(黎明橋公園で活動するイクシバ!プロジェクト恒例の集めた落ち葉での遊びの風景)
みんなの公園愛護会理事の跡部です。
このサイトではこれまで、書籍の紹介や自分たちの考えの発信は行っていませんでしたが、今後はこの形式で時折紹介していこうと考えています。
きっかけは、中嶋愛さん(スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビュー日本版 創刊編集長)と、虎ノ門グラスロックにて公園について意見交換したときに紹介してもらったこの本。『遊びと利他』北村 匡平 著(集英社新書)です。
書籍の紹介文は以下のようになっています。
【「コスパ」と「管理」から自由になるために】
「コスパ」「タイパ」という言葉が流行し、職場や教育現場、公共施設や都市でも管理化が進む昨今。
そうした流れは子供たちが遊ぶ「公園」にも押し寄せている。
安全性を理由に撤去される遊具が増え、年齢や利用回数の制限も定着しはじめている。
効率化・管理化は、子供たちの自由な発想や創造性を損なう。そのような状況に抗うには、どうすればよいのか。
そのヒントは「利他」と「場所作り」にあった。東京科学大学の「利他プロジェクト」において、全国の公園と遊具のフィールドワークをしてきた著者が、他者への想像力を養う社会の在り方を考える。
『遊びと利他』では、3つの遊び場で子どもの遊びと遊具の関係性についてのフィールドワークが紹介されています。
・第二さみどり幼稚園(福井県敦賀市の幼稚園)
・羽根木プレーパーク(世田谷区プレーパークの発祥の地)
・森と畑のようちえん いろは(大阪府南河内郡川南町にある森のようちえん)
子どもをプレーパークで遊ばせて暮らした身としては、子どもの自由な遊びについて共感する描写がたくさんあります。
著者である北村匡平さんは、以下のように書いています。以下、引用します。
危険性を排除し、効率や安全を求める思考は、人間を形成する重要な場所である「遊び」の空間にまで浸透してきています。
最後の砦だった遊び場も、この20年ほどで激変しました。いまの時点では、なぜ公園がこうした効率化やリスク排除と結びつくのか、ピンとこないかもしれません。しかしながら、私は公園という空間や遊具のありようが、大きく変質していることに危機感を覚えています。
・・・中略
公園は時代の変化を体現する場所であり、社会の縮図でもあります。遊び場は、私たちの社会を映し出す鏡といってもいいでしょう。本書では、効率化や管理化とはもっとも対極にあるように思われる子供の遊びの空間を内側から観察することで、私たちの社会の危機的状況を描き出したいと思います。
・・・中略
私たちの未来をになってゆく子供たちの遊びの豊かさを取り戻すことーー。そのためにこの本は書かれているといっても過言ではありません。そこで注目したいのが「利他」です。
・・・中略
遊び場という誰もが日常で関わる空間を舞台に、いかにして利他が生起するのかを考えたいのです。
本書は「利他的な遊び場とそうでない遊び場はどう異なるのか」、あるいは「利他的な遊具とそうではない遊具はどう異なるのか」という視点で、遊び場や遊具を介した遊びを見ていきたい。
■
この本の問いである「公園が危険性を排し、効率化と安全な場所になっているのにどう対処するのか?」に自分が答えるなら、「公園ボランティアなどの草の根の公園自治が解決策!」と答えたいです。(ポジショントークのように思われるかもしれませんが……。)
この本で、利他のある遊びが実現している事例として取り上げられている3つの場所には、その場所をケアする人間が介在しています。「第二さみどり幼稚園」と「森と畑のようちえん いろは」には先生や保育士さんが、「羽根木プレーパーク」にはプレーリーダーがいます。
公園の安全性や全体最適化を進めると、ルールやマニュアルで明確でない事柄は禁止されがちです。現場に管理者がいない場所では、画一的なルールによる制約も多くなってしまいます。だからこそ、ゆるい運用を行うためには、現場で状況ごとに判断しケアを行う場所を育てる人の介在が不可欠です。この本にも以下のように書かれている。
利他を生み出す環境をつくるには、余白を組み込むことで偶発性を高め、計画・管理を半ば手放した「ゆるい」設計を目指すこと、そして何より「あそび」の要素を忘れないことである。
以下のような、うまくいっている公園ボランティアの信条とも重なるメッセージです。
「無理せず、楽しく!」
「続ける秘訣は、楽しむこと」
「自由でゆるさが大切。楽しく活動するのが一番!」などなど。
これは公園ボランティアの皆さんが、「ゆるい」設計をして、「あそび」の要素を忘れない運営に経験則から行き着いていることの証です。
公園がつまらないと不満を言うだけではなく、地域住民が主体的に関わり、自分たちの手で公園をより良くしていく公園ボランティアの活動は、まさに利他的な行為と言えるでしょう。公園の自由度や個性を生み出すのは、こうした地域社会の利他性です。(だからといって、公園ボランティアに、なんでも頼りすぎたり押し付けたりしないでね)
『推しの公園を育てる!』でも書いたように、公園で遊ぶ時代から、育てる時代へ。
公園ボランティアの皆さんが自然と運営していることが、東京科学大学未来の人類研究センターで研究されている「利他学」とつながる深くて、最先端の分野だということを知って、嬉しくなって、誰かに話したくなって、この記事を書きました。