連載コラム
2024/7/5

土から庭へ、庭から公共の場の自然管理へ

リビングソイル研究所

公園ボランティアに関わるさまざまな人がその活動や思いを綴る「みんなの公園愛護活動 連載コラム」。兵庫県姫路市を中心に活動される植物を育む土の専門家、リビングソイル研究所の西山雄太さんの第2回です。


土にまつわる社会問題は私たちの身近に多くありますが、農業の土壌管理や有機物のゴミ問題に続いて取り組み始めたのは「庭」でした。

庭が迷惑なものとなっている

高度経済成長以降、戸建てには必ずと言って良いほど庭が作られてきました。しかし、その庭の多くは、現在の生活者にとって大変な手間と維持費のかかる負担となり、相続したあとは「庭は要らないからなくしたい」という声が多くあります。実際に昔の庭の解体の仕事も多く見られます。

(昔の手間と費用のかかる庭の例)

その現状を反映して、近年の住宅の外構には駐車場やカーポートなど、必要な機能だけを持たせる設計が増え、かつての土と石と植物の庭から、コンクリートと砂利とカーポートに変わり、土はできる限り覆われるようになっています。

庭に土を。

土がある庭は本当に維持が大変でコストがかかるものなのでしょうか?私が今、庭の仕事で掲げているコンセプトは、「庭に土を。」です。

庭についてのバックグラウンドも修行もなく始めた取り組みでしたが、土と植物がある空間を維持管理するという点では、庭や農地、公共の緑地も違いはありません。住宅の庭は、そこで暮らす人にとって最も身近な土であり、自然です。住まい手がその場とうまく付き合っていけるように、「庭に土を。」を推奨しています。

(庭に土を。)

土がある空間を面倒なものではなくすためにできること

植物や土がある空間を嫌う理由を一つ一つ解決していくことが必要です。

  • 毎日の草抜き → 草管理を最小限にできる環境設計
  • 毎日の水やり → 土の保水力を高め、有機物マルチングで最小限にする
  • 専門家に依頼する維持管理 → 住まい手の日常管理である程度の維持ができるようにする設計・計画をつくる
  • 分かりやすい管理方針 → 植栽の剪定方針を簡略化して誰にでもできるようにする
  • 落ち葉や剪定した枝のゴミを出さない → 落ち葉や枝を土地内に還す循環型庭管理
  • 適切な樹種選び → 敷地の広さや日照条件、庭の使い方に合わせて選定

庭が嫌な理由に対する回答を持ち、提案していけば新しい住宅の小さい空間に土を残し植物を植える選択肢を取る人は間違いなく増えるはずです。一つ草抜きを減らす環境整備の例についてまとめてみようと思います。これは庭だけでなく、公共空間管理においても参考になる考え方となります。

毎日の草抜きを減らす環境整備の例:

土があると草が生えます。裸地の状態を作れば、その通りになってしまいます。多くの雑草は一年生の雑草で、裸地や耕された農地に生えますが、山の中ではほとんど見かけません。裸地を作らず、地表面に光が当たらない山の中のような環境をつくることが必要です。

(2012年春。4mの樹木が1本と2mの樹木が1本。残りはハーブ類。土が見えている部分が多い)
(2023年の同じ場所 様々なサイズの樹木に変わり、足元はグラウンドカバー植物で覆われている。落ち葉は全量植栽周辺の土に返される:いずれもPARLAND COFFEE 兵庫県姫路市)
  1. 植栽する植物を高木・中木・低木・下草など複数の階層に分ける
  2. 複数の階層の植物を組み合わせて植え、地表に当たる日射量を減らす
  3. 土の表面は有機物(落ち葉やワラなど)でマルチングする
    (植栽初期は植物残さを粉砕したウッドチップを使用)
  4. 2〜3年後、ウッドチップが分解して土に還り、低木や下草類が広がり、地表面が緑で覆われる
  5. 植物が落とす落ち葉はそのまま土に返し、枯れ枝は細かく刻んで土に撒く

植える植物の量によりますが、この環境を作れば、最初の土に多年生植物の球根などがない場合、ほとんど雑草が生えない状態が作れます。写真の様に大きな植物を使わなくても小さめの植物でも同じように植栽することが可能です。

今のニーズは「手入れを最小限」

庭の依頼をくださる方々も多くが忙しく、日常管理ができるか不安を感じています。しかし、植える樹木の選択や環境設計次第で、忙しい現代の人々でも最も身近な自然を楽しむことができます。

(手間を減らしながら土や植物が身近にある空間をつくる例. 福富建設モデルハウス (岡山県))

私が取り組んでいるのは、庭を作ることではなく、土のある空間を最も身近な場所に作ることです。そこで植物や土に触れることに慣れ、庭から公共の場へと手を広げていくための装置として庭が機能してくれればと考えています。

(庭を入口に公共空間の管理へ)

公共空間の管理を変える取り組み

公共空間の緑も、庭と同じように管理方針を変えて、作り方、維持管理の仕方などを変えていけば相当省力化しながら、質の高い空間を作ることができるはず。そう思い付けていた2020年、姫路市の公園部部長(当時)の澤田さんに誘われて取り組みが始まりました。

次回からは、姫路市で取り組んできたことをご紹介していきます。

コラム:土の管理の原則 

① 裸地を作らない

日本の公共の場は裸地や荒れ地が多いです。Googleマップで航空写真に変更してみると、地域に広い砂漠のような場所があれば、それは公園や学校の校庭かもしれません。そうした場所には当然樹木が植えられていますが、広場部分の多くが裸地で、樹木の周辺も落ち葉が掃き清められて裸地のようになっています。

    土の状態が悪くなる最大の原因は、裸地で管理されることです。これにより、土は雨水や風で流されやすくなり、土壌侵食が起こりやすくなります。また、雨水や人、動物の踏圧などの影響も強く受けます。

    裸地を作らないように管理することを考える必要があります。裸地を作らない管理は長期的に見て樹木の生育が良くなる、管理費用削減、水の浸透性が高まるなど様々な面でメリットがあります。

    取材・執筆
    取材・執筆
    西山 雄太

    食とからだの関係に対する興味がきっかけで、 農業や森林再生に関心を広げる。その後オー ストラリア長期滞在で、亜熱帯雨林の再生に挑む知人の活動に触れ、自生種など風土に適した植栽の取り組みを知る。 帰国後、農業の現場から公園、家庭にいたるまで、「土」に対する基礎知識が培われないままに、管理されていることへの解決策を提示する、「土」の専門家として、足元から未来を考えていこうと起業。リビングソイル研究所 https://livingsoil.jp/

    食とからだの関係に対する興味がきっかけで、 農業や森林再生に関心を広げる。その後オー ストラリア長期滞在で、亜熱帯雨林の再生に挑む知人の活動に触れ、自生種など風土に適した植栽の取り組みを知る。 帰国後、農業の現場から公園、家庭にいたるまで、「土」に対する基礎知識が培われないままに、管理されていることへの解決策を提示する、「土」の専門家として、足元から未来を考えていこうと起業。リビングソイル研究所 https://livingsoil.jp/

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