!

これまでは民間企業として、自分たちのアイデアと予算で公園に関わることができたMONAKAは壁にぶつかります。それは、Park-UP事業はあくまでも地域住民が主体となった仕組みであるがゆえに、民間企業のMONAKAは「地域のサポーター」という立ち位置にしかなれないということです。

「サポーターという立場だと、私たちは、地域から望まれたことだけを実行することしかできない。私たちの意志と地域とが、協働しながら自治をつくっていきたいと思っている。」と、地域の主体者にはなれないことにモヤモヤしていたことを教えてくれました。

そこで自分たちも地域側になるために、OPEN PARKで出会った地域に住む仲間たちとともに、地域法人として一般社団法人FUNAOKAYAMA COMMONSHIPをつくりました。船岡山公園近隣に居住する大学の教授やまちづくりに関わる人、近所の商店街の役員の方などで構成されています。

現在はこの法人を核に、公園運営委員会を立ち上げていくことを検討しているそう。法人ができたのは、今年の2月。これから、収益スキームの構想やいろんな企みをしていきたいと思っているそうです。

公園をもっと楽しく!船岡山OPEN PARK

MONAKAが旧公園管理事務所に拠点を置いてから、毎月第3日曜日に開催しているのが「船岡山OPEN PARK」。2022年から晴れの日も雨の日も、大雨の日も開催し続けています。(船岡山OPEN PARKの様子はこちらから!

「4年目の節目として、今年度から「公園をもっと楽しくするマルシェ」というサブタイトルをつけました。このタイトルには、ふたつの意味があると思っていて。ひとつは、ハレ(非日常)として、その日の公園をもっと楽しくすること。もうひとつは、出店者の方や、遊びに来た人たちが、その後のケ(日常)の暮らしへとつながるきっかけとなる窓口であること。だからこそ、「公園ってこんなこともできるんだ」「じゃあ、こんなこともできるかも!」と思えるような企画や空間を目指しています。」と話す大塚さん。

2024年の8月頃からは月ごとにテーマを決めて開催しています。これまでに「こわくない夜の公園」、「大もちつき大会」、「ハッピー!オータム!ピクニック!」、「コーヒーが美味しい公園」といったものが行われてきました。

お伺いした9月のテーマは「ピン!ポン!パーク!!」でした。公園にあるベンチやテーブルを卓球台と見立てて、公園に集まってきたみんなで卓球大会です!

(船岡山OPEN PARKのポスター:9月のピン!ポン!パーク!!にお伺いしてきました!)
(ベンチが可愛くなっていました。卓球したい!という気持ちが湧いてきます)
(皆さん卓球に夢中!)
(なんとラケットから手作りです!そこにあるものを使って、思い思いのラケットを作ります)

マルシェをするようになったのは、マルシェというツールが、地域のプラットホームをつくっていくと思ったからだそう。

「地域の声を聞きたいから対話しましょうって言ったって誰もこない。でもマルシェがあると、気軽に公園に足を運んでもらえるなと思って。定期的に公園に来る関係を作れたらいいなと思っていたんですよね。」と岡山さん。

しかし、一番最初のOPEN PARKは、いすとテーブルと水のみだったことも教えてくれました。回数を重ねていく中で、徐々にお店やチャレンジしたい人が集まってきたそう。

お伺いした時は、複数のキッチンカーやワークショップをする人、のんびりする人、卓球する人、DJなど、たくさんの人で賑わっていましたが、この賑わいは4年間という時間をかけて生まれたことを知りました。今では運営に学生も関わってくれているようです。

(ブラジルの音楽とダンスと格闘技を組み合わせたスポーツ「カポエイラ」を教えてくれるワークショップ。公園でブラジルの文化を知れるなんて!)
(ブリトーを販売するWonder Dining SOWのおふたり。大人気のため、伺った時には売り切れでした…。)

毎月第3日曜日と決めていることで、他の団体がイベントを実施する時に、OPEN PARKと同じ日に合わせてくれるようになったそう。伺った9月も別のイベントが同時開催されていました。

毎月定期的にOPEN PARKを設定することで、「毎月第3日曜日にOPEN PARKがある」ということが、地域の日常・街のシステムになっていくようです。これを岡山さんは「見えないキーフレーム」と呼んでいます。

公園の自治を取り戻す:見えないキーフレーム

「公園での活動をする中で、自分たちがつくったプラットフォームの中にいてほしいわけじゃなくって。この場所から偶発的にコモンズが生まれたり、自発的な動きを生んでいくための見えないキーフレームをどういう風に構築するかを探っているんです。」とお話してくれた岡山さん。

公園の自治を再構築するうえで、「ここは自分たちのものだ」という所有感を持って活動するための仕組み作りを行っているそう。見えないキーフレームをつくることを「ここは公園なこともあって、なんとなく新しい遊具を作っている感覚です。「ここで遊べますよー!ここもよく考えてみたら楽しそうですよー!」って」と岡山さん、大塚さんが例えてくれます。

(4年続くOPEN PARKを通して「ここは自分たちの公園だ」と思っている人は確実に増えていそうです)

船岡山公園での日々:自然と集まってくる仲間たち

そんな見えないキーフレームをつくるMONAKAの、船岡山公園での日常を伺いました。MONAKAは船岡山公園に事務所を構え、自主的な公園管理業務として、巡回やトイレットペーパーの補充、公園に来て困っている人の対応などを行っています。

それだけではなく、さらなる公園利活用のため、3月からは休憩ができる「シエスタ(スペインなどの地域で習慣となっている長い昼休憩)」という空間を作ったり、4月からは「STOA」という気軽に立ち寄れる売店をオープンしたそうです。

夏休みにはシエスタに小学生たちが集まって、お喋りする光景が。子どもたちがあまりにもたくさん来る日には、児童館のスタッフになった気分だといいます。

(シエスタ:夏休みや放課後は子どもたちがここに集まって来ます。パークファニチャー(ベンチやテーブルのこと)が置かれています)
(STOA:公園に訪れた人たちとつながるきっかけになる場です)
(STOA:ジュースやコーヒー、お菓子を販売中。OPEN PARKの日は子どもたちが店番をしていました)

事務所の少し奥には、工房があります。ここには、もの作りをしたい人が集まってくるようです。工房長もいるんだとか。

近所に住んでいるお兄さんは「コモンズディレクターをしたい!」と朝活を実施するようになったそう。

コミュニティ通貨「クワガタ」の発行も!

実は船岡山公園では、街や自然、誰かのために行動すると受け取れる、コミュニティ通貨「クワガタ」を造幣・発行しています。(「クワガタ」についてはこちらのnote記事で紹介されています!コミュニティ通貨クワガタについてno.1|りょくまゆ

船岡山公園に遊びに来た子どもたちに、清掃、公園内のクワガタ探しといったお仕事をしてもらい、クワガタを渡しているそうです。

(ボードに書かれたクエストを達成すると「クワガタ」がもらえる!)
(ガチャガチャをまわして「クワガタ」をゲットすることもできます)

「プロジェクトががっつり固まっているわけではなくって。誰がどんなことをしているか把握できなくなってきている。それがいい。」と岡山さんは言います。自分たちがコントロールして管理している間は、自分たちのプログラムですが、管理できない範囲が広がっていくほど、地域が充足している状態だと考えているからだそうです。

「そのために、自然発生的な動きが起こるようなプラットホームを整備していくことに気を配っています。例えば、屋根がかかっているだけのちょっとしたスペースを「シエスタ」と名付けて、看板を設置して、ベンチを置きました。ここ最近、自由にくつろいでくれている人をよく見かけるようになりました。」と大塚さん。見えないキーフレームをきっかけに、地域に住む人が船岡山公園に集まってきているようです。

楽しんだその先に自治が生まれる

いろんな人が集まって、それぞれがやりたいことを自由にやっている船岡山公園。少しずつですが、コモンズのような状態ができていると実感を持っているといいます。しかし、だれのものでもあり、だれのものでもない公園で、半私有的な場所・コモンズを作るのはやはり難しい。どうしたら続けていけるのか、定期的に海外からゲストを招き、ここで一緒に学んでいきたいと思っていることも教えてくれました。

自治の空白を埋められる、見えないキーフレームをどのように構造化し生み出していくかは、今も船岡山公園で実験中。「上手くいくと、自治的な場所が生まれるためのノウハウを全国の公共空間に提供できるのでは」と考えていると岡山さんは言います。

楽しむことが大事。giveじゃない。自分たちが楽しんでいる先にその場があることが必要。」自治の構築のために責任をもって伴走する建築家としての側面と、サービスではなく、コモンズをつくっていくことを楽しむ地域側としての側面。どちらも持った一般社団法人FUNAOKAYMA COMMONSHIPはじめ、STUDIO MONAKAの皆さんでした。

船岡山公園の日常は、「船岡山日記」としてnoteで更新されています。船岡山日記|noteこちらからぜひご覧ください!

【基本情報】

団体名一般社団法人FUNAOKAYMA COMMONSHIP
公園名船岡山公園 (京都市北区)
面積56,284 m2
基本的な活動日平日10:00~17:00。OPEN PARKは毎月第3日曜日の11:00~15:00開催。(変動の可能性あり)
いつもの活動参加人数80〜130名(OPEN PARK参加者)
活動内容ゴミ拾い、トイレ清掃、地域のイベント、他団体と連携したイベント、遊びの見守り
設立時期2025年(船岡山公園での活動は2021年から)
主な参加者近隣に住む地域住民
活動に参加したい場合は毎月第3日曜のOPEN PARKにお越しください!
Instagramをチェック!
取材・執筆
取材・執筆
田中 優衣

サードプレイスやコミュニティに関心があり、人と人がゆるやかにつながる場の魅力に惹かれている。ライターに興味があったため、文章を書くことに挑戦してみたいと思いレポーター活動に取り組むことに。レポーター活動を通じて、公園という公共空間がどのように活用されているのかを学びたいと思っている。活動の中でさまざまな人と出会えることが嬉しい。龍谷大学経営学部所属。

サードプレイスやコミュニティに関心があり、人と人がゆるやかにつながる場の魅力に惹かれている。ライターに興味があったため、文章を書くことに挑戦してみたいと思いレポーター活動に取り組むことに。レポーター活動を通じて、公園という公共空間がどのように活用されているのかを学びたいと思っている。活動の中でさまざまな人と出会えることが嬉しい。龍谷大学経営学部所属。

取材・執筆
みんなの公園愛護会の書籍紹介 学芸出版社

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

みんなの公園愛護会初の書籍。「推しの公園を育てる!公園ボランティアで楽しむ地域の庭づくり」が学芸出版社から刊行されました。全国各地の推しの公園活動やボランティア運営のヒントが紹介されています。ぜひ手にとってお読みください。https://park-friends.org/books/book1/

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